シスコンと姉妹と異世界と。
【第9話】入校試験①
ローズとの魔法対決の一週間後の今日、シュヴァルツ・ウインザー学園の入校試験が行われる。
入校試験とは言っても、一般的な学力試験等は必要なく、領主や商会会長、騎士ら名の知れた人々から推薦を受けるだけで、素質を認められ、入校を許可されているのである。
なので落とすことはしないのだ。推薦者の顔を立てる意味でも。
入校試験というより、実態は騎士科・魔法士科への振り分け試験なのである。組み分け帽子がある訳でもないのだが。
「よし、準備できた。アレを披露するのが楽しみだな」
ローズにいつものように起こしてもらい、準備完了。一週間前のアレ以来、姉さんが起こしに来てくれることが無くなってしまった。すごい寂しい。何かにかこつけて、罰ゲームかなんかでお願いしてやろう。
「ショー、ローズ。2人とも準備出来たかー?そろそろ行くぞー」
「「はーい」」
「2人とも、自分のできる範囲でいいから、最高の結果を出しなさい。貴方達はわたしの子なんだから、やればできるわ。わたしは試験には間に合うようには行くから、お姉ちゃんと先に行っててね。お洗濯もの干さなきゃイケナイのよ〜」
かなりマジなトーンで応援してくれているようだ。後半で気が抜けてしまいそうだったが。
母さんは家にいる時は極力魔法を使っていない様なのだ。他所の家では、洗濯やお風呂などに魔法を使う家庭が多々あるのだが、母さんは「お日様に当てるのが一番♪」だと言う。
「さぁ、行くぞ。試験に遅刻してしまっては論外だからな。道中で試験の大まかなことは話すよ」
「「はーい」」
「最早、阿吽の呼吸だな……」
エリーゼ姉さんが呆れてしまった。
正直なところ、こっちとしては落ちることが無いとわかっている時点でそんなに緊張することはない。一つ挙げるとすれば、アレが失敗して暴発した時に、腕が吹っ飛ぶくらいだ。
「まぁ二人とも知ってはいると思うが、今回の試験では騎士科か魔法士科、どちらへ所属するかの適性を測る試験だ。恐らくローズは魔法士科になるとは思う。しかしショー、お前がどっちになるのかわたしには想像がつかん」
「お兄ちゃんは、わたしと同じく魔法士科がいいよね〜?」
「ま、まぁ……同期で入学するんだしその方が色々……」
「……ショーは、わたしと同じじゃ嫌なのか?」
「あ、いや、その……(二人とも目が笑ってない)」
背中を冷や汗が伝う。というより全身から汗が吹き出る。アレの練習中に一人死にかけた時以来だ。この感じ。
「お、おれが選べるわけじゃないんだから……」
「「……」」
ジト目が刺さる。試験の前に心をすり減らす羽目になるとは思いもしてなかった……。
「……ほら、到着だな……」
「「?」」
ローズと目が合った。ローズも姉の声のトーンが下がったことを怪訝に思ったようだ。
「「!?」」
こちらに向かって、多数の女生徒が駆けてくる。
「「「「「エリーゼお姉さまぁぁぁ!!!!」」」」」
「なるほど、そういうことか……」
「2人とも、済まない……」
まるで戦場での今生の別れのような物言いである。
「お姉様、お久しぶりにございます!」
「お姉様に会えないのが辛くて辛くて……」
「ふふっ、また楽しみましょうねお姉様♡」
1人ヤバそうな腐り気味な人がいた気がしたが。
「お兄ちゃん、これって……」
「姉さんの親衛隊、ってとこかな……」
実姉の狂気的な人気に引き気味のローズ。
家で見せる姿とのギャップに眩暈がしているようだ。
「ところでお姉様? あちらの御二方がお姉様の?」
「ああ、弟と妹だ(すまん……許せ)」
不穏な響き。グワっと親衛隊の顔がこちらを向き、目が光った、ように見えるんだが……。ローズも若干顔が引き攣り、腰が引けている。
「「「「キャー!! カワイイ!!!」」」」
「お姉様が仰る通りですわ!」
ナニを仰っていたのですかお姉様……?
年頃の女性に、二人とももみくちゃにされる。いい匂いと感触に包まれ、楽園が見えた。あっ、ちょっと苦しいデス……。この川を渡りきれば、楽園に辿り着くのdeathね……。
「ちょ、おい! やり過ぎだぞお前達!」
慌てた様子でエリーゼ姉さんが駆け付ける。
「はぁ、はぁ、はぁ、助かったよ姉さん」
「こいつらは加減を知らないからな……」
隣を見やる姉さん。
「あ、ちょ、そこはっ! ……はふぅ」
ローズが膝から、崩れ落ちていた。
「ほら、二人はこれから試験なんだ。もう流石に解放してやってくれ。試験前に消耗しては困る……」
狂戦士の群れが寮の方向へと帰っていく。
「もう疲れた……」
しかしローズは既に風前の灯であった。
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