AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と育成イベント完結篇 その08
ここで綺麗に終われないのが、モブの残念なところだろう。
主人公級の人間であれば、別キャラサイドからの時間経過……ぐらい朝飯前のはずだ。
「さて、と。今回は何もないのか」
すでに方舟は姿を消した。
代わりに残ったのは、黒い魔本に記された新たな魔法陣と数十行の文字列のみ。
風精霊の生みだす風が、俺の足を踏み込むための段差となる。
一歩一歩踏みしめた風の階段を昇り、やがて大気圏を突破した。
「風精霊はここが限界っと。精霊だからか、それとも風属性の存在だからか……まあ、ここは要調査だな」
世界の間に次元の壁があり、生物が通れる限界を定められている。
まあ、地球で言うなら異世界に望んでも行けないとの同じだな。
精霊が活動できるのは、脈が影響を及ぼせる星の中のみ。
要するに、星の外──宇宙まで精霊は活動できないわけだ。
「けどまあ、こっちならいけるかもしれないな──“下級精霊創造・風”」
俺の魔力を直接精霊に変換し、疑似人格を付与して働かせる。
風が死んだ無風の世界に、突如優しい風が吹いていく。
「この風に“飛行”をセットで使えば……よし、行けるな」
複数体の風精霊によって、推進力を得た俺は空へと向かっていく。
空気がとても冷たく、保護していなければ{夢現反転}が発動していたかもしれない。
なぜやるか、なんて野暮な質問はしないでほしい。
登山家が山を登るように、賭博士がいついかなる状況でも倍プッシュするように……アレは高い所が好きなのだ。
「そういえば、絵本にあったな……月が欲しいと願った少女」
たしか父親は、梯子を使って月を手に入れたんだっけか?
実に【傲慢】で【強欲】な作戦だが、彼らは世界の理を逆手にとりそれをなした。
結末は返還で終わったが……それはおそらく、子供向けな教訓としてだろう。
もしそれを、大人たちが自身の我欲のために実行したのならば──結末はもっとひどいものになったと思われる。
「月面への着陸、それもまたいいかもしれないな……けど、さすがに今は無理そうだ」
かつては、月に行くことが地球に住まう者たちの願いだった。
まあそれも、その少女の願い同様に月を征服だのその地特有の品が欲しいという我欲を満たそうとしている場合があるけど。
魔力が続く限り、この宇宙へ向けての旅が続けられる……だが、制限がかけられた今の状態では維持することは難しそうなのだ。
無限のエネルギーを生みだす<久遠回路>、それに加えて次元魔法や時空魔法などが必要となるだろう。
「だがまあ、ずいぶんと綺麗になった……これを元に、星の光度を変化させるかな?」
各世界で輝く星の位置は定めてしまっているが、明るさであれば調節可能だ。
近づけば明るさが変化するように弄れば、きっと国民たちも喜んでくれる。
プラネタリウムをやったり、魔導で一時的に星を作り替えたりとやってはいるが……落ち着いて星を見る機会はそう多くないしな。
「あっ、星の迷宮なんてのも面白いかもしれないな……って、ここら辺は俺一人で考えることでもないか」
アイデアマンであれば、もっといい案でも浮かぶんだろうが……残念なことに、現在優秀な思考能力補助スキルは存在しないのだ。
優秀な迷宮アドバイザーであるレンにそれは任せ、あとは造るためのエネルギーを注ぐことだけに専念しよう。
◆ □ ◆ □ ◆
真空状態の場所まで行けたので、宇宙に行けたと言っても過言はないな。
厳密に宇宙と星の境目は存在しない、自分が住む星も宇宙と定義すると面倒になると昔の方々は考えたのかもしれない。
いちおうは真空かつ無重力の場所が宇宙とされているので、そこまで行けただけで今回の宇宙旅行は成功だ。
最後に帰るとき、推進力が得られなかったら……まあ、スキルの要請を許可してもらえるまでずっとあそこに居たんだろうけど。
「せめて【強欲】と(領域干渉)が使えていればなー。月の欠片でも存在するなら、ゲットできたかもしれないのに」
吸血鬼が月の光で強化される、という性質があるように、AFOの世界にも月は在る。
その存在も確認できたのだが、いかんせん距離が遠いからな。
「──と、いうわけでな。今度は月旅行にでも行ってみようと思う」
「それを俺に言って、自慢をした気か?」
「いやいや、ただの経験談だろ。それに、空が飛べる船を渡したんだからそっちなりに工夫してほしいってことさ」
「宇宙は……さすがに無理だろ」
祭りで盛り上がるプレイヤーの中から、見つけだしたナックルとトーク中。
しかしなぜだろう、会話の間もこめかみが引くついているというか……。
「なんだなんだ? 俺に不満があるっていうなら、ちゃんと言ってくれよ」
「……本当に、言っていいのか?」
「当然だ。ほら、さっさと言えよ」
改めてそう言うと、ナックルは二コリを笑みを浮かべ──教えてくれた。
「なんでその姿で、しかも『パパ』なんて言いやがった! お前のせいで、出るとき凄い揉めてたんだぞ!」
「にゃははははっ! 俺を差し置いて大型イベントに参加したあげく、誰も俺に密告してくれなかったからな! リーダーさんや、その責任を取ってくだせぇな!」
「くそっ、見た目を変えられることは知っていたが……まさか、この場で使うとはな」
「気にするなよ、パパさんよー」
誰がパパだ! と吠えるナックルを気にする者は誰もいない。
いやまあ、あえて認識できるようにしている『ユニーク』のメンバーたちは気づいているんだが……俺に巻き込まれたくないのか、離れた場所から見ることに専念している。
「ところでパパ、どうして隠し事をしたのかな? 僕、寂しいよ」
「……そろそろ堪忍袋の緒が切れるぞ」
「そうか? なら、もう少し成長しようか」
そして俺は、魔法をかけ直し──
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