AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤ずきん その03



 とある普人の一族には、時々稀有な力を秘めて生まれる者がいました。
 それは時に龍を殺し、国を滅ぼし、大陸を統べたともされる血の流れ。

 その末裔に当たる者に、能力の一端が目覚めました。

 強大な力、とは言い難い能力。
 だがそれは、普人では手に入れることのない極めて珍しい力。

 同時にそれを使うだけのエネルギーを有した者は、生まれながらにして強大な力を外部に放出していました。

 あるときその者は森を歩き、彷徨い、その力を無自覚に使ってしまいました。
 それによって、魔物に襲われることなく家に帰ることができましたが……同時に、その力の存在がある者たちにバレてしまいます。

 それが完全に露見することを危険だと感じた一族の一人が、その者にこれを常日頃、身に着けておくように伝えました。

 術式の編まれた──赤いずきんを。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 親切な男に勧められた場所には、とても綺麗な花畑が広がっていた。
 奥に行けば行くほど、その花々は美しさを誇っていく。

「ほら、メル君! いっしょに探しましょ」

「は、はい!」

 広大な花畑を、二人は駆けていく。
 どこまでも続いていくその景色は、まるで夢のように・・・・・思えた。

(……あれ? 夢?)

「お姫様、どうかされましたか?」

「う、ううん、なんでもないの」

「そうですか……あ、見てください! あそこに泉があります! 一度あそこで、ゆっくりとしてみてはどうですか?」

「……そうね、じゃあ行きましょう!」

 一瞬湧いた疑念も、少年の言葉でまたどこかへ消えていく。
 少年の指差した場所には、木々の中に隠れた泉がひっそりと隠れている。

 二人はそこへ向けて、歩いていった。

  □   ◆   □   ◆   □

 赤ずきんと少年がいなくなったそこは、急速に変化を見せていく。
 咲き誇っていた花々は瞬時に枯れ、響いていた鳥の囀りは瞬時に止まる。

 残ったのは、木々を失い荒れ果てた平野。
 二人の見た光景は──まるで幻のように消えていった。

  □   ◆   □   ◆   □

 辿り着いた泉は、これまた光が差し込む幻想的な場所であった。
 光が泉に反映し、淡い輝きを魅せる。

「綺麗……」

「そうですね……」

 赤ずきんは泉に近づき、チャプチャプと水面を弾く。
 ヒンヤリとした冷たさを肌で感じ、疲れた体が癒えていった。

「姫様、姫様にはここがどんな場所だと思えますか?」

「え? うーん……不思議な泉?」

「では、彼らは視えていないので?」

 少年は赤ずきんに尋ねる。
 その質問の意図が分からず、彼女は質問を訊ね返す。

「彼ら? 彼らって……誰のこと?」

「──精霊です」

「せい、れい?」

 精霊、自然界に漂う一種の生命体。

 その存在は妖精・精霊種に連なる者にしか知覚できず、使役することのできない存在。

「メル君は、精霊が視えるの?」

「はい。そしてそれは──姫様もです」

「……え?」

 赤ずきんは動揺する。
 自分の知り合いに、妖精種や精霊種の者がいないと知っているから。

 そして、一度も精霊を見たことがないというのに、少年がそう告げたのだから。

「姫様、貴女にはその才能があります。これまでに、一度も視たことがないんですか?」

「う、うん……ないよ」

「本当に、何も。この森で不思議なことが起きたこと……それが無いんですね」

 少年の瞳が泉と同じ色に輝く。
 それをジッと見つめる赤ずきんの脳裏に、かつての記憶が蘇っていった。


 あの日の赤ずきんはただ泣いていた。
 泣いて哭いて歩いていると、小さな泉に辿り着く。
 けどそこは目的地じゃない、そう分かっていたが……赤ずきんは疲れ果てて倒れた。

 しかし、何かに囁かれるようにして目を開ける。そこには──色取り取りな光の玉がフワフワと浮かんでいた。

 それに誘われるようにして道を歩いていくと──家に辿り着く。

 そのときの記憶は、酷く疲れていたからか記憶の奥底に沈殿していた。
 しかし今、少年の問いかけによってそれが浮上してきたのだ。

「……そうだ。ワタシは確か、あのとき小さな光の玉に……」

「それが精霊ですよ、姫様。そして、今もこの場所に精霊はいます」

「でも、何も視えない」

「大丈夫です、ボクを信じてください。これから言う通りにやってみれば、きっと精霊が視えるはずです」

 少年は語る、精霊を視る方法を。
 魔力を目に籠め、ジッと注視するとだけ。

「……それだけなの?」

「精霊は強い感情に応えます。姫様が会いたいと思えば、きっと姿を見せますよ」

 不思議と、少年の言葉がスッと胸に入る。
 自分が精霊らしきものを見たのは、ただ帰りたいと願い涙を流したときだった。

(お願い、姿を現して!)

「……ぅぁ」

 小さく掠れた声が口から零れる。
 ただ自然現象を綺麗だと思って見ていた泉は、さらなる幻想感を醸しだす。

 小さな光の玉が踊り、自分の周りでも楽しそうに揺れている。

「彼らが……精霊?」

「ボクが言わなくても、姫様ならば気づいているはずですよ」

「そう、だね。うん、分かってるみたい」

 そっと差し出した手に、光の玉はいっせいに集まっていく。
 なんとなく、精霊たちが望む動きを取れているのだ。

「……そうなんだ、君たちがワタシを助けてくれたんだね。ありがとうね」

 赤ずきんにお礼を言われた精霊たちは、喜びを示すように宙を舞って踊りだす。

 二人は今度は泉ではなく、その光景に目を奪われていった。


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