AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と調査依頼
スロート
「あ、依頼を見つけたんだ」
「はい、これから行きますよ……あの、少しやつれてませんか?」
「ううん、気にしないで。ちょっと称号で揉めただけだから」
まさか誰の称号を付けるかで、大乱闘になりかけるとは……。
誰だよ、『それじゃあ戦って決めよう』って言った奴。
お蔭であの名台詞『止めて、私のために争わないで!』を言うことになった。
「そして結局、セット称号の方は偽装した上で監視員の称号をセットするようになったでござる」
「……?」
クラーレが変な目でこっちを見ているな。
他のメンバーは……おい、なんだその──いつもの発作、みたいな感じでスルーしてるのは。
どちらにせよ、心に刺さるもんだな。
「い、依頼はどんなものなの? ますたーたち、最近適正レベルの魔物としか戦っていなかったし……」
「調査の依頼です。近くのエリアに大量の魔物が出たという情報がありまして──」
「ちょうど隠れるスキルもあるし、受けてみることにしたのよ」
会話の間に割り込むようにして交ざってきたのは、クラーレの所属するギルド『月の乙女』リーダーであるシガンだ。
「メル、今は魔法だけなんだっけ?」
「そうだよ、シガンお姉さん」
「やっぱり慣れないわね。メルには非常時、全員の姿を隠してもらいたいのだけれど……頼めるかしら」
「うん、それぐらいなら構わないよ。隠すのは視覚だけ? それとも、五感とか魔力を感じ取る器官も?」
「そこはメルにお任せするわ」
どれだけ隠すかは、実際に行ってからじゃないと分からないけどな。
普通の魔物だったら視覚か嗅覚だけで充分だが、聴覚に優れた魔物や魔力感知に長けた魔物もいるから。
「ところで、目的地は?」
「それは──」
「ここから東にある、『ムルゥの森』という場所ですよ!」
「ど、どうしたの? ますたー」
再びシガンからセリフを奪うような形で、クラーレが割って入ってきた。
物凄く必死なんだけど……大丈夫か?
「ふふっ、説明はクラーレに任せるわ。それじゃあ、『月の乙女』出発よ」
こうなることを見越していたのか、シガンは微笑ましいものを見えるような顔をして、パーティーメンバーの元へ向かう。
シガンがクラーレを笑っていたのに気づいたのだろう、本人は顔を赤くしてしゃがみ、塞ぎ込んでしまう。
「ますたー、大丈夫?」
「だ、大丈夫なんですが……どうにも自分の感情を上手く制御できなくて」
ああ、それならいつも経験している。
少しぐらい、手伝うべきかな?
「私のスキルは精神安定には使えるけど、こういうのはどうにもならないな。ますたー自身が、どうありたいかを決めるべきだね」
「どう、ありたいか?」
とりあえず立たせてから、話を続ける。
シガンたちは黙ってこちらを見ている。
どうせなら、ガールズトークでパパッと教えてやってほしいんだが……。
「ますたーが抱くそれが、どれだけますたーの中で大きいか小さいかは分からないよ。だけど、それに振り回されたら駄目。ますたーの想いは他の人には変えられない。だからこそ、周りをよく見て考えるの──その想いがますたーのどういう風になりたいかって考えている原因かをね」
ちなみに、全部俺にブーメランで刺さる言葉です、はい。
周りを見る? したことないよ。
そういうのは、選ばれし主人公や周りの視線を気にする必要のある者たちだけがやっていればいいんだ。
どうなりたいか? 考える必要はない。
俺は偽善を日々の活動に、家族の守護をそれ以外でやることのすべてだと思っている。
難しく考えるな、やっていればできるさ。
「……わたし自身が、どう、思うか……」
「ほら、ますたーも早く行こう!」
「──ふ、ふぇ? め、メル!?」
何やら深く考えそうだったので、腕を引っ張ってシガンたちの元へ向かう。
細かいことをとやかく考えられると、結局俺が深いことなど何も言っていないことに気づかれてしまう。
それよりも早く無理にでも、意識を別のことへ集中させなければ。
◆ □ ◆ □ ◆
ムルゥの森
「普通の森、だね」
周囲を調べてみれば、特殊な霧も特別な地形も存在していないありふれたファンタジー世界の森であることが分かった。
……ファンタジー世界にある時点で、地球からしてみればありふれてないけどな。
「また魔物、数は六。たぶん偵察用の魔物」
「さっきから、結構来るね」
ノエルの気配探知はパーティーの中でも随一、それに引っ掛かってしまった哀れな魔物の数はすでに六十を超えている。
その悲しい魔物たちすべてを──彼女たちは容赦なく倒している。
隠密行動に徹しないで何が調査か、と訴えかけてくる者もいるだろうが……調査ついでにレベリングというのは、プレイヤーの中では意外と多いらしい。
倒せればよし、倒せなくとも死に戻ってすぐに報告すれば問題ない。
相手はプレイヤーを死んだと認識しているので、追っ手を放つこともないからな。
「では、討伐といこうか」
「地味目にね~」
まあ、倒し方はできるだけ静かなものにしているけどな。
武器の場合は、できるだけ悲鳴が上がらないようにスッと首を切って終わらせる。
魔法の場合は風魔法で音を遮断したり、無魔法や空間魔法などの認識し辛い魔法を使って攻撃を行う。
現れた六体の魔物もそれぞれ半分ずつ、それらの方法で死ぬことになった。
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