AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色の旅行 その16



「──力は欲しいですか? 君の左目に、私の術式で魔眼の効果を……痛っ」

「……大丈夫か?」

「ああ、いえ。お気になさらず……少し、悪戯されたようです」

「?」


 さっそく見つけたシヤンにぶっちゃけて訊こうと思ったのだが、さすがにそれはアウトなようで、天罰のように遊んでいた子供のオモチャが俺の顔に命中した。

 うん、誰もやってないよな? 故意に狙った奴なんて……いないよな?


「まずは簡単に説明を。私の瞳の力で、君の左目を治すことは可能です。やりますか?」

「! ……で、できるのか?」

「ええ、それはもちろん。ただ、本当に君はそれだけでいいのですか? それでは、君の眼が無くなる前と同じになるのでは?」

「ッ……!」


 まあ、実際は変わるんだろう。
 創作物においても、一度辛い目に遭えば必ず人は変化するものだ。
 記憶に残り、体に染みついたその経験が、否が応でも人を変えてしまう。


「力は破壊のためにあるわけではありませんので。君であれば、もっと有意義な力の使い方ができるでしょう……守りたいモノを守るといった方法で」

「……力」

「もちろん、それがあったからと言って万能になれるわけではありません。人は不完全だからこそ、より高みへと近づけます。停滞した力には、破滅の道しかありません」

「分かりたくねぇよ……」


 所詮力なんてそんなものだ。
 俺だって、いつかは驕りに傲って殺されるかもしれない……というかその可能性がかなり高いだろう。
 なにせ、厄災候補としてシステムからも神からも選ばれているわけだし。


「だから仮に、君が私から力を貰うことになろうと……それは最強のものではありませんよ。あくまで、君の近くに居る人たちを守るための力です。復讐をしようと怨嗟の声をあげ、破壊を行うためのものではありません」

「け、けど……!」

「なら、分かりやすい例え話をしましょう。君は私が来る少し前、あの大人たちに何をしようとしていましたか? そして、その自分が子供たちにどういった風に見られるのかを理解していましたか?」

「そ、それは……」


 当然ながら、俺はエチケットを弁える紳士のようなモブである。
 入った場所がヤり場で、中であんなこんなでくんずほぐれつ……なんて場所に堂々と入場したくはないからな。

 予め望遠眼で離れた場所から状況を見ていたのだが、俺が近づくころにはシヤンが禍々しい力に手を出そうとしていた。
 そして、だからこそ面白いのだと少しにやけてしまったのは内緒だ。


「かつて、一人の少年が居ました。彼は与えられた力に溺れ、他者を捻じ伏せてでもすべてを手に入れようとしました。しかし、彼の栄光はそう長くは続きません。たまたま現れた偽善者によってすべてを変えられました」

「それって……どっちが悪いんだ?」

「……偽善者は少年の罪を暴き、その欲望を曝け出しました。そしてその上で、彼に新たな道を示します。それ以降少年は、自分のためではなく誰かのために働けるいい子になりましたとさ」

「ノゾムの兄ちゃん、この話で何が言いたいかは分かったけど……これ意味ないよな?」


 兄ちゃん、と呼んでくれるシヤンに、例として挙げた変態と同じ道を歩ませるわけにはいかないからな……いや、そもそも例を眷属の誰かにすればよかったかな?


「ま、まあ……ともかくです。君に与える力で傲ってはいけませんよ、という教訓を今伝えました。それでもなお、君はあのときと同じ力を振るおうとしますか?」

「…………」

「なんて、どうでもいい質問には答えずとも結構ですよ。かつて聖人が使った善いスキルであろうと、結局は誰が使うかです。たとえ大犯罪者が用いたスキルであろうと、誰かに感謝されることはあるのです」

「性格悪いよな、兄ちゃんって」


 世に居る犯罪者の方が、俺の数百倍は性格が悪いとは思うが……あまりシヤンは外に出たことがないのかもしれない。
 騙されやすい性格なのかもしれないし、神父さんにそういう悪意のお勉強をしてもらった方がいいかもな。 


「ところで兄ちゃん、兄ちゃんがくれるってことは……もしかして、魔眼なのか?」

「ええ、そうですよ。どのような魔眼が発現するのか、それは君次第です。君の持つ可能性の力が、魔眼を発現します」

「す、すっげぇ……なんか、兄ちゃんの話だけだとスゲェものな気がしてきた」

「ただ、成功例が少なくてですね……シヤン君が成功してくれると嬉しいです」


 と、少しジョークを言ってみたのだが……物凄く青ざめてしまったシヤン。
 そのあとすぐにジョークだと言ったが、信じていないように思える。


「に、兄ちゃん……殺さねぇよな?」

「殺しませんよ! い、いえ……心配するようなことを言ってしまいましたが、失敗はしません──絶対に」

「……絶対、なんだよな?」

「はい、それはお約束しましょう」


 俺もここで、多分などと言って不安にさせるようなことはしない。
 相手の目をしっかりと捉え、気持ちを正直に伝え……あれ、避けられた。


「……それじゃあ、シヤン君はいっしょに来てください。そこで魔眼を与えましょう」

「う、うん……」


 さて、そもそもどこでそれをやろうか?



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