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山田 武

偽善者と育成イベント終盤戦 その18



「炎とは文明の象徴だ。よかったではないか過去の遺物よ、素晴らしき炎様によって貴様は終焉を迎えるのだからな」

「クソックソッ──なんで消えないっ!?」

「もう忘れたか、遺物よ? 俺は精霊魔王を冠すべき者、その配下となる精霊たちは一味も二味も優れた存在だ。たとえ貴様程度が抗おうと、それは無意味なことだと知れ!」


 男は合精霊を少し馬鹿にしていたが、下級精霊だからこそできることもあるのだ。
 そう──意思がある精霊が、わざわざ俺の言うことを聞くはずがないのだから。


「クックック。早く消さねば舟は燃え尽きてしまうぞ、さぁ抗え舟の守り人よ!」

「あぁあああああああああああああぁっ!」

「叫ぶことしかできぬ……ふむ、少しはやれるようだな」


 魔力が男の感情に合わせて増幅し、炎を強引に鎮火しようと消費されていく。
 魔力がある限り延々と燃えるように設定していたので、それ以上の魔力で干渉されてしまえばすぐに消えてしまう。


「ナース、コルナ。アレを相手取る必要はない、そのまま神殿を破壊せよ」

『いいのー?』

「構わぬ。それに、俺の力があればどうとでもなる」

『……おにね、ナースのけいやくしゃ』


 まあ、鬼人たちの王だしな。
 コルナもブツブツ言いつつも、ナースと仲良く同じことをするのが嬉しいのか、かなり魔力を消費して神殿を攻撃していく。


「────ッ!」

「やれやれ、言葉にならない想いとはどのようなものなのか……」

「────、────────ッ!」


 風精霊による防音結界。
 男が唾を飛ばして叫ぶことなど、偽善者たる俺が聞くとでも思っているのだろうか?
 可愛い二次元の少女ならまだしも、男にそういう需要は無いしな。


「方舟も誓いを終えれば無残なモノよ。乗せるべき者を失い、ただ意思無き物どもを載せて運ぶだけの……幽霊船ゴーストシップではないか」

『どういうことかしら?』

「そうだな……過去の栄光に溺れているとでも言おうか。アヤツは自身が与えられた使命とやらに酔い、それを忘れられずにいる。すでに忘れられ、過去の遺物になったというのにだ。──死んでいるのだ、この舟は」

『そう、なんだ……』


 いえ、適当に言っているだけです。
 知らんがな、そんな複雑な事情なんて。
 過去眼でもあれば分かるだろうが、あいにく縛りプレイ真っ最中の俺には分からない。


『ね、ねぇ、あれをどうにかできないの?』

「……何をしたい」

『あんなのかわいそうじゃない! わ、わたしにできることがあればやるわ! だから、その……たすけてあげられない?』

「ほぉ、魔王に人助け……いや、舟助けをしろというのか」


 偽善者としてはそれがベストだろうが、今の俺は魔王をやっているわけで──


『けいやくしゃー』

「うっ」

『けいやくしゃー』

「…………」


 そんな俺の思考を知ってか知らずか、ナースが俺の方をジッと見てくる(気がした)。
 純粋な瞳をミントやカグに向けられた際と同じように、なんだか俺の中で物凄く罪悪感が込み上げてくるのはなぜだろう。


「ああもう! 貴様ら、それなりの対価をあとで頂くからな!」

『けいやくしゃー!』

『さすがナースのけいやくしゃね!』

『うんー!』


 重い、物凄く気が重い。
 どうにもできないから燃やして終わらせようと思ったのだが……どうして俺は、わざわざやろうとしてしまうのか。

 ──嗚呼、偽善者だからだな。

 風精霊に結界を解除させると、再び発狂している男の声が耳に入ってくる。
 代わりにナースたちの方に結界を展開し、せめてそんな声が聞こえないように施す。


「静かにしてもらおう──“精神強化マインドブースト”」

「き、君……なんのつもり……だ……」

「見ての通り、炎を消してやっているんだろう? 気が変わった──古き遺物よ、俺に従属するがよい」

「ふざけるな! 誰が君のような輩に、この舟を明け渡すものか! 果たされるべき使命のため、私はここを決して通さない!」


 壊れかけていた精神を補強したら、どうにか俺に反論できるぐらいには整えられた。
 明け渡す、と言われても……このままにしておくわけにはいかないんだよな。


「魔物を引き連れ、操る輩がどう言おうとそれは裁くべき悪だ。貴様の創造主も、今の貴様を否定するだろうな」

「そ、そんなはずは……」

「当然のように魔物を生みだす貴様の、いったいどこに善性があるのだ。貴様はしょせんこの俺と同じ、悪しき者なのだ」

「ち、違う……違うんだ……」


 突然弱々しくなるのだが──“精神強化”の強弱を調整して、わざとやっているんだけどこれは秘密だぞ。
 相手に精神を任せているからこうなるし、嫌ならさっさと戻ればいいだけなんだし。


「使命とはなんだ。貴様は何のために現世を彷徨う」

「……救いたかった。創造主のように、私も生きとし生きるものを。魔物を救ったのだってそうだ、居場所を失った魔物たちを救おうとして何が悪い!」

「誰が悪いと言った。たしかに貴様の行いは悪行であり、神はそれを否定する」

「そ、そうだ……けど、それでも私は……」


 後ろの二人が期待の眼差しを向けているんだが……いつの間にか、風精霊の結界を解除してやがった。
 まったく、いつから聞いているんだか。
 そう思いながらも、俺は男に語りかける。


「──だが、貴様はそれを正しいと信じ続けたのだろう? 俺が、貴様の所業を肯定してやろう」



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