AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色の旅行 その11
どうやらお取込み中だったようだ。
たまたまガーが教えてくれた不良たちのアジトへ立ち寄ってみたのだが、まさかこのタイミングで着てしまうなんて……どうにも俺は、運があるのかないのか分からなくなる。
まあ、偽善ができるという意味ではある意味ラッキーだったか。
ガーには武具の中へ入ってもらい、見た目上は俺独りでそこへ乗り込んだ。
「おい、何してくれてんだニーちゃん」
「子供が縛られ、救いに来た少年が拘束中ですか……なるほど、理解できました」
「こっちの話を聞け」
「──まずは、子供の回収からですね」
閃光眼でフラッシュを焚いて、まずは男たちの視界を奪う。
それから引力と斥力を操る引斥眼という魔眼を用い、子供たちを俺の居る方へ手繰る。
「それから、そっちの君」
「ぐはぁ!」
「……君には、ポーションをあげよう。眼はさすがに生えてこないけど、それでも増血効果もあるからね」
「あ、ああ……」
第二次性徴を迎えていないからか、少年の声はまだ少し高い。
だが、その真実を確かめるための瞳を今は持っていないので、気にせずポーションだけ渡して男たちの方を向く。
「では、ご挨拶と行きましょうか。私はノゾム、偽善が大好きなただの旅人です」
《今回はノゾムなのですか?》
「(新しい大陸だし、この口調だしな)」
《なるほど》
裏でガーとやり取りをしながら、ペコリと頭を下げて下手に出る。
大人も子供も目をパチクリしているが、少年がハッとなって再起動した。
「おい、なんでコイツらがこっちに」
「私の能力です。これで信頼していただけたのなら、早くそちらのポーションを飲んでいただきたいですね……死にますよ」
「うっ……わ、分かった」
すでに顔が真っ青になっていたので、飲むことを促すために威圧を使った。
どうせ<畏怖嫌厭>で嫌われているんだ、偽善をやるためならさほど悪印象が付こうと今さらだし割り切っておく。
「ああ、ついでにこちらのポーションも。これは子供たちにどうぞ」
「おい、俺たちの縄張りでいい気になってんじゃねぇよ!」
「……おや、これは申し訳ない。もちろん、貴方がたを無視しているわけではありませんのでどうかお許しを。ただ、優先事項が彼らだけだったのです」
「調子に乗るなって、言ってんだよ!」
子供が居なくなって手持無沙汰になった男の一人が、剣を振り回して走り寄ってくる。
後ろで少年が何やら叫んだ気もするが、それは無視して冷静に対処した。
反射眼は使えないので、鳥獣眼で動物の性質を再現──亀の甲羅を右腕に展開し、盾のように構えて剣を弾く。
しかし、どうやら硬度が高すぎたようで、剣がポキッと折れてしまった。
「お、俺の剣が……何しやがる! 絶対弁償しろよ!」
「ああ、これは大変申し訳ないことをしてしまいました。貴方は楽に終わらせますので、どうかご容赦を」
「おごぉおおぉっ!」
「……まず一人」
防御力は攻撃力に転ずる。
甲羅を拳の正面に再展開し、手甲のようにすると男の腹を優しく殴りつけた。
男の体は『く』の字に曲がって吹っ飛び、先ほど同じように殴った男の近くの壁にめり込んでしまう。
「次は……どなたでしょうか?」
「ちょ、調子に乗りやがってぇ!」
「どうぞ、お好きなように」
「いくぞ、テメェら!」
さすがに一人じゃ勝てないと分かっているのか、仲間を動かし連携を取ってくる。
全員で囲むように攻めてくるのだが、自由に視点を変えられる俺にとって、その行動は無意味でしかない。
「よっほいしょ、はいっと!」
「な、何なんだよお前……」
「ノゾムです」
「ふざけんじゃねぇよ!」
遊ぶように避けているのだが、漏らす声に苛立っているようだ。
これはわざとではなく、本当に純粋に漏れているだけなんだがな。
「降参して、くれませんか? 私としては、互いに話し合いたいのです」
「テメェ、俺たちの仲間をあんな目に合わせておいて、よくもそんなことが言えるな!」
「対話をする意思の無かった方には、非常に残念ですが眠ってもらっただけですよ。殺してはいませんので、大目に見てください」
殺してよくなる展開って、あんまりないんだよな。
不殺を貫く、なんて誓いはまったくしていないが、できるだけ殺さないように……と思うことぐらい悪くないだろう。
「どんどん行きますから、交渉に応じる気になったらぜひお願いしますね」
「ちょ、ちょっと待……てぶぅ!」
「お、おい! 止まる気な……だびゃっ!」
「いやいや、なかなか応じてくれなくて残念です。仕方がありません、私も言葉ではなく言葉で応えましょう」
子供を虐めた悪い大人に、<正義>は黙ってはいられないだろう。
そもそも応じても応じずとも、俺なりに粛清することは決定事項だったんだよな。
「早くしてください。そうしないと、皆様全員が倒れて交渉できないではありませんか」
「な、なら話を聞け……よぐぅ!」
「んー、聞こえませんねー」
殴って蹴って、避けて打って……動くのを止めたとき、もう立っている大人は一人もいなくなっていた。
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