AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と育成イベント中盤戦 その18
『けいやくしゃー!』
「ああ、見ていたから分かる」
『けいやくしゃー!』
アルカと別れ、ナースと合流するとやはり飛び込まれた。
彼女たちはクエストに忙しいからこそ、俺のようなモブに構っている暇はないと急いでいたのだ。
それなのに、逃げ回った俺って……どんだけ罪深いんだろうな。
人の話も聞かず、自身の矜持のために逃亡し続けた──本当に【傲慢】だ。
まあ、そんな俺も元から【傲慢】っぽい魔王様ロールをしていれば、少しはその傲りも隠せるようになるかもしれない。
ナースとの会話の中で、少しずつ修正していくことにしよう。
「しかし、ナースよ。そこまでピョンピョンと跳ねずとも結果は分かる。貴様だけの魅力とやらを、見つけることができたのだな」
『うんー!』
「そうか……それを研ぎ澄ませ、観衆すべてに伝わるナニカを生め。それこそが魅力であり、貴様の美というものである」
『おー!』
結論から言えば──予選突破だ。
正直これを聞いた時、アルカが去っていて良かったと思うぐらいに驚いていた。
ホ°ケモンで言えば『うつくしさ』ではなく『かわいさ』しか上げていない(つもり)でいる貧相なブラックバスぐらい必要性が見受けられないはずなのだ。
なのに合格……本当に唖然としたよ。
おそらくだが、王道の魔法使いのような恰好をした審査員の影響だろう。
コンテストっぽく幾人かの者たちが座っていたのだが、その中にそのような風貌をした者が座っていた。
ナースの暴力的な魔力とそれを緻密に操るコントロール能力は、精霊の中でも随一と呼べる域まで達している。
操作能力だけで見れば、おそらくまだ見ぬ王すらも超えて聖霊にも引けを取らない。
まあ、そんな人物が熱くナースの魔力操作に関する説明をしていたし──隣のアルカも少し感心していた。
前者はともかく後者は確実に優れているわけで、結果は……というわけだ。
「しかし、想定内だな」
『えー!』
「貴様が優勝でもせぬ限り、俺の想定の範囲内だと言っている。やる気はないが、貴様と同じ条件で出たとしても、俺であれば優勝を得ることができる……これは事実だ」
『むー……』
変身魔法が使えるのならば、であるが。
眷属の全面バックアップを受けて何かをすれば、全能に近い俺はあらゆることを成すことができるわけだ。
「だが、結局参加しているのは貴様だ。俺ではなく、契約者である貴様だ。成すべきことは決まっている──優勝しろ」
『うんー!』
「何をするのか分かっているだろう、ならば動くことだ。歩を止めた者が得るものは少ない。ゼロとは言わぬが、確実に望むべき至上のモノは無理であろうな」
ちなみに例外は【怠惰】である。
何もせずとも何もかもが手に入る、まあその前に殺されることあるが……長時間耐え抜いた【怠惰】は異常に強い。
スーやリープとも話したので、これは間違えようのない事実である。
「貴様には研鑽を重ねてもらおう。始まりが意思無き下級精霊であった貴様も、今では自由意思を持つ上級精霊だ。俺は貴様に頼り、何もせずともそうした結果を手に入れる。俺の契約者ナースよ、手伝ってくれるか?」
『んー?』
「……まあいい、今は本選の支度を行え。念入りな準備こそが最良の結果を生む。最悪の場合であろうと、虚空の力を解放することは禁じておく。それは武闘会に取っておけ」
『うんー!』
ピューッと飛んでいくナース。
微塵も残念さは感じていなさそうだし、制限は仕方ないだろう。
精霊の本質を泉でセーブすることで維持させているが、強すぎるナースの魔力は先も挙げた通り異常だ。
「……俺は何もしないさ、俺はな」
眷属との連絡も緊急用のモノを除けば使うことができない……だが、いつ情報を伝えることができないと言った?
うん、つまりはそういうことだ。
◆ □ ◆ □ ◆
そんなフラグっぽい文章を思いついても、結局俺自身は何もできないわけで……眷属と五感の共有もできない今は、ただ座すことしかできない。
「そういえば……両方のギルドが何をしているか分からないな」
最強ギルド『ユニーク』と(ほぼ)女性のみで構成されたギルド『月の乙女』。
片方は一部のメンバーが別で行動しているのをさっき知ったが、もう片方に関しては情報がいっさい俺の元に存在しない。
「いちおう宇宙戦艦の設計図は渡してあるけど、それはさすがに無理。でも、飛行ユニットぐらいなら造れるからな……そうなると活動範囲が『ユニーク』と同じくらい広いって計算になるか」
そりゃあずいぶんと探しづらいこって。
あの娘たちも今じゃ、かなり凄腕生産者となっているらしいし……元指導役として嬉しい話だよ。
「本選はもう少ししたら始まる。見た限り、周りは見た目に特化した奴や魅了系のスキルの持ち主。ナースのように技のキレで挑む奴もいる……優勝は難しいだろう」
無属性は華が無い、もちろん戦闘となればかなり有利に使うこともできるが……芸術性の話となれば、それは別問題だ。
──半透明だしな、無属性の魔力って。
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