AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と三回戦第一試合 その01

「魔力充填は満タン、この試合からなら劣化版とはいえ魔導が使えそうだ」


 ティルとの試合で仕掛けた魔導は、始まる前に行ったからこそある程度の威力を誇ることができた。

 事前準備を欠かさなければならないトラップは、もう行うことができない。
 無限の魔力を練り上げることも、虚空から膨大なエネルギーを取り込むことも今の俺では不可能だ……制御が不可能だしな。

 それでも、本来の七割程度があれば普段以上の活動が可能だろう。
 肉体的にもティルとの対戦時よりも向上したし、フィレルの二重強化にも耐えうる戦闘ができる。


《フィレル様の因子を、自身に取り込まれればよろしいでしょう。一回戦で使用しているのですから、自ら封じているわけではないでしょうに》

「簡単な強化だが、なんだかそのものをパクるのはな。月読森人ルナエルフだけなら、まだ俺の力として納得できるけどさ……それ以上は、さすがに対等にならないだろう」


 別の種族であれば、まだいいけどな。
 まったく同じ種族やその上位種族であるなら、止めておいたほうが良いだろう。
 ……いやまあ、フィレルの上位種族なんて存在するかどうかも分からないけどさ。


「──血を飲ませる気はないけどさ」


 うん、俺の血を吸うと酔っちゃうからな。
 常に血液不要な肉体を整えているが、そうでなくとも血で酔う可能性は高い。

 ……うちの眷属は、どいつもこいつも強力な魔力量を持っているから酔いやすいんだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 再び祝砲が上がり、開戦を告げる。

≪今日という日を、どれだけ待ち望んだことでしょう……これまでの闘いで、何人の強者たちが身を粉にして奮闘したか≫

 アナウンスが、ゆっくりと語りかける。

≪そして選ばれた四人の戦士──さあ、今こそ最強を決めましょう!≫

 闘技場のゲートが激しく揺れ、その周辺から色鮮やかな煙が立ち込める。
 しばらく緊張の時が流れ──荒れ狂うように煙が吹き払われる。

≪第一に行われるこの試合、まずはこのお二人を紹介します≫

 舞台に向かって歩く二人の男女。
 場違いな格好をした凡庸な男、鮮血色に染められたドレスを纏った妖艶な女。

 両者は舞台の上で相見え、激しい火花を散らしていく。

「先に言っておく──俺から血は流れない」

「そ、そんなっ! せめて一滴だけでも!」

「だから、飲ませないんだよ。陽光と月光を阻害しないだけ、正当に闘う予定だ」

「本当に、血は貰えないのですか?」

 ……火花は散っていなかったが、状況が分からない実況席側では真面目な紹介が行われていく。

≪剣聖を超えた剣術の腕前、あらゆる魔法を扱う魔力──そして、それらを統べる強大な肉体を持った私たちの王……メルス様!≫

 どこからともなくスポットライトがメルスに照射され、高々と我ここにありと光を浴びせさせる。

「ふふっ。旦那様、カッコイイですよ」

「……止めてくれよ、恥ずかしい」

「旦那様がもてはやされるのは、私たちとしても嬉しい限りですよ」

 一方的にからかい始めるフィレルであったが……当然、彼女もまた紹介が行われるわけで──

≪一方対するは、最強の遺伝子を受け継いだ龍族にして吸血鬼のお姫様──勇者や劉帝を超えた、その力を今ここで証明する……フィレル選手!≫

 メルスに当たっていたライトが動き、彼女の元へ移動する。
 陽光のような髪色に当たった光が反射し、燦々と煌めいていく。

「なあ、フィレル──」

「言わないでください」

「いや、だけど……」

「お願いします。そっと、してください」

 からかわれた側のメルスであったが、必要以上に責め立てる気はなかった。
 暗黙の了解はここに生まれ、互いに沈黙を貫くことになる。

≪そんなお二人が、今闘います! 果たして勝つのはどちらなのか! 細かいことは語らずとも結構、紡がれる試合こそがその真実を強く物語ります!!≫

 実況席はそう語り、舞台の上で見つめあう二人もまた同様の考えであった。

「陽光と月光、どっちを出したい?」

「どちらもお任せしたい、なんて強情な願いはダメですよね……」

「うーん、別にいいけどな。ただ、陽光はともかく月光はあまり上手くできないんだ。だから、そっちは頼みたいな」

「ええ、お任せあれ!」

 互いに魔力を練り込み、属性を変質させ魔法を生みだす。
 観客席からでも感じ取れるほどの、莫大な量の魔力が迸っていく。

「行きます──“満月の息吹フルムーンブレス”」

「魔導開放──“黄金輝く日輪の生誕”」

 月の虚像が宙に現れ、白く清らかな冷たい輝きを二人の元へ齎す。
 夜を司る清廉な光……だが、それだけでは無かった。

 眩い黄金の輝きが、この場に現出する。
 月の虚像とは異なり、その光は間違いなく本物の太陽であった。
 温かな光は二人だけでなく、会場すべてを照らしていく。

 魔法とは異なる魔導──その力がこの場へ再度顕現した。

「さすが旦那様……凄まじいですね」

「太陽だけだし、パクった魔導だ。あんまり誇れるものでもないな」

「そうですか? ……負けませんよ。魔法で負けても試合には勝ちます」

「なら──始めるか」

 太陽と月が二人を見守る中、闘いは幕を開いていく。


≪それでは準決勝第一試合……特殊ルールは飛行ペナルティ──開始です!≫


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