AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と噴き出す瘴気
夢現空間 修練場
お菓子作りの魔道具は売れたが、他の品はポーション以外まったくだった。
あの人たちは武具は自前で用意できるし、俺のは強すぎると断っている……どうせなら使ってくれればいいのにな。
彼らにも彼らなりにやることがあり、その業務に長期間勤しむためにポーションが必要なのは理解している。
しかし、だからといっていろいろと危ないあれを買うのは勇気が要るよな。
「まあ、あそこは大変だからか」
謁見をするために一度本部まで行ったことがあるのだが、ブラック企業も真っ青なほどにどす黒い業務だったとだけ伝えておく。
……いちおうあるんだよ、休みはね。
「さて、そろそろ始めるとしますか」
俺の周囲十キロに、眷属たちは居ない。
辺りを何重もの結界で包囲した上、次元ごと隔離しているため、外部からの侵入と内部からの脱出が不可能となっている。
──それだけのことを、今回はしなければならなかった。
《魔王様、程々にしなさいよ》
「(あいよ、気を付けます)」
まあ、だからといって外部との連絡が絶たれたとは一言も言ってないけど。
あくまで出れなくなり、救援が来なくなっているだけだ。
外では監視役であるリッカがスタンバイしており、俺がヘルプコールをして召喚したらすぐに助けてくれるという手はずだ。
その際、俺も含めて広範囲の殲滅攻撃を行う予定である……理由はまだ内緒で。
「さぁ、時は来た! かつて在りし亡霊よ、我が下へ馳せ参じよ!」
久しぶりということで、テンションが少々上がっている俺。
銀色に瞳を輝かせ、詠唱(擬き)を行う。
高まった魔力が限界まで達したその瞬間、発動を宣言する。
「魔導解放──“再生せし闘争の追憶”」
ずいぶんと懐かしい発動だ。
あれからさまざまな資料を漁り、崇められた存在を探し……その魂魄を求めた。
そして、過去の英雄はここに出現する。
『…………』
「まあ、仕様は変わらないか。とりあえず、初めましてです」
『…………』
「貴方には、その力を使ってもらいたい」
現れたのは、幼い少年。
種族は普人で、特別な種族というわけでもなく本当に見た目は普通の少年である。
ただし、とても怯えている……俺にではなく、ここに自分が居ることに。
『…………』
「大丈夫です。死にません、絶対に。呼ぶ際に伝えた通り、それが条件となります」
『………………、……………………』
「はい。構いません、それが願いです」
俺の願いは最初から言っていた。
いつものように、これまでのように、少年の力を借りられるように。
だが、これまでとは少し違う、低すぎる確率の先に存在するだろう、起き得ないだろう絶対的な災厄を避けるため。
「──いつでも、準備はできています」
その言葉を引き金に、それは発生した。
少年の体から生みだされる、おどろおどろしく禍々しい瘴気が放たれる。
サンプルのように少々置いていた植物は、その瘴気に触れた途端に枯れていく。
そして、それはやがて俺の下へ──
「いきます!」
スキルとしての縮地を行使し、瘴気と瘴気の間に存在する隙間を潜っていく。
同時に風魔法を使い、その隙間が崩壊しないように支える。
そして、武器を取りだす。
いつも使っている特殊な品ではなく、どこにでも売っていそうな無骨な木刀である。
強引に魔力を注ぎ、壊れる寸前まで強化を行って振り回す。
「──“破魔風”」
破邪刀スキルの武技なのだが、一定以下の状態異常を引き起こす現象を破壊する、斬撃の風を生みだす。
それを使い、瘴気がどれほどのものか試してみたのだが……いっさい打ち消す現象を見せず、瘴気に呑み込まれていった。
『…………』
「止められませんか。いえ、そう気を落とさないでください」
少年は何もしていない。
ただ、瘴気が勝手に動いているだけだ。
武器を取りだした時から、形を少しずつ変えていたその瘴気……剣から学習し、今ではいくつもの武器の形状を模っている。
『…………、……………………』
「ああ、すでに学習済みでしたか。道理で動物型のモノまで」
魔導“再生せし闘争の追憶”がバッチリ仕事をしてしまったためか、その学習データはリセットされたものではなく、最終版のモノのようだ。
狼や鷹など、そういった動きの良い動物を模した瘴気たちがいっせいに襲いかかる。
「もう限界か? ──“天線候破”」
発動したその瞬間、木刀が砕け散る。
一度目はどうにか技術を駆使して抑え込んだが、二度目はそれではどうしようもない限界を迎えたからだ。
しかし、武技は発動する。
天剣スキルの武技なのだが、こちらは空飛ぶ斬撃の頂点に立つ武技だと思ってほしい。
横一線に飛んでいったその斬撃は、向かってきたすべてをバッサリと捌いていく。
何があろうとお構いなし、綺麗な線を水平の彼方まで描いていった。
「“縮……ッ!」
その間に真っ直ぐ進もうと思っていた。
縮地を発動し、開いた空間を通り抜けようとした瞬間──上下から牙のように鋭い錐がいくつも現れて俺に襲いかかる。
慌てて発動をキャンセルして回避を試みたが、今度は瘴気が固い紐のように形を変えて俺の右足を囲み、そのままギュっと内側に引き締まった。
「レ、“肉体復元”」
吹き飛んでいった右足は忘れておく。
両腕で姿勢を安定させ、左足を使ってどうにか瘴気の無い場所まで避難する。
そこで足を復元する魔法を行使した……はずなんだが、足は生えてこなかった。
「ずいぶんと便利な瘴気ですね」
『…………』
少年はただ、ジッと俺を見つめ続ける。
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