AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と育成イベント序盤戦 その13



「──さて、俺に訊きたいことがあるという話だったか? 許す、話すがいい」

『はなすがいー!』

「……まあ、別にいいわ」


 すみません、本当にすみません。
 イアが訊ねようとするその瞬間、俺の中から回復したナースが飛びだした。
 そのため、俺の口調はナースとの会話用のモノを強制されるため……こうなっている。


《あとでみんなに教えようかしら》

「(止めて、本当に止めて!)」

《可愛い子に良いところを見せようと男子って、みんなこんな感じなのかしら?》

「(し、知らないからな!)」


 ナースが盗聴できない秘匿回線による念話で状況は説明したので、先の台詞セリフ以上に俺の状況は理解してもらっていた。
 ナースは現在、イアにだけ見える状態でふわふわと漂っている。

 イアとしても、わざわざ俺の気を損ねて目的を達成することができなかった……というのは御免蒙るのだろう。
 俺の口調など含み笑いで一蹴して、さっさと本題に入った。


「アンタ、何に参加させる気?」

「武闘会しかなかろう。こやつのどこに、それ以外を成す技量がある」

「……そうね。けど、アンタの配下って何でもありだし」

『ふっふーん!』


 胸(?)を張っているナースはスルーとして、まあそれもそうなんだよな。
 ナースが純(属性)精霊や具現(属性)精霊にでもなっていれば、魔力で腕を出すことができた。

 虚空(属性)のように不安定な属性でなければ、すでに形も定まってたかもしれない。


「こやつには、特別な命がある。わざわざ別のことにかまけさせる理由はない。今は隠してはいるが……ナース」

『はーい!』


 返事と共に、ナースが隠蔽していた膨大な魔力を解放する。
 精霊たちに張ってもらった結界が流出を防ぐのだが……これは、自分で張った方が正解だったかな?


「っ……!?」

「ナース、もう止めろ」

『がーん!』

「いちいち言わずとも分かる。いいから止めろ、命令だ」


 驚くイアを尻目に、ナースの魔力を再び隠蔽させていく。
 いかにも言動がアレだから油断していたんだろうが、俺の魔力を注ぎまくっているのだから成長速度は半端ない。

 それに、さっきまでのダウンから回復してことでさらに魔力量は増大した。
 虚空属性を行使しようとした際も、これでより多く扱えるようになるだろう。


「どうだ、イア。それなりに使えるだろう」

「アルカちゃんより、魔力だけなら持っているんじゃないの?」

「アイツの今の魔力量なんて、俺は逐一把握していないから分からぬ。まあ、ナースの方が優れているのは自明の理だがな」

『だからなー!』


 ただ、アイツもいろいろ凄いよな。
 孵化した杖とか渡した魔本もあるし、闘えばまだアルカの方が強いだろう。


「まあ、魔力だけあってもあのアルカだ。今のコイツでは勝てないだろうが」

『えー!?』

「──だからこそ、このイベントなのだ。こやつを最強の聖霊とし、再びイベントの覇者となることこそ俺の目的。邪魔するのであれば、容赦はしない」

『しないー』


 要するに、『精霊マスターに俺はなる!』ということだな。
 せっかく最初の方に出てくる鳥ホ°ケモン的な精霊を、伝説級まで育て上げようとする夢の一大プロジェクト……邪魔するのであれば、周りは全部叩き潰す予定だ。


「しないわよ、別に。ただ、うちの子たちも参加するから当たったらお手柔らかにね」

「……それでもなお、足掻く気か」

「一部門一体なんて規制はあるけど、全部に参加はできるのよ。ナースちゃんは武闘会だけみたいだけど、こっちは全部門に参加する予定よ」

 育成イベントでは一人一体しか育成することができないが、裏を返せばそうでなければ何体でも用意できるということだ。
 今回のイベント、実は使役系職業を優遇するイベントなのかもしれない。


「そうか……武闘会では、優勝を諦めるのだな。一番苛烈な闘いが繰り広げられるであろう場所だ、ナース以外に優勝できる者など存在せぬ」

《ふふっ、せぬって……ぷっ》

「(わ、笑うなっ!)」

「ええ、そうでしょうね。けど、当たるとなれば別よ。経験を積むって意味でも、全力でいかせてもらうわ」


 わざわざ念話で告げてくるってことは……そんなに変だったのか?
 ナースの手前、それを今さら止めるわけにはいかないし……どうしようか。


「ああ、そうだ。イア、こちらからも訪ねておきたいことがあった」

「何かしら?」

「あいつら今何してる?」

「…………自分で訊きなさいよ」


 そう言って、イアは席を立つ。
 わざわざ訊くのが恥ずかしいというのもあり、彼女に訊ねてみたのだが……言い方が駄目だったのだろうか。


「まあ、よかろう。それより今、会話につきあってくれた礼だ──これをやろう」

「っと、何よこれ?」


 イアに渡したのは、いちおう育成屋としてやっていけそうなアイテムの一つ。
 リストバンドの形をした魔道具だ。


「『増力の帯パワーギプス』、例の神話をパクった育成アイテムだ。装備中、全能力値に補正がかかるしレベルアップしやすくなる」

「チートね、本当に」

「ああ、本当の意味でズルいアイテムだ。だが、反則では無い。嫌悪するのであれば構わぬが、そうでないなら育成中のモノにでも使うがよい……死なせずに済むぞ」

「……あ、ありがとう」


 急にそういう反応をさせると、こちらとしてもどういう反応をすればいいか分からなくなるなー。


「こちらこそ……ではな。行くぞ、ナース」

『ばいばーい!』

「え、ええ……また今度」


 混乱中のイアを置いて、俺たちは町の中をふらふらとしだす。
 ……俺もちょっと混乱してたんだよ。



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