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山田 武

偽善者と三回戦第一試合 その04


 勢いよく地面に突き刺された魔剣。
 魔力を回路を通じて剣身に染み渡らせた魔剣は、刻まれた能力を解放する。

 大地が揺れ動き、メルス以外のすべてが動くことのできない大地震を起こす。
 フィレルはとっさに翼を広げ、ほんの少しだけ足を地面から離した。

≪──なるほど、これは常人には再現不可能な技術ですね≫

 一方、実況席側にも変化があった。
 メルスの持つ魔剣の情報を調べていたコアが、ついにそれを掴んだ。

≪どうやら、(回路改変)と呼ばれるスキルを用いて組み替えていますね。もちろん、改変後の設計図を知らなければ、能力の解放はできませんが≫

≪アイツの生産チート、本当に異常だな≫

≪メルス様はいろいろと造られますね≫

 真実を知らず、自身の常識のみしか当て嵌められない他二名には、このような感想しか持つことができない。
 ほんの少しのミスも許されず、ピタリと魔力を回す路を整える難しさ……それはそうした知識を持たねば分からないことだった。

≪ホウライさんはともかく、マスターは理解してください≫

≪いや、チートって分かってりゃそれで充分だろ? アイツ、前に船に魔力回路を刻んで攻撃コマンド作ってたぞ? さすがに俺でも凄ぇって分かるよ≫

≪あ、あの……私、貶されてます?≫

 少し不安そうになるホウライであったが、あいにくその疑問に答えてくれるほど、彼女たちとの仲を深めてはいない。

≪マスターにも分かりやすく、メルスさんの魔剣の存在の非現実性を提示しましょう──入口しか無いダンジョンのようなものです≫

≪ハァッ!? そんなの実在するわけ……ってそういうことか。となると、あの魔剣はあってはならない物なのか≫

 ダンジョンには絶対遵守の決まりがあり、何らかの方法で入り口と出口を造らなければならない。
 直接穴を開けずとも、転移陣などによる移動方法であってもダンジョンに出入りさえできれば構わない。

 ……それすらしていないダンジョンは、決してダンジョンとして成立せず、ダンジョンとしての機能を使うことができなくなる。

≪メルスさんが使えば、可能性が無限大に広がります。状況に応じて回路を組み替え、発動したい能力を解放する……魔法よりも一つに絞ってある分効率が良く、ああして連続での使用も可能となっています≫

≪まあ、アイツはそうでなくとも魔力の化け物だしな。要らなくね?≫

≪限界はあります。メルスさんは職業の運命に囚われない代償に、あらゆるものに対する適性を持っていて持っていませんので≫

 たとえば『魔剣使い』、その職業に就く者であれば魔剣に対する高い適性を有する。
 そして燃費良く魔剣を扱うことができ、ただ魔剣を振るう者よりも格段に魔剣を巧みに使うことができる。

 だがメルスには、そうした適性を高める職業がいっさい存在しない……封印され、奪われたからだ。
 スキルとして使用を許可する証を所持していても、それを扱う適性がない……そのためひどく燃費と効率が悪くなり、それを補うために膨大な魔力を一度に大量消費することになった。

≪──それでも笑って勝とうとするのが、メルスだよな≫

≪……実況が偏った意見をしてはいけませんよ、マスター≫

≪気にすんなって。ほら、ちょうどいいところじゃねぇか!≫



 地震を起こした後も、メルスは何度か魔剣の力を解放していた。
 嵐を生み、岩を落とし、植物を生み、霧を散らす……あらゆるパターンの回路を自在に切り替え、フィレルを翻弄する。

「──“熔かせ”」

 剣身に宿った灼熱の力。
 メルスが薙ぐように剣を振るうと、それが解放されて斬撃となって放たれる。

「“血盾ブラッドシールド”!」

 雷を防いだように、熔岩に向けて血を固めて作った大鎌の一部を用いて盾を生みだす。

「っ……!」

 しかし、膨大な熱エネルギーを秘めたマグマは凝固された血を一瞬で熔かす。
 斬撃として濃縮された高濃度の力が熔断を行い、フィレルの皮膚に傷を付ける。

「ようやく傷か……けど、ドラゴンの再生力の前にそんな傷は無意味なんだよなー」

「旦那様、魔力はあとどれほど?」

「うーん……六割かな? 最初の魔導で大量消費しちまったし」

「……ずいぶんと、効率が良い魔剣ですね」

 まあな、と答えて再び回路を組み替えていくメルス。
 どれを使うかは本人にしか分からず、メルスの思考パターンを読み取る以外での判別法は存在しない。

(一度として、旦那様は同じ属性を使っていない。旦那様の生みだした代物が、一度限りでしかないなどという制限を持つはずない。つまり、まだ遊んでいる)

「──言っとくが、遊んではいないからな。混沌魔剣には制約がある……連続して使ってはいけない、なんてものは無いけど、混沌を体現しなきゃならない」

 フィレルの思考を読み、答えるメルス。
 眷属を相手に驕ることはなく、全力を以って応えてきた。

 魔剣の秘密を伝えようと、勝つだけの自身があるためバラしたのだ。

「けどまあ、少し魔力も回復したから大丈夫かな? ギアを一つ上げようぜ」

「──“吸血鬼化”」

 瞳孔を深紅に染め上げ、肉体に眠る吸血鬼の力を高めるフィレル。
 彼女が自身の言葉に応えてくれたことに小さく微笑み、メルスもまた告げる──

「“燃えろ”、“凍えろ”」


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