AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と王無き都市
赤色の世界 紅蓮都市
さすがは導士、と言ったところだろうか。
俺よりも優秀な眷属たちのお料理教室が開かれ、すぐにシュリュの料理技術は格段に向上した。
まあ、別の機会に料理を試す機会はあったが……あのときはシュリュ、まだ戦闘によるコミュニケーションに拘ってたからな。
「──とまあ、そんなことがあったわけだ」
真っ赤に燃えるような紅の髪を、後頭部で三つ編みにしたその少女。
女王のような気品高いオーラを纏った彼女は、それの話を聞いて……呆れたような顔を浮かべた。
「何も言っていないのに、よくもそんな風に話せるものだ」
「様式美ってヤツだ。暇潰しに検索してみれば、たぶん分かると思うぞ」
そうか、と短く答えた彼女は動かしていた手を止めずに次の書類を取る。
その場所──執務室では、彼女の他にも複数に人が入っては出るを繰り返していた。
俺だけがそこで、ただ何をするわけでもなく彼女──ウィーに話しかけている。
「少しは手伝ってくれないか?」
「おいおい、いきなり現れた放蕩者にそんなことを任せる気か?」
「貴公が造り上げたと言っても過言ではない都市なのだぞ? 本来であれば、これをやるのは貴公のはずだ」
「……あんまり書類関係は得意じゃないんだよ。リーンとかルーンでも、よくそういうことを言われたよ」
だからこそ、今のリーンでは話を玉座で聴くだけという制度になっている。
書類関係は大臣や将たちが判断し、必要な情報のみを俺に知らせてくる……全部を解決することも可能だが、あえてしない。
「まあ、手伝いをするなら補助魔法でもいいだろう──“並速思考”」
「! 急に使われると少し戸惑うな」
「俺に注文した対価だと思っとけ。ああ、魔力を使うからな──ポーションを置いておくから必要に応じて飲んでおけよ。並列思考の対価としてもっと早くと意識するだけで消費る量が加速するからな」
「……貴公は何を?」
書類を手にした俺を見て、不思議そうにするウィー。
得意じゃない、とは言ったがやれないとは言っていない……いちおうはジークさんに教えてもらったのだ。
「ここら辺、少々手間がかかるだろう?」
「そこは……移民の都市に関する問題だったな。見て分かると思うが、風習などの違いに戸惑っているらしい」
「こればかりはどうしようもなー。人が集まればルールが決まる、イイことだけど集まりすぎるとこうなるか」
「それだけこの都市が、人々に求められているということを理解した方がいい。貴公の望む安住の地は、すでに外交を始めている」
眷属協力の下、紅蓮都市は他種族国家としてすでに認められつつある。
……というか、認めざるを得ない環境を眷属が生みだしたので仕方なく了承したという方が正しいか。
奴隷は縛られず、地位の差はあるもののそれによる差別がない都市──日本の在り方を少しだけ参考にし、一から築き上げた新たな国家……ルーンのときの反省を生かした誕生したのが今の紅蓮都市だ。
そんな場所があると知れば、今の自分の生き方に不満を抱いている奴は……当然ながら行こうとするよな。
ただし、場所ははるか彼方の海の上、行きたいと思って行ける場所ではない。
眷属はある手段を用いてそれを解決し、大量の人々を受け入れられるようにした。
「迷宮か……予め神聖国が味方に付いていたからこそ、ああした結果になったのだろう。過去はどうあれ、あのような振る舞いをする教皇に怒りをぶつけることはできない。そして彼が認めた……疑うことが難しい」
迷宮は悪しきモノ、という考え方は魔物が嫌われている場所ではどこも同じなのだ。
だからこそ、宗教の力を借りてその考えに一石を投じた。
文句を表だって出すような国はもうない。
すでに迷宮に挑み、儚くも散っていったのだから。
「……嫌だったか?」
「貴公のお蔭で国の在り方は変わった。あの国を恨むのはお門違いと言うものだろう……偽りの邪神こそが、仇なのだからな」
赤色の世界で崇められていた炎の神は、その地位を奪われ邪神に貶められていた。
その身を包む炎は穢れ、望まぬ悲劇を生みだしてしまう。
故に神の座を降り、人々に平穏をもたらそうとした……そうした考えすらも否定され、一人の少女の身に降りてしまった。
少女の名はカグ──世界中に嫌われ、声を失おうと人々を守ろうとした献身的な娘だ。
そんな少女にすべての責任を押しつけ、暗躍し続けたのがもう一柱の邪神。
ウィーの故郷を滅ぼした、眷属を持つ正体不明の存在である。
「──さて、そろそろウィーの書類は中断できるな?」
「ああ、少し空ける。できる分の書類は持っていく、だからそんな顔はしないでくれ」
「魔法の方も維持しておく。切れたら俺の精神がドキドキで乱れたと思ってくれ」
「……何もしないぞ」
期待してもダメだったか……俺は苦笑いをして、なんだか残念な物を見る内政官たちに背を向けてウィーごと転移を行った。
◆ □ ◆ □ ◆
ウィーが来たことで問題はほぼ解決だ。
亡国の姫様が、親身に自分たちの意見を考えてくれる……まずこれだけで不満の八割ぐらいは解決できる。
俺が居ることでストレスが増し、再び不満が五割ぐらいになったが……そっちはしっかりとした問題の解決策を実行したことで九割ぐらいは解消した。
「あくまで第一印象だけだからな。気にしてなかったんだが……ここら辺は、もう新人たちの住処だったか」
「言っただろう? 貴公の造り上げたこの場所は求められ、守ろうと思える地だと」
「そうなのか? まあ、そうなるといいんだがな……」
すべての問題が解決できたわけじゃない。
何かをやることで必ず別の何かに影響があるように、ただ独りよがりを満たすだけではこれまで成立していたナニカが守れなくなってしまうことがある。
「さすがにこの都市を、『願いが叶う国』とは言えないな。ちっぽけな願いから野望まで叶えていたら、呟いた独り言で世界が滅びかねないし」
「それはそうだろう、すでに内政官が何度も零していた」
「……まずは仕事環境の改善からだな。今が一番忙しい時期だが、それを乗り越えるまでは何か対応策を用意しておこう」
軽い会話をしながら、都市を練り歩く。
彼女の容姿は目立つので、姿は隠しながらであるが……燃えるような紅の髪、その色を変えているだけだが。
「この都市を、国にはしないのか?」
「国には象徴が必要だ。俺は王をやらない、なら誰が王の座に就くか……そうすれば国家になるんだぞ」
「私に……王位に就けと」
「そうなればいいなーって思ってる。別に今のままでも、ここの管理はできる。ただ、名目上の形が変わるだけだ」
もともと王が居ない場所ならば、王をトップにした国のシステムは構築されない。
命令権を持つ絶対的な君主がいない……そう考えられた者は、大きく分けて二つの考え方を抱く。
「隙と見るか、大胆と見るか。いずれにしても、周りはそれを良しとは思わない」
「いいんだよ、それで。王に頼らない選択を選んだ人々が、ここでどういった生き方をするのか……それを見てみたい」
「メルス、貴公は……」
「国が一つに纏まらずとも、団結して動くことはできる……損得でも善し悪しでも、国を守ることはできるのかな?」
ウィーには選択してもらわなければ。
ただ、俺の思うがままに国をそこに住まう民に委ねるか。
それとも……貫くべきモノを、決して曲げずに貫くかをな。
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