AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と育成イベント中盤戦 その05
『うわーん!!』
「貴様も身の程を知れ。俺は貴様に知恵者としての助力など求めておらん。貴様は貴様らしく、朗らかに笑っていればいい」
『けいやくしゃー!』
「おい、どうした。これ、放せ!」
やだー、と叫ぶ精霊にどうしたらいいか分からず戸惑う。
ドMが三代目大泥棒のように飛び込んできたのであれば、全力でベクトル反射させて吹き飛ばすのだが……。
『けいやくしゃー!』
嬉しいような悔しいような、複雑な感情を抱くナースにモブは対応しきれない。
どれだけ経験を積んだとしても、子供と女の扱いは決して理解できないんだよ。
「ほ、ほれ、泣き止むんだナース! 貴様もよくやった、それは褒め称えよう!」
『……ほんとー?』
「あ、ああ! 本当だ」
たとえ本選に参加できずとも、魔力関係の問題に数問正解していたのだから称賛されるべきだろう。
実況によれば魔力の問題は難しく、正解者の数が少なかったと言っていたし。
『ほんとーにほんとー?』
「本当に本当だ」
『ならー! かなえてく』
「──いや、それはまだだ」
反応は見ずとも分かる。
物凄い勢いで地面に落ちると、ネガティブなオーラが可視化されている気がした。
『がーん!』
「口で言っても変わらんぞ。俺は言ったはずだぞ──俺の想定以上の活躍を見せた時に、褒美を与えると」
『……がーん……』
「理解しているようだな。俺は貴様に、知恵比べは無理だと言ったはずだ。貴様が答えられた問いは、俺の教えたものだけ。そのどこに俺は、想定以上の活躍を見出せばよいのだろうか? ……諦めろ」
そこは慰めるところではない。
ただ褒めていても驕るだけだし……何よりこの先、眷属とやっていけないだろう。
厳しい当たりをしているのも、こういう意味を持てたなと今さら思う。
ショボンとしているナースではあるが、理由がハッキリとしているので曖昧な落ち込みで逃避することはできない。
「……まだ三つある、とは言わない。貴様の意気込みは、その三つすべてで全力を果たさなければ意味を成さないことだ」
『?』
「努力と成果は比例しない。ならば、成果を超える努力をすればよい。貴様が行おうとしていることは……そういうことなのだぞ?」
『おー!』
浮き上がり、意気込むナース。
まだまだ鍛え上げる時間は存在する。
それに、今回の問答会は本選を二日目に行うらしいので、次の分野を競うまでに時間が確実に二日以上あるわけだ。
「武も魅も技も、魔力だけで突破することは難しいだろう。だが、貴様はその存在を進化させることをまだ望まない」
『うーん……』
「そこに関して、俺はもう何も言わないことにした。どのタイミングで貴様が進化しようと、必ず虚空に関われるようすでに仕込みは済ませてある。貴様次第だ、その選択も」
『おー』
精霊特有の力、それは秀でた魔力操作能力と自身の属性への抜群な適正だ。
しかしその分自我が薄いものが多く、指示が無ければ機能を示すことはない。
だからこそ人々は、精霊魔法という形で精霊たちに指示を与えていた。
今では妖精の血を持つ種族にしか発現する可能性が低い精霊魔法ではあるが、神代では普人族たちの祖先も使っていたとのことだ。
まあ、そんな事情どうでもいいし、聖霊神の加護を手に入れれば後天的に精霊魔法の適性を得ることも確認済みだ。
それと類似した事象を起こせれば、古云々の話なんてどうとでもなるわけで……うん、関係なかった。
「それじゃあ、また修業にでも」
「──あっ、師匠!」
「……ナース、入っておけ」
『はーい』
まあ、会場の近くでぶらぶらとしていれば誰かに会うのも仕方ないか。
会いたいと思えば会えないが、そう思わない時は人に会うものだな。
真っ黒な髪をバッサリと短く切り上げた、少年のような見た目をしている少女。
……うん、僕っ娘はいろいろ僕っ娘だな。
「師匠、今変なこと考えなかった? 僕の首より下を見て、なんだか憐憫の目を向けてた気がするんだけど……」
「やれやれ、自意識過剰な弟子を取ったつもりはないんだがな。ああ、それとは関係ないが、ボーイッシュってどういう意味で使えばいいんだろうな」
「なんで今訊いたの!? 師匠、僕のことどう見ているの!?」
「いや、そんな胸を隠すような理由じゃないことは確かだな」
ゲーム補正は納得だが、ユウの本体はあくまで三の世界だ。
いかにその反応が初々しくても、ミントやカグの可愛らしさに比べるとな……。
「だから、なんでため息を吐くのさ!」
「ん? まあ、なんでもいいだろ」
「重要だから! 僕にとって、なんだか訊いておかなきゃアイデンティティが無くなりそうな重要な質問だから!」
「って言っても、何を答えればいいんだ? ため息を吐いた理由なら、可愛い眷属を思いだしたからだぞ」
ユウが何を言いたいのか分からないな。
幼いという点で可愛さを求めるのであれば先の二人、しかし別の角度から可愛さを求めれば当て嵌まる眷属は他にもいる。
疲れ切った心を癒すのであれば、彼女たちの幻想を脳に呼び起こすのが一番だろう。
「ハァ……で、その回答で満足か?」
「な、なんて師匠なんだ。自分が全然悪くないと思ってるね?」
「ああ、これっぽっちも」
「……僕、どうしてこの人の弟子になろうと思ったんだろう?」
知らんがな。
実際、師匠らしいことをしているわけでもないんだし、別に弟子を止めてもいいと思うのは俺だけか?
「僕が訊きたいのは」
「──“水鏡転陣”」
「あー!」
また泉からやり直しか。
やれやれ、困った弟子を持ったな。
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