AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と精霊竜


 今回もまた、白熱した戦いだった。
 途中、クエラムの全方位息吹オールレンジブレスが結界に多大な影響を与えたものの、それ以外は純粋に試合観戦を楽しむことができた。


「今回は魔獣の力を得た聖獣と、聖骸と化した呪いの骨人スケルトンの一勝負……ある意味真逆だったんだよな」


 戦闘スタイルも、また逆だしな。
 近接戦闘を好むクエラムと、アンデッドを介した遠距離支援のみでの勝利を望むネロ。

 いちおう、どっちもそれぞれのスタイルで闘うことはできるんだぞ。
 クエラムはカナタのダンジョンに居た孫悟空のスキルで分身が作れるようになったし、ネロはやっていたが魔拳を使える。

 そういった意味では、今後のためにクエラムが多く隠しすぎていたんだよな。
 どちらも手札を隠していたものの、時には隠しすぎも敗因となってしまうのだろう。


「ジークさん、どうでした?」

「だから、どうでした? と言われても困るのじゃがのぅ……」


 何度も同じ質問をしていれば、さすがにこういった展開も飽きられるか?


「まあいいが……なら聖獣って、サウンド家で伝わってないか? クエラムはもともと、別の国で守護をしていたらしい。というか、そういう存在が居たら居たで、俺のやったことに文句ぐらい付けていたか」

「そうじゃのぅ。ネイロ王国は伝承を集めることはあっても、自分たちの国のものを作ろうとはしなかった。それはきっと、無かったからこその選択かのぅ」


 かつて今のネイロ王国で、『吟遊詩人』となる資格を得ることができた。
 プレイヤーが現在迎える範囲内では、歌や音の国であるネイロ王国でしか就くことのできない職業で、そういった類の行動に補正がかかるというものだ。

 吟遊詩人といえば、やはりエルフ系の職業な気もするんだが……そこはまあ、気にしなくとも構わないか。


「その話をして──さて、俺が何を考えているか分かっているよな?」

「……ルーンの守護者には、お主が居るから必要ないのじゃが」

「俺が守護者って柄かよ。最近は精霊や召喚獣にストックがあるし、好きなように選べるぜ……何か欲しいか?」

「お主が従えていそうなものは、必ずクセが強そうだからのぅ……遠慮しておく」


 遠回しなようで、はっきりと断られた。
 実際、まともな召喚獣は一体もいないし精霊では格が足りないか。


「まあまあ、見るだけ見てみろよ。創ってみるから──“精霊創造クリエイトエレメンタルドラゴ”」


 無詠唱で発動したこの魔法は、好きな属性の精霊を生みだすものだ。
 ユラルに怒られるし、膨大な量の魔力を消費するが……それ以外のリスクはほぼ無い。


『PIGYUU!』


 現れたのは小さなドラゴン。
 クレーンゲームで獲得できるような、ヌイグルミをイメージしてもらえると分かる。
 西洋のドラゴンをベースとして、翼が妖精のような羽となっている。


「精霊竜、『スピルス』。契約はジークさんの一族にしかできない、対価は国の繁栄とそこに住まう人々の微力な魔力を分けてもらうぐらいだな。これならどうだろうか?」

「用意した後で、それを言われてものぅ……用意されたからには仕方ない。ありがたく契約させていただこぅ」

「……結論は早いな。まあ、別にいいが」


 魔法陣を地面に描き、ジークさんの足元で強く展開させる。
 同時に王子王女にも小型の魔法陣を構築して、儀式を整える。


「血のメインはジークさんだからな。ここに居ない王族は別の時にジークさんが代わりにやれるようにしたから、精霊竜と相談して契約をしといてくれ」

「……上級精霊の類か」

「精霊王ぐらいはあると思うけど」

「やりすぎじゃよ!」


 精霊王なんて、ユラルの足元にも及ばない力しか持たないんだけどな……。

 だが、今さら弱体化させるのもあれだな。
 なら、少しばかり仕掛けを施しておけば問題なかろう。



 契約自体は簡単に済ませた。
 同様の魔法陣をジークさんに渡しておいたので、すぐに精霊竜は全王族との契約を交わすことになるだろう。


「だが、精霊竜だけでは面白くないかもしれないな……ルーンの城を改造して、巨大ロボとして使うのもありか?」

「やめんか。そこまでする必要があるわけでもないし、せっかくの城を弄るでない」

「そうか? ロボは男のロマンだ……そう思わないか、ムント?」

「はいっ!」

 妹の視線は冷たくなっているが、ここは男女の違いだから仕方ない。
 それでも共感してくれる者が一人いてくれる、それだけで救われるな。

 よし、今度ロボ型ゴーレムをプレゼントしようじゃないか。
 どんなロボにするかはまた今度。


「……さて、次でいよいよ最後の試合になるぞ。ジークさんも楽しみにしていると思うけど、最後も最後でまた新しい世界から来たゲストだぞ」

「お主が世界を繋ぐと、その度に新たな驚きに遭うんじゃよな」


 トーナメント表を見ずとも、残った対戦組は一つしかないから誰が参加するか分かる。
 そしてその片方は、ジークさんもよく知らない世界の住民だ。


「儂らの世界が過去のものであると聞いた時も驚いたが、世界が複数あってそれを創れるのがお主であるという点に何より驚いたものじゃのぅ」

「……まるで俺にはそんなことできない、とでも言いたげだな」

「理解しているじゃろぅ?」


 ああ、分かってます分かってます。
 ──どうせ俺はモブ顔ですよ!



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品