AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と正体
二つの単語を理解しました――『模倣者』と『偽善者』です。
片方は闘技大会でも有名な、『模倣者』のことだと思います。
エキシビションマッチでは『譎詭変幻』という方に負けていましたが、それでも凄い戦いを魅せてくれました。
あの戦い、パーティーの中でシガン……となぜかわたしには、他のみんなとは違うように見えていたそうです。
みんなには、二人が黙って美しい剣戟を交わす戦いに見えたそうですが、シガンとわたしには『譎詭変幻』が何度も叫びながら『模倣者』相手に超高速の戦いを行う様子が見えました。
……さらに言えば、シガンとわたしとでも少しだけ違いが有ります。
わたしには、『譎詭変幻』が色んなことを抱えながら、それでいて楽しそうに笑いながら戦っているように見えました。
そんな顔を、いつも近くで見ていられるようになったからでしょうか、不思議とその場に居ないその娘のことを思っていました。
メルちゃんも、そんな顔をすることがあるのです。
誰かのために動こうとするとき、決まってメルちゃんは楽しそうにしています。
わたしも、そんなメルちゃんの顔を見るのは好きなのかもしれません。
◆ □ ◆ □ ◆
そして今、『偽善者』について考えます。
目の前では双剣と長剣をぶつけ合い、動きながら会話をしています。
『ほらほら、もう終わりかよ。折角落とした首が定着しちゃうぞ~』
『黙れ! 追放された祈念者が! 既に力を失ってはず! なのに今さら、何をしようと言うのだ!』
『だから偽善。だって俺は偽善者だぞ。自由に動いて誰かを救い、気ままに動いて誰かを倒す。勧善懲悪、正義は勝つ、今回はちょうど、彼女に絡んでいただけさ』
黒も白も生えた髪、二本の剣、金の刺繍が入った黒いマント……どこかで見たことのある特徴ばかりです。
話し方も、大会にでてきた『譎詭変幻』のようですし……あとで訊くことがたくさんできました。
『死ね! "ヴォ―パルギロチン"!』
『ならこっちも――"ヴォ―パルギロチン"』
男の長剣が紅色に染まり、物凄い速さで首に向かいます……が、『偽善者』の双剣がそれ以上の速さで、長剣ごと男の首を落とそうと動きます。
『セットでどうぞ――"クロススラッシュ"』
『ぐぎゅ……』
一度は『偽善者』の攻撃を躱した男でしたが、再び引き戻すようにして使われた武技によって、首を切り裂かれます。
不思議と首は落ちず、男の顔が苦悩した状態で固定されていますが……『偽善者』が何かしたのでしょうか?
『落ちる首はトラウマかな? 一応固定しておいたけど』
「いえ、特には」
『……そ、そうか。意外とタフなんだな』
男の体を寝かせ、『偽善者』はわたしの方へ近づいてきます。
不安そうな顔をしていますので、やはり約束を果たそうとしてくれているのでしょう。
『いちおう訊いておくけど、俺の正体については――』
「メルちゃん、ですよね。むしろヒントが多すぎて、違っていると困っちゃいます」
『……正解、証拠はこんな感じで。というかさっき、もう呟いてたしな』
結界に『偽善者』が触れた途端、スッと結界が解けるように消えていきました。
この結界を解除できるのは、メルちゃんしかいません。
つまり、メルちゃん=『偽善者』という方程式が成立します。
「貴方は……ずっと騙していたんですか? 女の子たちにちやほやされたくて、小さな女の子になって欲望を満たしていたので?」
『うーん、そういうのは特にな。出会いはいつも偶然であり、必然だ。例えば……』
そう言って、指を鳴らす『偽善者』。
すると、見た目が変化して――
『あるときは、謎の召喚獣メルであり……』
メルちゃんの姿になります。
そして、もう一度指を鳴らすと――
『あるときは、冴えない一般プレイヤーノゾムで活動する。そう、少なくともクラーレとメルの出会いは必然だ。【固有】スキルを探すためにお前たちを隠れ蓑にするため、少女の姿になって潜りこんだってわけだ』
メルちゃんとの出会いのキーアイテムである結晶をくれたノゾムさんになりました。
……どうりで、さっきノゾムさんへの話し方を言ったときに驚いていたんですか。
『あと、別に男の姿のままでもよかったんだぞ? 透明になってストーキングでも良かったし、そもそも最初は帰ろうとしていた』
「そうですね、ではどうして?」
『……友達と遊ぶってことを、成長してから全然してなかったからかな? 家族は多いんだが、友達は全くできなくてな。お前たちのパーティーに混ぜてほしかったんだよ』
「初めて来た時、シガンが侵蝕されて崩壊の危機だったんですけど」
『そういう喧嘩も友情ってヤツだろ。終わりよければ全て良し、最後に笑って終われたんだから、満足の結果だったろ?』
確かに、それはそうです。
メルちゃんが現れ、【未来先撃】を振るうシガンを倒す力を貸してくれたからこそ、わたしは元のシガンを取り戻したのですから。
『俺はな、こっちで偽善がしたかっただけ。相手が男性だろうと女性だろうと、子供だろうと老人だろうと、奴隷だろうと王様だろうと、人間だろうと魔物だろうと、地球人だろうと異世界人だろうとな』
「……話を戻しますよ、貴方は少女としてわたしたちの水着を見たりして、楽しかったですか?」
『ああ、そりゃあもう……あっ』
語るに落ちるとは、このことですね。
アハハ、と苦笑いで場を乗り切ろうとする『偽善者』を、まずは懲らしめましょうか。
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