AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と他大陸



「お、これ結構イケるな」

「本当……美味しい」

「お客さんたち、嬉しいことを言ってくれんじゃねぇか。海蛇シーサーペントの串焼き、お土産に数本どうだい?」


 可能な限り購入させていただき、魔道具を謳ったただの手提げ袋に入れた……と見せかけて“時空庫ストレージ”の中に仕舞っておいた。


「毎度あり! デートを楽しんできなぁ!」

「──だってさ、リー」

「……はぃぃ」


 違和感を持たれない程度に偽装を掛けているので、俺たちは普通に男女で仲好くこの町でデートを楽しむ観光客のように見えているだろう。 

 ここの町の人って、なんだか男は日に焼けた奴が多いし。


「意外と俺が好む物もあるんだな。イメージ的に、ウミヘビって単語だけだと、ウナギとかシシャモとかの味がするって何かの本で見た気がするんだけど……」

「魔力があって進化をした結果、運動量が大きく変化したからでは? 引き締まったお肉は、なんだかマグロやカツオの味に似ていた気がします」

「肉体の構造からして、いろいろと違和感があるんだけどな……まあ、食材にケチを付けるのははみ出し者とはいえ、料理人がすることじゃないか」


 だって、海蛇といえば沖縄で食べられるというあれだろ?
 俺の悲しい脳みそでは、特に細かいことを考えないし……要はその知っていた情報を鵜呑みにしていたんだな。


「しかしまあ、別大陸に行くには許可証が必要になるとは……自力で船を用意するのも難しいだろうし、まだまだ時間がかかるか」

「別の大陸……みんなの故郷を巡るご予定ですか?」

「そうだ。どいつもこいつも気にしてはいないが、実際行っておかなきゃ俺の心が満足しないからな。親が生きていても死んでても、報告だけはしておかないと」

「報告?」

「娘を貰います、幸せにしますのでお気になさらずってな」

「ハァ……」


 俺の言葉に、ため息を吐くリー。
 たしかにどこの花嫁泥棒だよって言われそうだが、ため息まで吐かれるとは思ってもいなかったな。

 だがまあ、それは置いておくとしても、別大陸については考えておくべきか。

 すでに闘技大会で別大陸の者を出していたし、プレイヤーたちも馬鹿ではないので別大陸に秘められた可能性に気づいている。

 そう多くはないと思うが、行った先を荒らす者がいるかもしれない。
 ……ハーレムが住んでいた国を荒らされるのは、少し嫌悪感が湧くしな。


「アマルとかダンジョンモンスターしかまだ派遣してないけど、いつかは眷属たちと巡っていく予定だ。基本は所縁のある奴を連れていくけど、二、三人ぐらいついでに引っ張っていくか」

「ちなみに、すでに発見されているので?」

「まだだな。そもそも、終焉の島だってはるか遠くにある広大な惑星だ。虱潰しに探してはいるけど、特定の国だけを見つけるってのは困難を窮している」


 アマルたちも頑張ってはいるんだが……ギルドがこっちの求めている情報を、まだ渋っているらしいんだよな。

 ティルの出身国であるリュキア王国、シュリュが造り上げたドラガオン帝国ならばすぐに見つけると思ったんだが。
 まだまだ里帰りさせるんには、時間がかかりそうだ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「──で、どうしてこうなった?」


 少し探検をしようと、いつものごとく裏路地に向かい……そしてこうなった。

 俺の足元には、大量に倒れた男たち。
 遠くではリーが、倒れ込んだ女性の介護をしている。

 おまけにビクビクと女性はしており、俺を見ては嫌な者を見たと顔を背けていた。
 ……<畏怖嫌厭>は分かりやすく、効果を示しているようだ。


「まだ一日目、いくらなんでも凶運が働きすぎじゃないか?」

「メルスがそれを、心のどこかで望んでいるからですよ」

「おいおい、リー。それじゃあまるで、俺のせいでこんなハプニングがその人の身に起きたみたいじゃないか」

「……違うんですか?」

「違うよ!」


 ほら見て、その言葉でさらに怯えだしてるじゃないか。
 すぐにリーが宥め始めたので、俺もこっそり精神魔法で心を落ち着かせておく。


「リー、その人に事情を訊いておいてくれないか? 今すぐにそいつらの仲間が来るとは思わないし、早めに情報を教えてもらう。場所は……ここだと危ないし、共有して安全な場所を用意してくれ」

「分かりました」


 すぐに女性を立たせて、表通りに向かう。
 リーが結界魔法を使って彼女の周りを囲み始めたので、光芒魔法で光を弄って幻影を複数作成する。

 彼女の偽者をリーたちとは反対の方向へ向かわせ、本人にはまったく別人の、特に目立たなさそうな女性の幻影を纏わせておく。


「さて、これでよしっと。次は──“ユラル召喚”」

「はいはーい、インタビューで語った甲斐があったねー」

「そうだな。……リーと連絡をして、悪意を持っていっしょにいる女性に近づいた奴を捕縛しておいてくれ。手段はそっちに任せるけど、できるだけ隠密性の高いヤツな」

「オッケー、うちに任せんしゃい!」


 そう言って、ユラルは実体化を解いた半透明の状態でリーたちの元へ向かった。
 ……なんで、博多弁?



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