AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と船護衛 後篇



 魔物は何重にも波となって船を攻撃する。
 襲い続ける魔物の責め立てに、やがて少数だけでは対応できず他のプレイヤーたちも戦闘を行う。

 俺も協力をしているのだが、それでも縛りがかかっている俺では対応が遅れている。
 二丁の拳銃をあらゆる方向へ発砲し、乱反射を起こして魔物を焼き尽くす。

 火属性しか使えない今、水属性を強く保有する海の魔物たちへ攻撃する手段は少ない。
 もちろん、過剰な魔力を注げばワンキルも容易いんだが……やりすぎると、クラーレたちに迷惑が及ぶからな。

「そんなこんなで、私の出番は少しずつ攻撃から援助に移行するよ。ゴールもそろそろだし、ますたーたちが頑張ってね」

「分かりました」

 火属性の魔法にも、少なからず補助系統の魔法が存在する。
 それを弾丸に籠めて、プレイヤーたちに発射して付与していく。

「火は火で、新陳代謝を活性化させる分にはちょうどいいんだよねー。体を燃やすって言うんだし」

 空腹値が加速する代償もあるらしいが、能力値だけでなく再生力の強化なども働く。
 俺はあまり使わない魔法ではあるが、このような状況であれば使わざるを得ない。

「あとは……これかな? “紅蓮鳥ブレイズバード”」

 炎の鳥が空を舞い、天から俯瞰を行う。
 自分にもかけた強化魔法でジャンプをすると、そこに着地する。
 うん、空を飛ぶ妖女とはなかなかイカした光景だろう。

「ふんふんふーん、ふふふふーん♪」

 歌魔法が使えれば、それによる補正もかけられたんだが……ただの鼻歌でしかない。
 俺の意識を高揚させ、銃弾の精度を上げるために好きな歌を奏でよう。

「二人とも、準備はいいかな?」

《ばっちりー!》
《問題ありません》

「それじゃあ、始めよう──“聖魔共合”」

 二丁の拳銃は一つに重なり、大型の拳銃ハンドキャノンに姿を変える。
 目標ははるか遠く、決してその影響が周りに知れ渡らないように細工を施す。

「魔力充填120%! 面倒な幻想なんて、さっさとぶち壊すよ──“双極バイポーラー”!!」

 膨大なエネルギーを解き放つが、それをさらに包むように隠蔽の力を仕込んであった。
 上空から撃ち込まれた白黒の螺旋が、橋をかけるように遠くの海へ真っすぐに伸びる。

 その先にいるのは、強大な魔物。
 これまで呑気に他のプレイヤーに任せていたようなものとは違い、ある程度力を使って対処しなければならない存在。

「……うん、中ったみたいだね」

 鳥から眺めた景色は、確実なものだ。
 海の一点に注がれたモノクロの光が、一瞬だけ閃光を放つ。
 はるか遠くで煌めいたその輝きは、誰の目に留まるまでもなく消滅する。

 いったいどんな存在だったのか、船の上で魔物たちと戦うプレイヤーたちは知る由もなく魔物は死を迎えた。
 ……まったく、ただ船に乗るだけでも俺の凶運はナニカに作用するのだろうか。

「ボスを倒した影響で、魔物の狂化も弱まるだろうか。うんうん、これならパパッと決着がつけられそうだ」

 眼下に浮かぶ景色を眺めてみれば、均衡していた戦いの天秤がプレイヤーたちに傾き始めている。
 物凄い遠くから、それでもなお魔物たちに効果を齎すだけの能力を持っていた……一体全体、プレイヤーたちが戦っていれば死に戻りは確定だっただろう。

「さて、もう少し強化魔法で補助をしておいた方がいいかな? ますたーたちも、あんまり無双しすぎると疎まれそうだし……」

 あくまで俺一人が、となれば捉え方も悪意の矛先も扱いやすい。
 主の行動を阻む、あらゆる害意を防ぐのが従者としても従魔としても役目であろう。

 鳥を動かし、滑空するようにしてクラーレたちの元へ向かう。
 ゴールは間もなく、残りは残党狩りだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 SIDE:クラーレ


「やっぱり、無理をしていますね」


 空で何かをしたメルによって、遠くで一瞬小さな光が生まれました。
 わざわざ上に行った時点で、なんとなく何かをすると思っていましたが……本当に、過保護な人です。


「シガン、見えましたか?」

「ええ、数十キロも離れた場所から狙撃をする……しかも規格外とはいえ拳銃ね。存在自体が、もうある種のファンタジーよ」


 まったくです。
 予め視覚を強化する魔法を使って、代表してシガンに状況を確認してもらっています。
 わたしたちはその視覚を共有することで、メルが起こした惨状を眺めました。


「二丁の拳銃が一つになったと思えば、そこから凄まじい魔力が放たれたわ。隠しているみたいだったけど、六人分の看破を重ねればギリギリ把握できるレベルだったわ」


 今のメルは縛りプレーの最中と言っていましたし、その結果どうにか隠蔽を突破できたのでしょう……そもそも六人分でどうにかって、どれだけ理不尽なのかが分かります。

 全員が超級に達した鑑定スキル、そして上級の看破スキルを使ってもなお、秘密だらけのメルの全貌は暴けませんでした。


「──そうね、そろそろそうしましょうか。クラーレ、メルが戻ってくるわ。さっさとこれを倒しておくわよ」

「ええ、そうしましょうか」


 レベルをどれだけ上げようと、メルが見ている光景を見ることはできなさそうです。
 武闘会で魅せられた、スキルだけでは説明できないような動き。

 ──あれをモノにすることこそが、もう一つの方法となりそうです。

 魔物はそろそろ倒し終わります。
 メルのかけた魔法のせいで、なんだかお腹が空いてきましたし……責任を取ってもらう必要がありますね。



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