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山田 武

偽善者と二回戦第三試合 その03



 ──そして、この場に居る者もそうでない者も観ることになる。
 世界を滅ぼすことのできる、力ある者たちによる死闘を。

≪なぜだか試合中に映像が始まりました……アレは、メルス様とソウ選手ですか?≫

≪はい。あれこそがソウさんの本当の姿──『白銀夜龍』と名付けられた、世界最強のドラゴンです≫

 超弩級の大きさを誇る、最強のドラゴン。
 見た目は矮小な人間であるメルスが、彼の者へ挑もうとしていた。

創造者クリエイターは終焉の島に封印された者を解放するため、全員の元へ向かったわけですが……ソウ様だけは、封印はされておらずにただそこを住処としていました≫

≪あらゆる者──神すらも拒み、安寧の地を求めて辿り着いた終焉の島。皮肉なものですよね、知らず知らずに着いた場所が、神に封じられた私たちのような人が集まる場所と化していたのですから≫

 映像ではちょうど、メルスが『白銀夜龍』へ話しかけるシーンが流されていた。
 声をかけた途端──巨大な柱が如き息吹ブレスが放たれる。

「ちょ、いきなりあんなの撃ったの!?」

「あの頃の儂は、ただ眠りを邪魔されて腹が立っていたからのう。かつて勇者を滅した威力の半分程度であるが、軽く吹いてみた」

「……あれで、全力の半分?」

「全力ではない、一割だ」

 つまり五分の威力で放たれたそれで、メルスを殺すだけの力を発揮する。
 ある魔法でそれを透過するメルスであったが、膨大な魔力を消費した。

 そして鳴り響くプラズマ音。
 大気が悲鳴を上げ、空気を震撼させる。
 その衝撃をリアルに感じた観客たちは、思わず舞台の上に居るソウを観てしまう。

「不思議であった。見た目は普人族であったからな。勇者のように光を振るうわけでも、魔王のように闇を操るわけでもない。ただ儂の息吹を通り抜けた……」

「勇者、それに魔王? まったく意味が分からない……」

「龍王や海王であれば、どうにか相殺まで持ち込めていた。だが、無効化というのはあの者たちでも無理であった……■■■■や■■■、神であれば一工夫凝らして可能としていたぐらいか……主様、これも駄目か」

「……もういい、頭が混乱してきた」

 創作物でも聴き慣れたいくつかの単語。
 いくつかにノイズが走ったものの、それよりも理解できてしまった単語に理解できず混乱してしまう。

≪えっと、映像が飛びましたね──戦闘を始めました。槍を投げましたが、ソウ選手はそれを障壁で弱めてから鱗で弾きました≫

≪映像だけだと伝わりにくいので捕捉しますが、槍はメルスさんの世界では神が持っていたとされる代物を模した物。あらゆる物を貫けるとされていたらしいです≫

≪ソウ様の魔力がその現象を歪め、弾いてしまうまでに能力を劣化させました≫

 弾かれた槍は自動的に手元へ戻り、攻めてきた『白銀夜龍』の攻撃を防ぐために使われる──形を変えて棍棒となって。

 真正面から防ぐのではなく、受け流すように向かってきた爪撃を回避する。
 音速の域を超えた一撃は、カウンター用の武技によって無効化された。

「……見えなかったのだけれど。メルス、どうやって対処したのよ」

「たしか、■■眼と■■眼……これぐらいは言ってもよいと思うのだがのう。とにかく、眼に関する能力で儂の攻撃を察知し、自動迎撃の武技で捌いたのだ」

「棍棒だから……“流水円避リュウスイエンヒ”ね。あれもかなり高ポイントの武技なんだけど」

 本来武技は、自身のSPを消費することで追加する。
 その数はスキルのレベルや特殊なクエストの達成で増えるのだが、いっさい消費をしない場合はスキル習得時に付いてくる初期の武技のみだ。

 メルスはその武技以外、いっさい習得していなかった。
 創りだした神器『模倣玉』によって、他者の武技を模倣することができたからだ。

≪──物凄い勢いで戦闘が始まりましたが、どれも理解しがたいです。実況が仕事をしていないように思えますけど、こればかりは自身の目で見たものだけで納得してください≫

≪あらゆる武具を振るい、ソウさんに挑んでいます。神器を使ってもその鱗を超えることができていない……本当に、世界最強の存在なんですね≫

 雷を生みだす神の鉄槌。
 そこに炎を混ぜた一撃が叩き込まれるが、『白銀夜龍』の鱗は砕けない。

「……ふむ。あの槌の一撃は、体の底まで響いたと覚えておる。今であれば、もっと強く感じられるのであろうか」

「ミョルニルよね、あれってたぶんミョルニルよね!」

 伝説・神話の武具が登場し続け、シガンのテンションも盛り上がっていた。
 そしてそのすべてを弾く『白銀夜龍』の姿へ、ある種の尊敬を感じる。

「主様の一撃一撃が、あの頃の儂には煩わしいものであった。強がってみてはいたが、今まで闘ってきたどの相手よりも強大な存在であると……対応すべき敵であろうと思った」

「神よりも……なんだかメルスが遠い存在に見えてくるわね」

「ただの概念が何を語ろうと、そこに意志など感じられん。むしろどれだけ小さいものであろうと、その想いを伝えてくる主様の方が厄介であろう」

 想いの籠もった一撃は、実際のダメージよりも強く響く。
 それを知ってか知らずか、メルスは放つすべてに想いを籠めている。

 ──そして、間もなく決着へ向かう。


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