AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と微毒舌



『うぅぅ。酷いじゃないか、突然の話題切り替えなんて……。それに俺、男の子だから抗えないの。犬がワンと吠えて猫がニャーと鳴くように、男はみんな、女の綺麗な部分に見惚れちゃうんだよ!』

「言っていることが最低だって自覚を持っていますか? 要するに、自分が胸やお尻を見たことを認めていますよね? それをわたしに言うってセクハラですよ。だいたい、不意の質問に対する答えが貴方の本音です。偽善だと言っても、結局自分の欲望丸出しじゃないですか」


 なぜだか分かりませんが、『偽善者』に強い言葉をぶつけてしまいます。
 メルちゃんのことに対する怒りがそうさせているのかもしれませんし、そうでないかもしれません。

 そもそも、名前もまだ教えてくれない人へどう接してみればいいのでしょうか?
 無理矢理組まされた班活動などでは、こうした場合独り言の体で話しかけるのですが、どうしてもの場合はその日の活動エネルギーの大半を消費して苗字を呼びます。
 この『偽善者』の場合、メルちゃんと呼ぶのもノゾムさんと呼ぶのもなんとなく嫌な気がして呼べません。

 それに、こちらから名前を訊くのは負けた気がして嫌です。
 メルちゃんとしてですが、本音で話すと約束したはずなのに、彼はそれを守っていないのですから。


『悪かった悪かったって、ここは俺がメルって人格を持ってるとか変な設定を盛り込まなかったことで手を打ってくれよ。黙っていようかと思っていたけど、そこら辺は正直に言おうと決めてたんだからさ』

「……変態」

『カハッ!』


 ストレートに言った方が効きますね。
 これが、本音で語るということで……少し違う気がします。
 自分でもなんとなく分かります、このままではSMとやらになってしまいそうです。

 少し、優しく接しなければなりません。



 なのに、どうしてでしょうか――


『あの……もう、許してもらえませんか?』

「一体、何を許してほしいのですか? 今までわたしたちを騙していたことですか? それを言わなかったことですか? そもそも今まで行ってきたこと全てですか? いずれにせよ、しっかりと言ってもらわないと分かりませんけど。大体、わたしが許してもシガンたちは許すとは限りませんよ。全員が許さない限り、貴方を許すことはありません」

『……ヤベッ、面倒だなー(ボソッ)』

「何か、言いましたか?」

『いえ、何も言っていません!』


 読唇術で何を言っていたかが分かったことは内緒にしておくとして、まったく優しくできません。
 わたし、実は生まれながらにしてSだったのでしょうか?
 子供の頃は上手く話せていたと思うんですが、口を開けばなぜか罵詈雑言しかでてきません。

 自分について見つめ直していると、『偽善者』が再びおかしなことを言い出します。

『よし、決めた! もう謝らない!』

「……ハ?」

『どうせクラーレのことだから、どれだけ謝ろうと許してくれない気がするし、全員に許してもらえそうもないからいいや!』

「そんなこと、良いと言うとでも――!」

『良いか悪いかなんて関係ないさ。どうせこちとらお尋ね者、今さら悪行の一つや二つ、重ねていようが構わない。それよりクラーレたちにはもう近づかないだろうから、安心してこの世界を楽しんでくれ。生産係が大変になりそうだから、それは知り合いの店を紹介するのもいいかもしれないな』

「あの……」

『しかしまあ、家族以外との会話ってのはどうにも難しいもんだよな。どういう言葉遣いでどれだけの情報を開示して、どういった態度で話すかを逐一考えなきゃいけないんだからさ。その点クラーレはしっかりと全部明かしてくれたから、本当に嬉しかっt――』

「話を聞きなさい! この変態っ!」

『うぉっと……どうしたんだよ、急に。というか、そんな性格でした!?』


 今叫ばないと、遠くに行ってしまいそうな『偽善者』。
 わたしはそれを、繋ぎとめます。
 何でも良いから言葉に出して、独り・・で勝手に全てを決めようとする『偽善者』に……。

 そういえば、意味もなく叫ぶなんて久しぶりです。
 注意を呼びかけるためならばまだしも、市場で叫ぶのは子供の頃以来でしょうか。
 わたしの口はスラスラと、そして激情のままに『偽善者』を口撃・・します。


「もういいです! 貴方の御託を聞くのはきました! 貴方は黙ってこちらの提示した条件に従いなさい!」

『え? いや、それだと俺殺されちゃ――』

「い・い・で・す・ね!」

『……は、はい』


 こういうときは、自分の意思をハッキリと伝えることが大切だとシガンに聞いたことがあります。
 なるほど、確かに『偽善者』も借りてきた猫のように大人しくなりました。
 血の気が失せて顔色が真っ青になった気もしますが、静かなので置いておきましょう。


「まずは……自己紹介をします。わたしはクラーレ、戦闘もできる回復役ヒーラーです」

『え、ええ? お、俺はメルス、大体のことなら何でもできる、偽善者です』

「メルス、ですね。偽善者って自分で言ってて恥ずかしくないの? ……っとと、今は続き続き。趣味は読書で、甘い物が好きです」

『……仕方ないじゃん、他に説明できるものがないんだから。えっと、趣味は寝ること、好きな者は家族だ』


 一つ一つ、互いに他愛無いことを教え合っていきます。
 これも、シガンに聞いたことです。
 こうやって緊張を解けば、自然と話せるようになると言っていました。

 自然と呼び捨てになったことは、これまでの所業が原因……ですよね?



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