AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と月の乙女 その02



 幕は開かれ、舞台は整った。
 向かい合う形で設置された扉は、重低音と共にゆっくりと道を開いていく。

 六人の少女たちは開かれた扉を通り、その先で待ち構えるメルスの元へ向かう。
 金の刺繍が入った黒いマントはもちろん、新たに黒と白の双銃や衣装――自身の髪色に合わせた装備を着込んでいた。

 普段とは異なる装備こそ、彼の本気が見え隠れする証拠であった。

「お待たせしました」

「まあ、見た感じ俺の方が待ち構えている感があったからな。うん、一瞬で移動したけど来たのは同じタイミングだ、気にすんな」

「……いえ、そんな無駄な発言は求めていませんから。あくまで社交辞令として言っただけの言葉に過剰に反応するなんて、本当にコミュ力の無い人ですね」

「な、なぜバレたし!?」

 飄々とした態度を取るメルスであるが、クラーレのツッコミですぐに余裕はなくなる。
 クラーレも人のことを言えないのだが、そこはご愛嬌だ。

「……ゴホンッ、それじゃあルール確認だ。大体はPvPと同じだが、このままじゃ圧勝になりそうだからハンデを入れてある。そっちはアイテムが使えるけど、俺の方は全く使えない。ステータスにも制限がかかってるから、いちおう勝利の可能性はあるぞ」

「妙に舐めますね、六人が相手なのに」

「いちおう訊くけど、ステータスの差が全員足しても千以上あるって言ったら……信じるか?」

「信じますよ、だからこそ面倒ですけど」

 彼女たちは、メルとしてのメルスの実力を何度も見ていた。
 例え相手の見た目が変わろうと、本質的なものは変わらない。
 その上、装備も普段のものから変化している――弱いはずが無かった。

「あ、これ大事なルールだったな。普通やられたプレイヤーは退場するわけだが……今回の戦闘中、そっちは退場しない。攻撃ができない状態でこの場に残るんだ」

「……つまり、攻撃以外なら何をしても構わないと」

「そうそう、補助をしようと作戦を考えようと俺の余裕を奪おうと……本当に、攻撃でさえなければ自由だ。それじゃないと、みんなすぐにいなくなって寂しいだろ? さっきレベリングしたクラーレはともかく、他の奴はレベル差が半端無いんだから」

「クラーレ。貴女今、レベルは幾つなの?」

「ちょ、ちょっと待ってください……れ、レベル80!? あのときは60だったはず!」

 成長値にして400、一流の回復職でもこれ程までに強くはない。
 しかし、クラーレは単独で瘴気を纏った熊の討伐に成功した。
 ……おまけに、メルスがこっそり経験値を流していたため、急速な成長レベルアップが起きた。

「ちゃんとポイントを割り振っとけよ、アイテムだって使わないと意味ないんだから。少し離れた場所で、独りでやってくれ。スキルポイントの方も気を付けろよ」

「わ、分かってますよ! ……えーと、どれに振ろうかな?」

「……っと、クラーレが忙しいから暇潰しに話でもするか」

 入場門の辺りに戻り、自身のステータスをUIに表示し、割り振る能力値を吟味するクラーレ。
 彼女が膨大なBPを割り振り終わるのははるか先……そうこれまでの活動で知っているので、メルスは他の少女たちに語りかける。

「ツッコまなくていいから、愚痴だからな。ついでにクラーレからは俺たちの話が聞こえないようにした」

「何を話すの?」

「……ツッコまなくていいといったのに。クラーレのことだ。アイツ、【固有】スキルを発現させたぞ」

『――ッ!?』

 驚き、慌てて後ろを振り返る少女たち。
 クラーレは独り言を呟きながら、まだ振り分けるポイントで悩んでいる。
 特に侵蝕が進む様子もなく、至って平常に見えた。

「侵蝕はされない。お前たちは俺と別れた先に【固有】を習得しようと、異常が無いように細工してある。……方法は気にするなよ。クラーレは目の前でメルが斬首されたシーンに何か感じたらしく、発狂した後にスキルを習得した。本人は脳がパニック状態だったから気づいてないし、俺がステータスに干渉したからスキルリストにも表示されない。――とりあえず、ここまでいいか?」

「疑問も多いけど、まあいいわ」

 クラーレは、まだ自身の習得した【固有】スキルについて何も知らない。
 その存在を知れば、この闘いでもそれを使用すると判っていたからだ。

「スキル名はさておき、能力は回復だ。ただし、何でもできるって注釈が入るが。傷だろうが状態異常だろうが病気だろうが……死亡だろうが、癒すことができるものであれば、どんな状態だろうと回復させられる。まさにチート級のスキルだ。――はい、ここまで理解できた?」

「あの娘に私たちが教えるとは思わない? それがあれば、こっちが有利になるわ」

「いいけど、覚悟しろよ。自分たちがそれをクラーレに使わせる、そのことに対する意味について」

 メルスはそう前置きをした後に、スキル発動後に起きるデメリットを説明する。
 初めは訝しげな視線を向けていた少女たちであったが、メルスがそれを実体験させると意見を変える。
 全員が苦悶する顔を浮かべ、どれだけのリスクがあるかを身を以って知った。

「……あの娘なら、絶対に使うわね」

「だから隠した。それを発現させる程に、クラーレの覚悟は強い。この戦いで俺をどう思うかは知らないが、必要なときが来るまで、絶対に知らない方が良い」

「その偽装とやら、バレることは?」

「俺より強くなれば見えるようになる。その頃なら、たぶん普通の回復程度なら耐えられるだろうし」

「分かったわ。私たちはあの娘に、そのスキルを使わせない。……いいわね?」

 この場に居る全員が、肯定の意を示す。
 彼女たちは知らせていないが、クラーレのスキルはまさに運営神シーバラスが求めるスキルだ。
 スキルを神の恩恵と言うだけで、救われた人々はその神を崇めることになる。
 聖女や聖騎士が神の威光を示す存在であるとするならば、クラーレの手に入れたスキルは、聖女以上の力を持つものなのだ。


 それを知らないクラーレは、ようやく割り振りを終わらせて少女たちの元へ戻る。
 少女たちがクラーレに、【固有】スキルの存在を伝えることはなかった。


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