シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【番外編】姉妹の日常

 



「んっ……もう朝か……」

 エリーゼの朝は早い。5時には目が覚めてしまう。未だ薄暗い朝焼け前から1日は始まる。
 寝間着を脱ぎながら、エリーゼはふと思う。

 (昨日弟に負けたというのに、思ったよりよく眠れたな。わたし自信としては悔しいが、姉としては、弟の成長が存外微笑ましいものだな)

「にしてもまさか、あいつが魔法を使ってくるとはな……」

 顔を冷水で引き締め、覚ます。
 エリーゼが見てきたショーの魔法の腕前は、料理の時の火種を生み出す、洗濯桶に水を満たす程度のもので、生活に便利、くらいのものであった。
 そんなだから当然、幻惑魔法を使ってくるなんて思いもしなかったのだ。自信の理由に見当もつかなかったし、その場の勢いでのハッタリ程度に受け止めていた。

「まだまだ、修行が足りないということか。高等な魔法は扱えずとも、対処法くらいは身に付けなければ……」

 着替えを済まし、修練場へ。父アレクサンダーとの早朝トレーニングは、エリーゼの日課であり、美ボディの秘訣だ。






 ____________時を同じくして。






「はわわ……んあー眠いー」

 布団から身体を起こし、大欠伸。そして布団を被り直す。
 ローズの朝も早い。しかし、弱い。
 10分で覚醒出来れば早い方である。

「うあー、起きなきゃー、ごはんー」

 桶に張った水を魔法で少し温め、洗う。
 朝ごはん作りはローズの担当である。とは言っても、主に作るのは主婦であるローラ。その手伝いである。

 魔法を教わる代わりに、ローズは母の仕事を手伝うことが多い。2人には内緒ね?と、お小遣いを渡してくれることもあるので、ついつい張り切ってしまうのだった。

「お姉ちゃんだいじょぶかなー。まさかほんとに、お兄ちゃんが勝っちゃうなんて、思ってもみなかったなぁ……」

 昨日のことを思い出す。幻惑魔法について聴かれたときはまさかと思ったが、兄が実際にそれを使い、その上自分まで巻き込まれるとは、夢にも思わなかった。

「おはよう。ねぇローズ。昨日、エリーゼとショーが戦って、ショーが勝ったんでしょう? エリーゼがちょっと嬉しそうに話してたのよ」

「おはようございます、お母様。そうなんです。お兄ちゃんが幻惑魔法を使って、わたしまで魔法に巻き込まれちゃって……」

「いつの間にそんな逞しくなったのねぇ……。そうだ! ローズも、お兄ちゃんと対決してみたら!? 魔法だけに絞っての勝負。わたしも明日は用事もないし、自分の子供の成長を、自分の目で見てみたいのよ。ローズも自分のお兄ちゃんと戦ったことなんて、今まで無かったでしょう??」

 今までローズは、ショーと喧嘩という喧嘩をしたことが無い。歳が近くとも性別が違うために、真正面からぶつかることがまず無かった。
 ショーの力を自分で確かめたいと思う。でも、勝ち負けが付いて気まずくなるのも困る。大いに悩んだが、大好きな兄をもっと知りたいという好奇心が、最終的には勝った。

「うん。ではお母様、昼食の後で、魔法のご指導をお願いしますね?」

「もちろんよ〜。ではその間、ショーにはお使いを頼んでおかなくちゃ。折角勝負するんですもの。手の内を晒すのは、魔法師としても、女としても大敵なのよ?」

 そう言ってウインクしたローラが屈託の無い笑みを浮かべる。

「あぁっ!? 卵焼き焦げちゃったぁ……」

「あらまぁ……。それ!」

 ローズの指さした先のダークマター焼きが、一瞬のうちに鮮やかな黄色に戻る。
 ローラの得意魔法、時魔法による巻き戻しである。

「え? 嘘!?」

「ふふふっ。びっくりした?」

「なに今の!?」

「な〜いしょ♡ ローズにはまだ早いわねぇ〜」

「えぇ〜。はぁーい……」

「ほら、お寝坊さんを起こして来て。ご飯にしましょう」







 _________修練場にて。






「ハァァァァァ!!」

「まだまだ!」

「せェェェェイ!」

 ガツンッ。
 木刀が重なり合う音が響く。

「今のは良かったぞ。よし、少し休むか」

「はい、ありがとうございました」

 正座して隣合って座る。エリーゼにとっては父であり、師匠であるアレクサンダーとの貴重な時間である。

「その……なんだ。大丈夫か?エリーゼ」

「え?何が……ですかお父様?」

「あ、いや……母さんから昨日、エリーゼとショーがやりあったって聴いたもんでな……。それでいて、剣筋には思ったほど響いてない。お前がどう捉えているのかが気になったんだ」

「そういう事でしたか……。勿論とても悔しいです。どうしようもなく。ショーが魔法を使ってくるなんて思いもしなかった、慢心してた自分に対して。ただ……」

「……」

 アレクサンダーが無言で続けるよう促す。

「ただ……弟の成長を嬉しくも思うのです。今まではずっと不憫な思いをしていたと思いますので」

「そうか……。ま、俺も自分の子供の成長を嬉しく思うよ。お前達は俺の大切な宝であり、誇りだ。なんて、語りすぎか?」

「そうですね」

「そうか……、……冗談だよな?」

「ふふっ、冗談です」

「やっぱりローラの娘だなぁ〜」

 満面の笑みで否定され落ち込むポーズのアレクサンダー。しかしどこか嬉しそうだ。

「さてと、皆を待たせてもあれだ。今日はここまでにして、朝食にしようか」

「はい。ありがとうございました」


 ______。


 朝食を済ませた後は、普段ならエリーゼは学校へ。ショーとローズは自宅で勉強となる。

 今は春休みであるため、3人とものんびりしているのだが。

 学校について言うと、普段は私服で登校し、学校で制服に着替える。私服で登校するのは、それなりの家柄の人間が多いからだ。服は家柄そのものや裕福さをアピールするための道具という側面もある。

 それに学校では座学だけではなく、模擬戦闘や実戦さながらの野外訓練等も行う。

 シンプルに、よく汚れるのである。
 放課後に専門の業者が回収し魔法で洗浄、乾燥しているため、新品同様の状態で、毎朝更衣室の各自のロッカーに掛けられている。

 ちなみに業者スタッフは全員女性となっている。

 授業を終えて、エリーゼが家に帰るのは大概17時過ぎになる。一旦自室に戻りベッドに飛び込み、一旦スイッチオフにしてから食事へと向かう。割とエリーゼも学校で苦労しているのだ。


 ____________夕食後。


「今日は俺疲れたからもう風呂入って寝るわ〜」

「あ、お兄ちゃん……」

「ん?」

「いや、なんでもないの。今日お使い行ってくれてありがと」

「お安い御用だよ、んじゃ、おやすみ」 

 ショーが部屋を出ていく。

「どうしたローズ? 何かショーに言いたげだったが……」

「明日、わたしと魔法対決しよーって言いたかったの」

「…………、お母様か?」

「うん……。でも、それもあるけど、わたしも、自分のお兄ちゃんがどんだけ強くなったのか知りたいの。今までは魔法なんて全然だったのに……」

「そうか。ローズが選んだのなら、私は何も言うまい。頑張るんだぞ」

「ありがとう、お姉様」

「あっ、それなら明日の朝食の手伝いはわたしが行こう。ローズはゆっくりと休むといい。時間になったら起こしに行くよ」

「いいのですか!? ……では、お言葉に甘えさせていただきます」

「あぁ。それじゃ、おやすみ」

「おやすみなさい」





 ____________翌朝。



「んっ……あれ? お姉様が来る前に起きちゃったか。お姉様、ああ言ってたけど、わたしも手伝った方がいいよね……。でもその前にお兄ちゃん起こさなきゃ!! まだ魔法対決の事言ってないし!」

 姉と同じく根が真面目なローズに、二度寝という選択肢は無い。休めと言われて休めないタイプである。




「お兄ちゃん!! おはよーー!!!!」




 目の前にひろがる光景にローズは久しぶりに、キレた。
 

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