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山田 武

偽善者と三回戦第二試合 その08



 結論から言えば、ソウは隻眼の老神を倒すことに成功した。
 認識できるすべての攻撃に対処できる反転のルーンに対し、ソウはシンプルな作戦でそれを攻略する。

(要するに、暗殺すればいいのじゃろう)

 息吹を吐き、視界を奪った上で畳みかけるように攻めた。
 槍に捌かれ、もう一本の棒もルーンによって対処される中、尻尾を鋭利な刃のような形状へ作り変えて背後から突き刺したのだ。

 老神は心臓となる核の部分を貫かれ、ゆっくりと姿を粒子に変えていった。
 ──そして、最後っ屁と言わんばかりに握り締めていた槍を投擲したのだ。

「……主様の言う通り、本物とはこれよりも上なのかのう。どうにかせねば」

 翼を使って飛翔するものの、凄まじい勢いで槍もまたソウを追いかける。
 その速度はマッハに達しており、辺り一帯に強烈なソニックブームが発生していた。

「……まったく、道化は道化らしく大人しくしていれば好いものを」

 途中進路を曲げようとするたびに、道化はルーン文字を用いてソウの進路を変更させまいと攻撃を行う。
 威力はそこまでではないが、その一つ一つが的確に動こうと魔力量を調整しようとする瞬間に放たれるため、ソウは動けずにいた。

「今度はお主か。空を飛べるのか」

 天候をも司る雷の神は、自身の体を風で浮かせることでソウに追いつく。
 進路を固定された今、先回りすることも容易くできた。
 道化はその時間稼ぎをしていたのだ。

「前門の雷と大蛇、後門の神槍か……眷属でも、どれだけの者が対処できるじゃろうか」

 雷神のさらに奥で、大蛇が巨大な口を開けて魔力を溜めこんでいた。
 その魔力量の変化は、ドラゴンたちが好んで使う息吹を用いている際と同じである。

 後ろからは必殺の神槍が追いかけ、前にはそんな大蛇以外のすべてを一撃で潰してきた槌を握る雷神……ある意味絶体絶命だった。

 それでもソウは恐怖を感じない──それ以上の恐怖を、身を以って知っているから。
 それでもソウは死を恐れない──死による別れを、決して許されていないから。

「主様との闘いに向けて、もう少し運動をしておこうと思っていたところじゃ。お主らにつきあってもらおうかのう!」

 握っていた棒の一本を、槍に変えて道化の元へ投擲する。
 その一瞬のみ必要な筋肉に魔力強化を施したため、速度は光を超えた。

 道化は歪んだ笑みを浮かべたまま、世界から存在を滅される。
 対策を施す暇など一瞬たりともなく無く、粒子となって消えていった。

「まずは一人」

 すぐに鱗を剥がして棒の形に変えると、雷神の槌に二本の棒を用いて挑む。
 柄の短い槌が振るわれるたびに凄まじい轟雷がソウを襲うが、魔力の膜でシャットアウトしている。

 何度も何度も打ち合うたびに、魔力が少しずつ削られた。
 時折神槍が勝負を邪魔するように飛んできては、ソウの心臓を狙って的確に隙を突く。

 それでも龍の心臓が無尽蔵の魔力を生みだし、損失した分を補う。
 闘いに意識を向けることで心臓の脈動は加速し、他に回す余裕まで生まれる。

「これで二人」

 神槍の軌道を龍眼で読み切り、再度強化した肉体で棒を振るって弾き飛ばす。
 それを見て勝機と思った雷神が、轟雷を帯びた槌を振るう……しかし、あっさりそれを受け止めると、棒を二つ繋ぎ合わせて長さを増やし、そのまま心臓を貫いた。

「まだチャージにかかっているようじゃな」

 そう呟くと、次に神槍がどうなったかを確かめる。
 龍眼を使っても周辺に槍の存在が確認できず、五感を研ぎ澄ましても何もないことから消失を認識した。

「ならば、儂も息吹を以ってお主を終わらせてやろうではないか」

 大きく息を吸い込み、周辺の魔力を根こそぎ奪って取り込んでいく。
 現在は人の大きさでありながら、巨大蛇と同様……いや、それ以上の速度で魔力を掻き集めている。

「溜まったか──カァァァァァッ!!」

『────────ッ!』

 二つの閃光がそれぞれに向けて放たれた。
 銀色の息吹と毒々しい緑色の息吹は、その中心でせめぎ合う。

 そしてそれは、すぐに終わる。
 緑色の光は銀色の光を蝕もうとするが、それを拒絶され浄化されていくからだ。
 削られていく自身の息吹を見ながら、やがて巨大蛇は銀色の奔流に呑まれていった。

「……これで三人、いや三匹目か? どちらにせよ、これで残るのはフェニだけじゃ」

 翼を広げ、ゆっくりと宙で倒れたフェニの元へ向かう。
 
「まだ寝ておるとは、やはり早く終わらせた方が良さそうじゃのう」

 フェニは眠るように気絶しているのだが、呼吸をまったく行っていない。
 魔力も希薄で何が起こるか分からない……早急に治療する必要があるとソウは考えた。

「どれ、ではさっそく……」

 二つを重ねていた棒を突きつけ、この試合に決着をつけようとしたソウ──その心臓を狙って、槍が穿たれる。



「何のつもりかのう、フェニ?」

「この瞬間を待っていた。我がこの槍を使う資格はこうしなければ得られなかった。だから生命反応を極力抑え、この一撃のためだけに構えていたのだ」

「……なるほど、そういうことじゃったか」

 動けないと思っていたフェニから、神槍による一撃を受けてしまったソウ。
 ……だが、体にいっさいの変化はない。

「儂がなぜ人の姿のまま、この勝負をしていたか分かるか?」

「っ……槍が!」

 逆に神槍に罅が入り、粉塵となって消えていった。
 何が起こったか分からないフェニを無視して、ソウは説明を続ける。

「龍の姿となれば、あらゆる攻撃を拒む鱗が働いてしまう。儂の鱗は特別性、魔力を光の粒として宙に放出しておる。主様に頂いたこの服にはそれを抑える効果があるのじゃぞ」

 子供が貰った玩具を自慢するように、服を指差して自慢を行う。
 チラリと見せた鱗から、白銀に輝く粒子が飛んでいた。

「そして先の龍人化で、儂の全身に鱗が巡った。その時点で、この結末だったのじゃよ」

「……そうか、そのときからか」

「では、早めに治してもらうが良い。儂の眼は誤魔化せんぞ」

 棒を突き刺し、フェニを殺すソウ。
 龍気が炎に喰らいつき、防御行為すべてを無効化する。

「ご主人と闘いたかった」

「皆、そう言っていたではないか」

 粒子となって消えていくフェニ。
 ソウは棒を手放し、宣言を待った。


≪試合終了! 勝者──ソウ選手! 決勝戦の組み合わせは、メルス様対ソウ選手だ!!≫


 そして舞台は切り替わり、元の場所に戻っていく。
 決勝戦は──間もなく行われる。


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