AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色の旅行 その12
「ガー、癒せますか?」
「はい。畏まりました」
俺の問いに応え、ガーは現界すると子供たちへ回復魔法を施していく。
「うわっ! ど、どこから現れて……」
「いいですか、時には気にしてはいけないこともあるのです。君はお友達を救いたい、私たちは善いことをしたい……今必要なのはこれだけです」
「! そ、そうだった」
「改めて自己紹介といきましょう。私の名はノゾム。連れの者であるこちらのガーと、西へ東へ旅を行っております」
よければ、君の名前もと問うと、少年はボソリと教えてくれた。
「……シヤン」
「シヤンですね。分かりました、これから少しの間ですがお世話になります」
「ハッ!? 何言ってんだよ、兄ちゃん?」
「簡単な話ですよ、シヤン。私たちは君たちが困っている所を助けました。そして今、私たちには泊まる場所がありません……」
うん、この近くには無いし、探す手間も面倒に感じてきた。
少年たちならば、この恩を売りつけるだけで雨風を防げる場所を教えてくれるだろう。
「お礼はそうですね……これでどうです? 旅ということもあって、食べ物だけならばたくさん用意しています」
「……毒があるかもしれねぇ」
「それを心配されると、もう私たちにはどういった説得もできませんね。実際に食べてみせる、というのは?」
「そっちだけが耐えられる毒かもしれねぇ」
うんうん、用心深いのはいいことだ。
すべてを信じ切ってます、という少し眩しすぎるガーといるからか、疑念というものが存在することにありがたみを感じてしまう。
「ノゾム様、子供たちが回復しました」
「シヤン、君がこのポーションを子供たちに飲ませてあげるといい。毒入りかどうか疑いたいなら、私やガーが飲んであげてもいいのですが……」
「いや、大丈夫。まだ信じ切れねぇけど、たぶん大丈夫だ」
「……そうですか。では、少し多めに渡しておきますね。まずは君が飲んでから、お願いします。それが安全性の証明となります」
シヤンはガーの近くで意識を覚ました子供たちに近づき、一人一人無事を確認してからポーションを飲ませていった。
遠巻きに様子を窺う俺を見て変な顔をする子供たちだが、やはり信頼できる兄貴分が居ると自然に落ち着いていく。
こういったとき、直感を信じるという選択は馬鹿にできないものだ。
理論詰めで人を信頼する、なんてことはそうそうできないことだ。
だからこそ、人は己が信じた者を信じる。
「ほら、ゆっくりと飲むんだ」
「う、うん……」
「アイツらは大丈夫だ。何かあったら、俺がどうにかしてやるからさ」
「うん……」
アイツら、というよりは俺独りを警戒していた子供である。
ガーは彼らを癒しているので、子供たちもその恩義を無意識に感じているのだろう。
……【慈愛】の効果もあるしな。
一方の俺は、ここに来てからただ暴力を振るっていただけだ。
鼓膜に入った大人たちの声も、しっかりと遮断しておけばよかったと後悔しているよ。
「さて、今のうちにやっておきますか」
片っ端から鑑定と解析を用いて、誰か面白いスキルを持っていないかを調べて視る。
大人たちには……無いな、魔人族らしいスキル構成でしかない。
そして子供たち……まだ若いということもあり、未来眼を使えない今の俺ではその可能性も分からないな。
──だが一人だけ、俺の口角を上げさせてくれる人物がいた。
子供たちには解析が使えなかったので完全ではないが、それでも不鮮明な情報があったのでほぼ間違いない。
「(ガー、ここに居た)」
《それは……! おめでとうございます》
「(まあ、このままだと死んでしまうかもしれないからな。ガー、全員纏めてやる形で癒しておいてくれ)」
《承りました。メルス様の命、全力でやらせていただきます》
ちょうどポーションを全員に飲ませていたのだが、ガーが何かを説明して広範囲の回復魔法を発動させた。
回復魔法は体を活性化させてポカポカする感覚を与えるので、子供たちも治ったという実感を得られるだろう。
目的の人物もしっかりと生命の危機を免れており、俺も一安心できた。
「皆さん、お腹は空いていませんか?」
『…………』
警戒する子供たち。
そりゃあ当然だ、<畏怖嫌厭>の補正もあるが怪しいヤツが話しかけてくるんだから。
全員シヤンの元に集まり、ギュッと抱きしめ合って不安を取り除こうとしている。
だが、子供というのは正直なモノだ。
誰か一人がお腹をキューと鳴らすと、連鎖反応を起こして全員がお腹を鳴らす。
「どうやら全員、何か食べたいようですね。そこの君、何が食べたいのかな?」
「え? え、えっと……甘いもの?」
「分かりました。少し待っていてください」
どこかから取りだしても、それでは不安が残ってしまう……ので、ここで調理を行うことにした。
ガーに用意してもらった調理器具一式を並べ、砂糖と水を同量で混ぜ合わせ、子供たちに見えるように耐熱性の紙の上に並べ──魔眼で温めていく。
「これを黄金色になるまで待って……完成です。一つ、いかがですか?」
「うん…………美味しい!」
「他の方々も、よければお一つ」
その声に集まる子供たち。
アツアツなので少し慌てる子供もいたが、一人も嫌がる者はいなかった。
こうして俺は、お菓子のお兄ちゃんという定位置を獲得したのだ。
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