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山田 武

偽善者と二回戦第四試合 その02



 無詠唱ではなく、詠唱を行うことで発動する事象に関するイメージを強める。
 詠唱を省けば魔力をより多く消費することもあって、瞬時の使用が求められない場合は詠唱を行う場合がある。

 そうして無詠唱スキルを持つ者であれば、これを巧みに使い分けて戦闘を行っていく。

「──“紅蓮獅子ブレイズレオ”」

 だが、メルスの眷属たちはその常識に当て嵌まらない。
 詠唱中に発動を阻害されることを防ぎ、その兆候からどういった魔法を使うのかをバラさないため、必ず無詠唱を用いる。

 ……無詠唱スキルはかなり希少なのだが、独自の方法によって後天的に習得させることが可能だったからだ。

「先の試合で用いた魔法か……甘い」

 杖として振るわれるレーヴァティンは、炎系統の事象に大幅な補正を施す力を持つ。
 そのため杖から飛びだした獅子は、一回戦で放ったものより巨大であった。

 ネロマンテは静かに剣を構えると、燃え盛る獅子に向ける。
 すると一瞬だけ剣が輝き──舞うように動いたネロによってバラバラに獅子を刻む。

 その腕前は達人級。
 スキルに頼るだけではない、熟練した剣士のような手捌きであった。

「何か仕掛けがあるな。ネロ、お前はいったい何をした?」

「言うわけなかろう。知りたければ、己が身で味わって知ればいい」

 死属性の魔力を注ぎ込み、ネロマンテは再度剣を輝かせる。
 炎の衣に包まれたフェニもまた、杖を剣と化して受けの構えを取った。

「では、行くぞ」

 魔力で強化した脚力で、ネロマンテはフェニの元へ急接近する。
 そして振るわれた一閃──フェニは剣を当ててそれを防ぐ。

 攻防は連続して行われていく。
 その一つ一つが確実にフェニの命を奪う一撃で、捌き切れず軌道を逸らすだけで終わったものが皮膚にダメージを与える。

 今回の特殊ルールは二人にとって大きな問題にはならないが、フェニックスであるフェニに予め設けられていた特殊ルール──相手からの攻撃では蘇られない──が働き、死なずに剣を捌く必要があった、

 だが、平時は死んで受ける闘い方をしていたフェニにとってそれは、神経をひどく使う行いでもある。

「そうか……そういうことか。先のレヴィアタンの幼生体、あれは憑依だったな。ならば同様に、別の方法でも扱えたか」

「ほぉ、意外と早かったな」

「その剣自体に宿した想念、それがネロを動かしているのか。剣であれば、握って死んで逝った者など何人もいただろう」

「正解だ」

 ネロマンテの魔剣──銘は『怨身動剣』。
 宿した剣士の想念によって、その形状と動きのプログラムを自在に変える剣である。

 今回宿したのは、とある国の凶悪犯。
 国に奴隷として使役され、強引にネロマンテと闘わされ……すべなく死んでいった殺戮狂であった。

「使用した者も、吾同様に救われぬ男であった。血を見ることを好み、魔物ではなく人を殺すことに生き甲斐を感じていたそうだ」

「ご主人が怒らぬ人材にしたな」

「……罪を重ね衛兵に捕縛されても、牢屋の中で死を生んだ。そして、吾の元へ送り込まれた。もちろん、吾が手を出すまでもなかったがな」

 ちなみにだが、これはアマルたちが挑む前の──彼らの大陸に訪れる前の話だ。
 彼らがネロマンテと出会うのは、はるか先の出来事である。


 フェニの言葉から目を逸らしながらそう答えたネロマンテは、視線を彼女に戻して剣を動かしていく。

 肉体の主導権は剣にあるものの、大まかな指示はネロが告げなければ動くことはない。
 加速させた思考を巡らせ、どういった動きでフェニを翻弄するかを指示する。 

「タネが分かっても、吾がどの死者を使って攻めるか分からねば意味がない。だからここまで話した……さて、いつまで耐える?」

「耐えれば耐えるほど、我は強くなる。いつまでも耐えてやろう」

 レーヴァティンを大剣へ変えると、その巨大な剣身を生かして防御を行っていく。
 これまでよりも重厚になった大剣は、所持者の意思に反して動くネロマンテの剣撃を丁寧に防いでいた。

「思ったのだ……要するに剣は死霊を憑りつかせ、生みだした物。直接纏ったその幼生体ならともかく、それであれば浄化できるのではないか? とな」

「……どうりで長期戦を望むわけだ」

 死属性の強化を行っていた魔剣だが、少しずつネロマンテが押され始めていた。

 フェニが握るレーヴァティンの剣身に、薄らと白い炎が宿っている。
 聖炎と呼ばれるその炎によって、憑りついていた死霊を浄化していたのだ。

「だが、浄化は無理なようだな。足掻いても弱体化、強化を阻害するのが限界なようだ」

今は・・、それで充分だ」

 身を焦がす炎がフェニを殺し、肉体にさらなる強化を齎す。

 禁忌魔法“心身燃焦オーバーヒート”──命を賭けて闘う者へ最後の祝福を与える魔法だが、再生を司るフェニックスが使うことで、本来とは違った用途で用いることができる強化魔法だ。

「我は力を増やし続ける。均衡を保っているこの状況も、やがては変化を起こす」

「……その前に、終わらせてもよいぞ?」

「できるならすでにやっているだろう。準備が必要なのか遊んでいるのか……どちらにせよ、ありがたく粘らせてもらう」

 浄化の炎が相手を弱らせ、禁忌の炎が自身の強化を、そして自前の炎が失われた生命力に再び火を灯す……三つの炎を巧みに操り、フェニはネロと闘っていた。


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