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山田 武

偽善者と三回戦第一試合 その03

≪メルス様とフィレル選手、互いに武器を取りだして戦闘を始めました≫

≪メルスは王道の剣、フィレルは巨大な鎌みてぇだ。いや、なんで鎌?≫

≪魔法と違って武術は、ある程度の使用ができますので……いつまで経ってもまったく上手くならないマスターとは違いますね≫

≪う、うるせぇ!≫

 薄らと刃に氷を纏う、剣を握るメルス。
 赤褐色の血が凝固した鎌を握るフィレル。
 両者は武技を使わない小手調べということで、魔力を籠めて強度を上げる以外、何もせずに武器をぶつけていく。

 先読み能力によって鎌の動きを読むメルスだが、二つの強化方法で加速するフィレルの動きを己の眼では捉えられてはいない。

≪なんか謎だらけだな……氷なのか。氷関係の神話や伝説の剣ってあったか?≫

≪氷のような、と評されるものであればいくつかあります。ですが、マスターの世界に該当する物はございません≫

 氷の概念が過去の人々に強く武器と結び付けられなかったのか、実際に後世まで明確なイメージを残すことができなかった。

≪なら、メルスが使ってるのは普通の魔剣なのかよ……いや、魔剣は普通じゃねぇけど≫

 鎌とぶつかる度に剣が光り、霜を付着させていく。
 凄まじい冷気がフィレルを襲うが、陽光の力を身に宿した今の彼女には気にもならない温度でしかない。

 それでも、フィールドに影響を及ぼし霜は侵食領域を拡大させていった。
 冷ややかな空気が場を支配していく。
 空で輝く太陽はそれを拒絶せず、冷たさと温かさを同時に大気の中で維持する。

「旦那様、その魔剣はいったい……」

「ん? 適当な試作品だが……魔力があれば使える霜の魔剣だ」

「て、適当?」

 発言に驚くフィレル。
 実際に闘うことで、魔剣の凄まじさを知っているからこその反応。

 魔剣とはいえ、銘もなき武器と自身の力が対等にぶつかる事実……。
 銘があれば特殊な力を持ち、それが何らかの性能を発揮することも理解できる。

 だが一つの性能しか持たない通常の魔剣、それが影響を及ばさずとも自身に霜を付着させたこと──それが気がかりであった。

「氷の魔剣なんて、伝承が少ないものは再現するものすらない……なら、回路もあんまり組み込まなくて済む。いちおう言っておくけど、その分効率が良いから優秀だぞ?」

「……なんだか、悔しいです」

 その想いを体で表すように、より苛烈に握り締めた鎌を振るう。
 大気を薙ぐブォンッ! という音がその度にメルスの耳に響く。

「旦那様はティルに使ったような神剣を使わず、私に勝とうとしているのですね」

「ん? まあ、そうだな」

「……ひどいです、眷属差別です」

「おいおい、アレだって手札の一つでしかないんだぞ。それに、対フィレル用のものだってちゃんと用意してある」

 そういって、魔剣を鞘に納め腰に携える。
 同時に反対の手で“空間収納ボックス”を使い、新たな武具に手を伸ばす。

 マーブル模様に輝く剣身。
 混沌を体現したような妖しい剣であった。

「これも銘は無いけど……まあ、混沌魔剣とでも仮に付けておくよ」

「混沌魔剣、ですか?」

「まあ、とりあえず試してみようぜ」

 振り回される鎌に刃を重ね、攻撃を防ぐ。
 メルスの魔剣は再びその剣身と同じ輝きを放ち、特殊な力を発揮する。

「──“燃えろ”」

「っ……!」

 とっさに回避したフィレル。
 彼女が先ほどまで居た場所は、突然轟炎が灯り燃え盛る。

 だが、メルスの攻撃は終わらない。
 もう一度剣身を光らせ、再度告げる──

「“痺れろ”」

 剣先から稲妻が放たれ、フィレルに向けてジグザグと進んでいく。

「──“血盾ブラッドシールド”!」

 大鎌の一部が滴となって稲妻の進路に飛んでいくと、巨大な盾の形を成す。
 稲妻はそこは吸い込まれるようにぶつかると、一瞬激しく光って消滅する。

「“凍えろ”」

 何度も何度も、メルスは剣に魔力を籠めて宣言する。
 霜の魔剣とは異なる、場を瞬時に冷やす液体窒素のような気体が剣から漏れだす。

 フィレルは身に纏う陽光の力を使い、その冷気を払いながら……メルスの行ったことに唖然としていた。

 ある常識を知る者であれば、その様子を見て目を疑うだろう。
 あるいは自身の耳に幻聴が訪れたのかと不思議がるだろう。



 特殊な魔具は、魔力を流し特定の単語を告げることで回路に刻まれた能力を解放することができる。
 聖武具や魔武具、神武具といった上位の武具にもそうした仕掛けが施されている。

 ──だが、それは一つに限られている。

 一つの武具に一つの能力。
 これが絶対遵守の法則で、これまで守られてきた理であった。



「旦那様、どうして複数の能力を!?」

「前に『ゲイ・ボルグ』──ソウとの闘いで使った槍を創ったんだが……能力が一つじゃ満足できなかったから、どうにかしようとしたら二つ入れられた。あとは、それを改良して複数できるようにしただけだ」

 特に重要なことではない、日常会話でもするかのようにあっけらかんとしたように答えるメルス。
 彼自身は努力もせず、(生産神の加護)の恩恵でできたことだと認識しているからだ。

「──そして生まれたこの混沌魔剣は、その銘に恥じないようにほぼ無限の回路を自在に組み替えることができる……まあ、条件はあるけどな」

 そして魔剣に魔力を籠め──メルスはまた告げる。

「──“揺れろ”」


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