AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と屋上歩き


 始まりの町 路地裏

 餌? なんのこと?
 健全なプレイヤーである偽善者に、そんな単語は関係ないよ。


「でもまあ、何度通っても散歩は飽きないんだよな。日々変わらないはずなのに、やっぱり不変なものはないのか」


 季節や時間帯、個人の問題で一本の道ですら様子が変化する。
 だが、さすがにこれはないだろう……。


「おいおい、こんな場所にガキがいるぜ」
「ひひっ。おいおい、高そうな装備をぶら提げやがって。お兄さんたちが貰ってあげるから、早く脱いで置いていきな」


 凶運と言っても、こういうことじゃないと思うんだよ。
 二度もチンピラに絡まれるのは、さすがにおかしくないだろうか。


「さすがに同じことをするのはポリシーに反するし、さっさと済ませるか」

「テメェ、何を言って――」

「そらっ、“時空停止ストップ”」


 さくっと(時空魔法)を使用してチンピラ共の動きを止める。
 昔、似たような展開に遭ったことも気がするが……残念なことに周囲を探しても美少女プレイヤーが、ということは無かった。


「これは……どうしようか。放置プレーでも構わないけど、俺に絡んだ罪は容赦しておかないのもいいなー」


 とりあえず、身包みを剥しておこう。
 チンピラに干渉を行い、アイテムを全て俺の“空間収納ボックス”に入れていく。
 服や武器はもちろんのこと、プレイヤーの権能であるインベントリの中身まで回収だ。

 最後に残ったのは、剥すことのできなかったインナーのみ……いや、社会的にな。

 本来は装備なしでも装備しているような最低限の衣服だが、こういうときにもチートが働いている。
 よくよく考えれば、【強欲】で【色欲】な今の俺が裸にできない方がおかしいのか。


「野郎のジョイスティックなんて、公衆に晒すわけにもいかないしな。……同じ男としての慈悲だ、認識阻害もかけてやるよ」


 ビーチクとスティックの辺り、それと目の部分を念入りにな。
 あとは転移させれば公衆の面前で勝手に動きだしてくれるか。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 散歩をしていると、望まぬ展開に遭うのは何故だろうか。
 そして、望む展開はまったく訪れないのは何故だろうか。

 あれから何度か被害に遭った。
 見た目が悪かったのかと変身を重ね、弱そうに視えたのが悪かったのかとステータスの偽装も更新した。
 ──だがそれでも、結局は絡まれる。


「もう我慢できません、普通に移動するのは止めにしましょう(――“隠纏”)」


 神の気も使用しての隠れ身。
 そのまま屋根の上へジャンプして登る。

 こういうことはしたことが無い。
 屋根の上から見た景観は、少し頬を緩ませてくれるぐらい新鮮だった。


「いつもとは違う、だがここまで異なるのもなかなか無い。やはりファンタジーらしい行動はいいものだな」


 馬鹿は高い所が好き、そんな言葉が頭を過ぎるが否定はしない。
 彼らもまた、好奇心を胸に高い場所へ行こうとするのだろう。

 見晴らしのいい景色、全てを眼中に収める爽快感、何より達成感……全てが素晴らしいじゃないか。


「空の旅はやったことあるけど、屋根を伝い移動するのは新鮮だな。忍者も暗殺者も義賊も、みんなこんな風に楽しいことをやっていたのか。せっかく職業として就いていたのにやり忘れてたな……クソッ」


 ただの無職が屋根に上がろうと、狂乱か暇潰しでやっているとしか思えない……って、本当に暇潰しだった。


「とりあえず町一周は確定だが、ついでにまた調査と鑑定をやることにするか」


 もう登った時点で満足だったが、散歩もこちらで行えば邪魔は来ない。
 さらにここからチェックを行えば、なお面白い展開を望める。


「気づいたプレイヤーならこっちに来る。そうでなくとも何かしらのアクションを起こす可能性は大。いやー、我ながら恐ろしいほど知謀の策を生み出してしまった」


 いちおうでも【知識】や【智慧】と接続しているだ……ふっ、これくらい容易いさ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「あ~、何か面白いこと起きねぇかな~」

「そんなこと言っても、お前みたいな奴より相応しい奴がクエストを受けてるだろ」

「そうなんだよな。俺たちってば、全然刺激的なイベントに遭遇しないんだよな」

「唯一起きたあれも、結局それ以降なんにもないし……あれは夢だったのか?」

 男たちは、待ち合わせを馴染みの店で行っていた。
 彼らは四人組のパーティー、リアルでの友人同士でAFOを楽しんでいる。

 だが、リーダーである少年は刺激が足りないと友人に話す。
 一度経験した刺激を、今でも忘れることができないからだ。

「その証拠は、いつもお前の胸元に仕舞ってあるだろ。……というか、この質問も何回してると思ってんだよ――タツオ」

「いいじゃないか、カンタ。あの人との出会いは、唯一無二の超絶展開だったんだし」

 かつて、彼らは一人の男に出会った。
 圧倒的な力を振るい、その場にいたプレイヤーたちを屠るその男に。

 そして渡された首飾り、これまでもピンチの際はいつも助けてくれていた。

 首飾りには連絡機能が付いていた。
 ……だが、それは一度も使われていない。

「なんか、一回使ったらもう無くなっちゃいそうなんだよな。そう考えると……な?」

「はいはい、分かった分かった。必要なときに使うんだったろ?」

「ま、それとは関係なく早く会いてぇな。あの人のことだし、何か面白いことを今もしてるかもしれねぇぞ」

「へぇー、例えばどんなことだ?」

 その質問に、少し考えるタツオ。
 まだ、残り二人のパーティーメンバーは来ていない。

 それを考えるのは暇潰しになった。

「――屋根の上で散歩?」

「そんなことするわけないだろう。というかなんで屋根の上であの人が散歩すんだよ」

「だよな~。急に頭を過ぎったんだが、やっぱ気のせいか」

 そう言って笑い合う二人。
 そんな様子を上から眺めていた存在を、彼らは知る由もない。


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