シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第13話】シュヴァルツ・ウィンザー





 シュヴァルツ・ウィンザー。その人物が何者なのか、彼女について俺は姉さんに尋ねた。



 昔々、悪の魔法に魅入られた魔女がいました。
 魔女はその力で、人や動植物を魔物にして自分の下僕としていたのです。
 力を蓄えた魔女は150年前、世界にその名と存在を知らしめることになりました。
 潜伏地としていた森に隣接した村3つを一晩の間に攻め落とし、更に魔女は勢力を拡大していきました。
 世界の各国は、魔女討伐に躍起になりました。彼女を滅した者が、世界を統治する者になるのだと信じて。
 しかしまるで歯が立ちませんでした。国が滅ぶ度に魔女にその戦力が奪われていきます。

 無差別大量殺戮の最中、魔女に目を付けられた勇敢な戦士達は心臓を奪われ、死なない兵隊に作り替えられてしまったのです。 肉体が滅んでも、心臓が魔女の元で動き続ける限り、塵芥とマナによって身体が再生し復活するのです。

 この世界の人間の4分の1が魔女の手によって滅ぼされたのは、魔女が最初の村を壊滅させてから僅かひと月足らずのことでした。

 世界が魔女の脅威に怯える中、突如舞い込んだ魔女討伐の報せ。
 シュヴァルツ・ウィンザーという女性が単独で魔獣を殲滅し、自分の命と引き換えに魔女の命を刈り取ったという。
 あまりに突然な朗報に、人々は戸惑いを隠せなかった。しかし魔獣達は姿を見せなくなり、被害の声も聞かれなくに連れ、話は真実として語られるようになっていった______。




 「とまぁ、この学園の由来となった人の昔話はこんな所だろう。あまり詳しくは覚えてないが、概要としてはこんなものだろう。すまないな。なにせ昔のことだ」

 けっこうくわしく教えてくれたような気がするんだけど……。姉さんが申しわけなさそうに言う。

 「姉さんが悪いわけじゃないんだし、謝らないでよ。母さんなら詳しく知ってるかもしれないけど……」

 「今のお母様に言っちゃおー。お母様は昔の人だから、昔話に詳しいんだって〜」

 「なっ、そんな風に言ってないだろ!」

 「落ち着けショー。隣の部屋にも人はいるんだ。お母様や先生方の計らいで、わたし達3人一緒の部屋にしてくれたんだ。迷惑はかけられないだろう」

 引っ越し作業を終えお茶を飲んでいた時の話である。実のところは、面倒だから一緒くたにされた、という気がするが。

 「まぁ、姉さんやローズと一緒に居られて俺は幸せなんだけどね〜♪」

 「ん? ショー何か言ったか?」

 「お兄ちゃんは『ローズと居られて嬉しい!』だって」

 「お、おい! 待てローズ!」

 「ほぉ……」

 途端に姉さんの表情が死に、席を外して剣のある方向へ向かい歩き出した。

 「待ってってば姉さん! 大好きな姉さんと居られて幸せです!絶頂です!」

 「冗談だよ。ローズもショーをからかい過ぎるな。こんなナリでも男は繊細なものなんだそうだからな」

 「はーい! 冗談でした。ゴメンねお兄ちゃん?」

 てへぺろ、である。この世界で初めて行われた『てへぺろ』なのではなかろうか……。

 「別にいいって……。俺も冗談だし」

 間違っても本音で嬉しいなんて言えるわけがない。これは照れ隠し的なやつだ。

 「……何処から何処までが冗談だったんだ?」

 姉さんには通用しませんでした。




______入学式。



 「……お前達には座学や作法の他に、課題任務をこなしてもらう。こちらが与える任務を全てこなした時、卒業の判が押されることになる。まぁ、一般的な学校の単位のようなものだ。但し、簡単な採取から貴族の護衛など、その範囲は多岐にわたる。時には敵対する者と命のやり取りを行うことにもなろう。それらを乗り越えてこその騎士であり、魔法士だ……」

 だからこそ、この学園は難関とされているのだ。

 入学は推薦があれば容易い(それでもコネとかないと厳しいけど)。しかし、課題任務を完遂出来なければ留年し続けるか、自主退学(就職や婚約も含め)の二択を迫られることになる。
 国の学校であり管理施設であるために、学費や寮での食事代などは全て0だ。
 それ故の重圧が生徒に重くのしかかることになる。
 あの母さんが天下の我が家に重圧は無いが、他所の家庭はそうもいかないだろう。

 「……シュヴァルツ・ウィンザー。かの英雄の名に恥じぬ様、心して励め。以上!」

 拍手に包まれながら、シャンティー先生の挨拶が終わる。入学式はこれにて終了。すぐに解散となった。

 「いよいよだねーお兄ちゃん」

 「ん? まぁそうだな……。ここで何が出来るかな」

 「ショー、ローズ。これからは同じ学園の生徒としてもよろしく頼むよ」

 「僕からもよろしく頼むよ!」

 誰だテメェ……ん?

 男だか女だか、どっちとも取れそうな人間が、満面の笑みで手を差し出してきていた。





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