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山田 武

偽善者と二回戦第四試合 その03



≪これが本日の最終試合! はたして、勝つのはどちらなのか!?≫

 実況席も、試合を盛り上げるために必死に解説を行っていた。

 三つの炎を操るフェニと、剣士の亡霊を剣に宿して闘うネロマンテ。
 彼女たちの闘いもまた、これまでの試合と同様にとても熱い声が会場中から送られる。

≪フェニさんの炎が──再生、破壊、浄化を司っている今、ネロさんの死に関する力は格段に落とされてしまいます≫

≪あの白い方の姿になれば、何も問題ないのでは? たしか、聖気というものが使えるようになって、神聖属性に関する事象への抵抗が強まるとか……≫

≪特殊ルールの制限が問題です。制限範囲の九割方、あのレヴィアタンの幼生体に使われています。神聖属性へ耐性を持たせたとしても、フェニ様の炎で焼き尽くされる程度の弱い耐性しか用意できません≫

 質・量ともに制限が設けられた第二回戦。
 ネロにとって、本来の戦闘スタイルは大量の高ランクによる圧殺のはず……自ら前に出て戦うことは非効率であった。

 ──しかし追加ルールである召喚・創造に関する縛りによって、ある程度用意するアンデッドに決まりを設けられてしまっている。

 勝つために用意した、レヴィアタンの幼生体に死属性を与えた特殊なアンデッド……だが、他の手札を極限まで減らしてしまい、長丁場に持ちこまれていた。

≪なるほど。そしてあの状況ですね。フェニ選手は時間があればあるほど強くなっているわけですし、優勢になるということですか≫

≪はい。ですが、そう簡単なことではありませんよ。憑依させた存在が高位でないのは、あくまで制限によるもの。本来であれば、より強き者を宿らせることもできるでしょう≫

≪あの武器もまた、アンデッドの一種。降霊の媒介となっています。破壊すれば、降霊にまた時間がかかるのでしょうが……タダで終わるわけでもありませんし、裏があると思われます≫

 マシューは会話の締めくくりに、暗喩を残すのだった。



 浄化の炎が剣を滅し、禁忌の炎が身を焦がし、再生の炎が体を包む。
 少しずつ高まっていたフェニの能力値は、ついにネロマンテを超えるものとなる。

「……これは、浄化ではないだろう」

「そうだな。少しばかり、はしゃいでしまったようだ」

 根元から折れた剣を見ながら、ネロマンテはフェニへ苦言を申し立てる。
 浄化の聖炎による補助もあったのだろう。
 だが、実際に剣を折った根源的な理由は、圧倒的な力によるし折りだ。

「だがまあ、これで準備が整ったのだから構わない。世の常として、あらゆるものに裏技と言うモノが存在するらしいな」

「ご主人の世界ではな」

「メルスが設けた大会だ。今回もそうしたものがあるだろうと踏んで──用意した」

 折れて遠くに抛られていた剣先、そこを起点に魔法陣が出現する。

「……自身が使わねば、制限以上の召喚が可能になると。こういったものは、ソウとの試合まで取っておくべきだったのでは?」

「そうして余裕ぶって、負けるの危機に瀕するのはきでな。早めて使っておいて試す方が良かろう」

 ゆっくりと現れたのは──宙を舞う大量の武具たちであった。

「『レギオンアームズ』──即ち、想念を宿した武具たちの群生体だ。個にして全、全にして個を誇り、一つ残れば自動的に修復される……そして、先の魔剣と同様に媒介としても使える代物だ」

「今度は説明をするのか」

「剣を折ってくれた礼だ。これぐらいの説明で止められるほど、この武具たちも弱くはないのだからな」

 漂う武具の内、槍を手に取るネロ。
 すると構えは槍の達人の想念を受け、匠のものと同等のものへ。

「ならば、我も槍にしようか」

 レーヴァティンは形を変え、槍と化す。
 フェニは変形できる武器種であれば、すべてを一定の技量で振るうことができる。
 それは達人にも負けず劣らず、優れた武人としても通用するモノであった。

「“紅蓮炎波ブレイズサークル”」

 舞台を囲むように紅蓮の炎が荒れ狂い、舞台の中にまた舞台を形成する。
 槍を一振りすると、紅蓮の炎は聖炎と化し浄化の力を持つ。

「あまり遠くに手放すと、炎が延びて武具を燃やすことになるぞ」

「その程度であれば、これを使えば問題なかろう──“聖炎耐性付与エンチャントレジスト・ホーリーフレイム”」

 メルスと合作で編みだした、聖と火に関する属性に耐性を持たせる魔法。
 武具の一つ一つにそれを纏わすことで──短時間であれば、聖炎の中であろうと遠隔操作を行うことができる。

「槍はあまり好まぬが、この距離感であれば補助もやりやすい。合わせる必要は無いぞ」

「告げれば終わるだろうが、まだそのときではあるまい。消費と燃費が悪いのでな」

「……なら、使わずに敗北したことを後悔するといい」

 弓や銃といった武器は照準を合わせ、剣や盾はゆっくりとフェニへ近づいていく。
 それぞれがそれぞれの武具に関する達人の想念を宿した、猛者の動きを再現する。

 だが、フェニの笑みは消えない。
 今もまだ、再生の炎は自身の死を祝福するのだから。

「無論、のちに使うぞ……その武具をすべて折ってからな」

「やってみろ」

 そして、再び激突が始まる。


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