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山田 武

偽善者と一回戦第六試合 その01


「いやー、遅れた遅れた。ジークさん、どれくらい時間が経った?」

「……数十秒しか経っておらん。お主の時空魔法は異常じゃな」


 時属性の魔法で操作できる時間は、所持者のレベルが高ければ高い程幅が広くなる。
 俺の時魔法及び時空魔法はカンストしているし、共有と補正によってそれをより高めている状態だ。

 肉体の老化現象がリスクとして立ちはだかるが、それは未熟な使い手だけだ。
 熟練した者であれば、外部と内部の時間比率を調整してそれを免れるらしい。

 ……プレイヤーはログイン中外見は変わらないし、眷属による補助で転移後も俺は完璧な調整ができたのでよく分からないが。


「失敗しても(不老)スキルの効果で老化することは無いし、リスクは無い。なら、できることをするだけだ」

「不老など、欲する者であればどのような手であろうと奪いたいじゃろぅな。(一般ノーマル)であるが故、決して不可能ではない点が人の欲を掻き立てる」


 そう、(不老)も(不死)もどちらも固有《ユニーク》ではなく一般スキル。

 発現率は極めて珍しいケースだが、リュシルの図書館にも(不老)を発現したしまっために苦悩した者を記した伝記が存在していた。

 ただの村人でも、条件を満たしてしまえば得られてしまう人外の力。
 外道の法を使えば奪うことも容易く、人生観を180°引っ繰り返してしまう。


「……と、いうわけでそろそろ(不老)を習得しないか? 生憎ジークさんを殺させる気はないし、導いちゃったから魂は輪廻に戻れないんだよな」

「要らんよ。導かれたことに後悔はしておらぬが、この地位を維持する気もさらさら無いわ。……お主のことじゃし、何やら企んでおるのじゃろぅ? どのようなことであれ、まずはこの幸先短し老い耄れで確かめてみるのが吉じゃよ」


 ジークさんとあるやり取りをした果てに、俺はジークさんをある運命に導いた。
 これは俺もジークさんも同意の上で行ったことだし、決して後悔も反省もしていない。

 それによって叶えられた願いもあり、偽善者としての活動もできたのだから誰も不幸にはなっていないぞ。


「……そうか。なら、期待してくれよ! 絶対にジークさんを楽しませてやるからよ!」

「ふっ、やれるものならやってみるがよい。すでにメルスのやることが異常であると知っている儂に、今さら恐れるモノはない!」

『オォー!』


 ほらほら王子と王女様よ、物凄くどうでもいいことに胸を張るお爺様を褒めてはいけないよ。
 ねっ、なんだか鼻からムフーッと満足そうに息が出ちゃったじゃないか。


≪──間もなく第六試合が始まります! 皆様、席にお座りください!≫

「……ほら、ジークさんも落ち着いて。そろそろ始まるぞ」

「うむ。つい、な? では、次の闘いを観戦しようではないか」


 そして俺たちは、観戦準備を整えて時間を待つのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆

≪──第六試合の対戦カードは、シガン選手VSチャル選手! どちらも【固有】スキルの持ち主、プレイヤーであるシガン選手と魔導機人であるチャル選手……どちらも学習すればするほど強くなる。はたして、勝利はどちらの手に!?≫

「……無理ね。私の負けだわ」

「始まる前に、そういったことを言わないでもらいたいよ。戦闘意欲が削がれちまう」

「それならそれで、苦しまずに追われるのだけれど……メルスの話になんか、乗らなければよかったわ」

 シガンは今、つい先ほど観戦した試合のことを想う。

 ──あの人ナックル、こんな気持ちだったんだろうな、と。

 目の前に立ちはだかる女性に勝つ可能性が見当たらず、できることは延命だけ。
 本来なら自由民よりも有利な能力値を持つはずの祈念者プレイヤーが、この世界では圧倒的弱者として存在している。


 シガンはあるとき、メルスに武闘大会への参加に誘われた。
 有名なプレイヤーも参加する、自由民も参戦する生物最強決定戦だと伝えられる。

 少し考え、それを受け入れた。
 それが経験となり、今後の活動でも有利に働くと思ったからだ。

 ……そのため、ここまで武闘会が過酷なものであるとは知らなかった。

 メルスが関わっている以上、たしかに並みのプレイヤーが小さく開くようなイベントではないことは理解していた。
 しかしまさか、トッププレイヤーの動きが児戯に見えてしまう程の超越した闘いぶりがこれまで繰り広げられている。


「まあ、アンタがメルスのガス抜きをしてくれている奴らだってことは分かっているよ」

「ガス抜き?」

「……もちろん、馬鹿にしているわけじゃないよ。私たちだけじゃ、満たされないナニカがあって、それをアンタたちが満たしてくれた。感謝しているよ──ありがとう」

「そ、そう、なのかしら?」


 突然頭を下げられ、首を捻るシガン。
 どこまでメルスが彼女に愛されているか、そして同じプレイヤーであるはずの彼がどのような状況に居るのかが分からないからだ。


「……まっ、それと勝負は別だがな。悪いが全力で勝利して、他の奴とも闘いたいんだ」

「そうなるわよね……」


 ガクリと肩を落とすシガン。
 そんな戦闘意欲がまったく異なる二人の闘いは、間もなく幕を開ける。


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