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山田 武

偽善者と育成イベント終盤戦 その02


≪野郎ども、準備はいいか!≫

『オォー!』


 そのアナウンスに、いっせいに声を上げて返事をする。
 これまでと異なり、闘争というイメージに合った荒々しい実況だ。


≪闘いの時は来た! ただ目の前に居る者を倒し続けろ! 勝ちたきゃすべてを踏み躙って進め!≫

『オォー!』

≪ルールは無用、最後に舞台に立っていた二人が勝者だ! 細かいことは良い、ただ生き残っていればそれで結構! それじゃあ始めるぞ────スタート!!≫

『ウォォォー!』


 さすが参加者数が千を超えたイベントだ。
 八グループに分けてもその数は百を超え、大衆に数の力というモノを魅せつける。


≪会場に居る奴らのために、もう一度だけ説明してやろう。武闘会は全グループの予選がすべて並行して行われる。その試合光景は舞台の上に上げられている映像で確認できるからしておけ。それぞれ別の場所へ転移し、終わるか退場するまで戻ってこれない≫


 調べてみると、同じ座標の別の異層とやらに送ったらしい。
 表裏一体とか平行世界とか……まあ、細かい仕組みは眷属に今度訊いてみよう。


≪隠れていようが暴れ回ろうが構わない。最後に舞台の上に立っていれば、堕ちなければ飛んでたって構わない……勝利こそがすべてであり、負けることこそが罪なんだ!≫


 ひどい暴論のように聞こえるが、ある意味真理だからどうしようもない。
 過程と結果、どちらを芳しく思うかどうかでその意味合いは大きく異なる。

 頑張った、で済ませるのかそれともなりふり構わず何かをするか……結局どんなことをしようと果てには二つ──勝つか負けるかのどちらかしか存在しないのだから。


≪自分が育てた相棒を信じろ、本選からは付き添いもできるぜ。いったいこの期間に何を教えてきた? 内容を理解できるような相棒であれば、きっと勝利するはずさ≫


 ピクリ、なんだか小難しいことを考えていた俺の思考はそこでいったん停止する。
 アナウンスの言葉を噛み締め、ゆっくりと気になったワードを呟く。


「いったい、何を、教えてきた? 内容を、理解できる?」


 思い返すのはあまりに雑な教育。
 今でも少しばかり言うことを聞かず、なんだかお父さんに反抗期な年頃の娘さんみたいになってしまったナース。


「あれ? そこだけ切り取ると、全然教えてきた感が無いな……」


 慌てず騒がず、お菓子を貪り冷静になる。
 甘味の甘さが脳まで伝わり、リラックスしたところで思考を再度働かせた。


「……まあ、ちゃんと闘えているみたいだからそれでよかったのかもな」


 ブレる映像の中で戦うナースを見つけた。
 縛りプレーのせいで少しばかり苦戦しているものの、それでも他者を圧倒するだけの力があるので苦労はしていないようだ。

 聖霊眼があれば、異層越しでも精霊を視ることができたんだろうが……現在使っているのは精霊眼なので、そこまで便利な機能を有していない。
 つまりは観客席から、ナースを勇姿を見届けるしかないわけだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 自身の契約者が教育方針について少し思い返していた頃、ナースは魔力をあえて精練することなく他者へぶつけていた。

(がんばらないとー!)

 新たなスキル(魔力征圧)を使い、会場すべての者が持つ魔力へ直接働きかける。

『ッ!?』

 この世界の者は、その大半が魔力を用いて活動を行っている。
 意識せずとも無意識で微量の身体強化を行うことで、力強さを得ていた。

 つまり、魔法を使わない戦士であろうと魔力の恩恵に与っているということ──ほぼすべての者が動きを止めたのは、ある意味当然だったのだ。

『いけー!』

 膨大な魔力を消費し、他者の魔力へ強制的に介入することができるこのスキル。
 その膨大、という桁がごく一握りの祈念者にしか届かない異常な量だったため、未だに習得条件を満たす者が数人しかいないという激レアスキルだった。

 発動したそのスキルによって、魔力に蓋をされ放出が行えなくなる魔物などの参加者。
 主に影響を受けるのは魔法──いわゆる放出系の力を戦闘に用いるタイプだ。

『もういっこー!』

 攻撃を封じられ、闘えなくなっていた放出特化の参加者たちは次々と敗北する。
 突然弱くなった参加者にニヤニヤとしていた戦士系──循環系の力を用いる者たちも、たった今少しずつ顔を青くしていく。

 体からゆっくりと魔力が抜けていくのだ。
 無意識の魔力操作しか行えていない循環系の者たちは、外に漏れる魔力に蓋をする術を知らなかった。

 そのため魔力が底を尽き魔力欠乏症となる者やそのままリタイアする者が現れ、ナースの居る会場は一気に参加者を減らしていく。
 残っているのは放出と循環を両方行える者や、そもそも魔力を使わずに戦う者など。

『がんばろー!』

 魔力を精練せずに体外へ放出、圧縮することで小さな球を無数に生みだす。
 それらを可能な限り加速させ、曲線を描くように解き放つ。

 単純な防御や回避では意味を成さない。
 その選択を取った者たちは、一瞬で光の粒子となって消えていった。

『…………』
「…………」

 舞台の上に残ったのは二人。
 ──勝者が決まった瞬間だった。


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