AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント完結篇 その05



「チッ、面倒な!」

「ほらほら、どんどん逃げないと!」


 どうしてこう、感情的な輩は有利になると【傲慢】になるのだろう。
 それは俺も同じなのだが、眷属が観ている時にそんなこともできないので、ある程度冷静さを保つことができている。

 偽りの魔王である方舟魔王の男が呼びだした『精霊喰らいエレメントイーター』、その能力を受け継いだ魔物すべてが今となっては精霊たちを滅ぼそうと体内に精霊を取り込んでいた。


「精霊よ、奴らに触れぬように倒せ! 貴様らが触れられれば、もう二度と生きられぬと思っておけ!」


 だがまあ、精霊の自我は薄い。
 中級たちは指示通りの戦闘を始めるが、下級の精霊たちは未だに食されていた。
 そのことに歯痒い気持ちが生まれるが、できることをやり続ける。


「“精霊変質チェンジエレメンタル”」


 魔法による働きかけにより、精霊たちの属性が光精霊となる。


「“合精霊創造クリエイトエレメンタル光輝導者ルドゥーシュ”」


 そしてそれらは一つとなり、人のような形となって現れる。
 青年のような造形だが、表情が無く……というよりそもそも輪郭が無い。

 まあ、ここら辺は未知のモノにはなれないという法則染みたルールだな。
 今回創造した『光輝導者』とは、なにせ超激レアな光の上級精霊らしいし。

 いわゆる、英雄を導く案内人とでも言っておこうか。
 超特殊な光精霊、その中でも上級にもなればそんな役割を持つとのこと。


「効果は単純、魔を滅する。普段は抵抗されるところだが……これは貴様のお陰だな」


 自分が死の危機にあれば、さすがに抵抗しようとあらゆる手段を許容しているようだ。
 己の属性──というより在り方そのものを歪め、それでも生きようとする本能的なナニカがあったのだろう。


「そして本能とは別、好奇の心を持つ者たちよ──“精霊変質”」


 光の精霊となることを望まなかった、半数の精霊たち……思ったより多かったが、そっち系の導士称号が多いからか?


「堕ちし闇よ、貴様らの望みを叶えてやろう──“合精霊創造・闇冥導者テネーシュ”」


 そして、闇属性と化した精霊たちは疑似上級精霊となる。
 女性型の何物でもない無貌の精霊。
 彼女の役割もまた、光精霊と同様に英雄とは対となる存在を導くことだ。


「さて、愚かな遺物よ、気づいていたか?」

「……上級精霊の特権か」

「いずれは喰らうこともできるだろう。しかし、それは本体だけだな。貴様の権能とやらも、やはりどれだけ絞ろうが限界はあるというわけだ。偽りに相応しい結果だな」

「そのうえで、光と闇の精霊を……面倒なことをするね」


 見ていて分かったが、弱点属性もまた複写してしまうようだ。
 一つぐらい弱点が無いと、やっぱり理不尽扱いされるよね。

 先ほど中級精霊は逃げたと言ったが、ならば上級精霊はどうしていたと思う?
 触れられようと変化せず、そのまま器を動かして戦闘を続行していた。

 たしかに、『精霊喰らい』は凶悪で精霊たちにす術はない。
 だが、それは『精霊喰らい』が相手の場合であって、『精霊喰らい』の能力を継承した魔物が相手の場合ではないのだ。


「悪を払う光、悪を呑み込む闇……堕ちた遺物にはちょうどよいだろう」


 そんな四大精霊に加え、新たに二属性の上級精霊……そして、上級無属性精霊ナース
 七大属性すべての上級精霊たちが、今この場に集結していた(疑似精霊を含む)。


「精霊魔王たるこの俺が命ずる──新時代の幕開けを、貴様らの手で切り開け!」

《オーーー!!》

「……そういうわけだ。貴様の相手は、俺と契約精霊が行わせてもらおう。時間は無限にあり、壊れる世界もない。もっとも、壊れるのは貴様だけであったな」

「勝てると思うのかい? この無限の兵を見てからでも」


 方舟から漏れるほどの数、溜め込まれていた敵のストックがいっせいに迫ってくる。
 精霊を喰らう相手に、上級精霊の皮を被った下級精霊たちは迎撃を行う。


「負けると思う理由があるとでも? 眠りがながすぎたせいか、どうやら呆けているようだな。下級精霊を喰われたことも、それさえ分かってしまえばいくらでもやりようはある」

「そのわりには、ずいぶんと驚いているようだったけどね」

「俺の配下を喰らったこと、万死に価する所業だ。俺とて配下に無慈悲ではなく、等しく行いを称賛できる。犠牲となった精霊たちには、あとで労いの言葉を贈ろう──地に伏せた貴様を杯のツマミとしてな」

「そうはならないさ……君がここで死に、私が世界へ証明するのだからね!」


 まあ、俺を殺さない限り確実に魔導は解除されないだろうしな。
 差し向けようとしている方向には、俺たちがいるのだから。


「さぁ、長く続いた戦いをここで終わりにしようじゃないか! 君ももう、退屈な戦いには飽きただろう?」

「ふっ、当然ではないか。貴様のような後ろに隠れることしかできぬ魔王など、真の魔王とは呼べぬのだからな」

「そうかい……たとえどうあろうと、私は創造主のご遺志を遂行するのさ。そのためであれば、いかなる犠牲を厭わない」


 ずいぶんと悪役チックな台詞セリフだが、俺も似たようなことを思うので気にならない。
 それよりも、俺も終わらせたいと思った。


「貴様を倒せば、俺も宴に出るのでな……悪いが一気にやらせてもらおう」


 アヒル型の“虚無イネイン”は、間もなく戦いに配属される。
 今どきの舟の方が優れていると、せっかくだし教えてあげようじゃないか。



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