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山田 武

偽善者と精霊召喚



「――これで、普通の精霊召喚も最後になるか――“下級精霊召喚サモンエレメンタルシェイド”」


 俺の言葉に呼応して周囲に漂っていた黒とも紫とも言えるような色をした玉の一つが俺の元へ飛び出す。
 意思を伝えて魔法を使ってもらって少し動くように頼むとどこかへ消えていった。


「基本属性はこれで終わり。ユラル、特殊なヤツはいなかったのか?」

「特殊な精霊って言っても、例えばどんな精霊が特殊なの?」

「そりゃあ、竜属性の精霊とか歌属性の精霊とかだな。前に妖精龍フェアリードラゴンって奴を生み出したことがあったからブェオッ!」

「禁忌に手を染めるな!」


 足元から大木が生まれて俺にアッパーカットを放ってきたんですけど。
 最近の木って拳の形をしてるんだ……。


「さっき合成魔法の話をしたら、苦悶したけどオッケーぽかったじゃないか」

「妖精龍は駄目なの! どうしてそんなものが創れるのさ!」


 はい、チート{感情}様のお蔭ですよ。その頃はまだ<合成魔法>を習得していないしな。
 今なら簡単に生み出せそうだ……欲を言うなら、【種族創造士】に就いておけばもっと簡単にできたかもしれないが。


「できるもんはできるって言うしかないな。だから精霊も合成しようと思ったけど……こういうのって、やっぱり倫理に反する?」

「うーん……精霊にもよるかな? 大体の子は嫌がるけど、たまに面白がってそれを受け入れる子がいるんだよ」

「ふむふむ、無理矢理は駄目なのか。そう思うと、あのドラゴンはどうやって生みだしていたかが少し謎だな」


 あのときは(具現魔法)も使っていたし、たぶん妖精自体をどこからか呼びだしてそれを合成した、というわけじゃないだろう。


「……そうだ! あれあれ、音の精霊とかがいるだろ? そういうのを召喚して見たかったんだよ」

「フォーンみたいな子かな? あの子たちは中位精霊だからここにはいないよ。それに、精霊魔法には精霊たちに音楽を奏でてもらうような魔法もあるから」

「何、その音楽家専用の魔法は」

『もともと精霊は娯楽が好きだからねー』


 たしかに神や精霊に捧げる歌や踊りというのはよくあるよな。だから精霊たちも、そのアシストをしていると……いや、そういう問題なのか?


「ま、いっか。とりあえず精霊召喚応用編をやろうか――“合精霊クリエイト創造エレメンタル火炎蜥蜴フレイムサラマンダー”」


 周囲に漂っていた精霊たち――その中でも主に赤色の精霊たちがその言葉に呼応する。
 俺の周りに集うと精霊たちは一つの形を成していく。体にチロチロと炎を纏った大きな蜥蜴――火炎蜥蜴サラマンダーである。


「うん、ちゃんとできたみたいだな」

「……ねえ、ならどうしてまだ続けようとしているのかな?」

「そりゃあこうするからさ――“合精霊創造・氷冷蜥蜴フロストサラマンダー”」


 火炎蜥蜴を構成していた赤色の精霊――火精霊の数が一気に減少する。
 代わりに青色の精霊――水精霊や氷精霊が鎮火した火炎蜥蜴の元へ群がっていく。
 すると、纏わりついていた火が弱々しくなり、最後には鎮火して代わりに氷が蜥蜴の外皮に現れていく。


「メルスン! だからどうして、こういうことをするのかな!」

「っと、危ない危ない。もう少し落ち着いた方が良いぞグルッ!」

「落ち着かせないのはそっちでしょ!」


 一度は回避した大木だが、避けられない量の大木のラッシュが命中して再び吹っ飛ぶ。
 自動発動の結界が発動しているのだが、それでも眷属が相手だとすべて壊される。


「ふ、氷冷蜥蜴……戻っていいぞ」


 殴られて若干痛む口を動かして氷冷蜥蜴を帰還させる。精霊たちはその言葉でいっせいに解散し、バラバラになって再び周囲を漂い始めた。


「……いやいや、まだ何もしてないぞ。だから地中にスタンバイさせるのは止めなさい」

「…………」

「なんで増やすんだよ」


 ユラルの不信が半端ない。
 たしかに俺が悪かったんだが予め準備をするのだけは止めてもらいたい。


「合成召喚……だから、その微妙に地中から見せるの止めて。それ、脅しだからね」


 脅しにも屈せず召喚作業を続ける。
 精霊たちに呼びかけて俺の実験に付き合ってくれる精霊を探す。


「おっ、ありがとう! それじゃあ――この中から好きな物を選んでみてくれ」


 呼びかけに応じてくれた精霊たちの前へ、実験のために用意した色々な物を並べる。精霊たちは若干悩んだ後、それぞれ別々の物へ入っていく。


「それじゃあ早速――“精霊ポセッション憑依エレメンタル”」

「ちょっ、それは――!」


 精霊が宿った数々のアイテム、それらが一斉に輝きを放っていく。アイテムに浸み込んだ魔力の光、精霊自体が放つ一色の光――それらが相まって鮮やかな光で空間を照らす。


「名付けて、精霊遊具エレメンタルグッズ。どうだユラル、自由に出れるようにしてあるから、精霊たちが嫌がることも無いぞ」

「それなら、大丈夫……かな?」


 精霊道具、と名付けると精霊を道具扱いしているみたいで嫌だったからな。遊具と名付け、精霊が遊ぶように協力していることを誇示してみました。


「魔法剣の真似事もできるし、相当使い勝手が良いと思うぞ。まあ、精霊一体一体と交渉する必要があるけど。……聖霊たちを収められるような器も用意しないとな」


 最後の部分だけは小さな声でボソッと呟いておく。精霊たちに憑依した際の気持ちを確認して──今日の修業は終了となる。



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