AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とアースマンティコア



 休憩が終わった後も、メルちゃんとなかなか話すことができません。
 普段ならメルちゃんから、わたしに話題を振ってくれるのですが……今回は、わたしから話さねば会話が始まらないです。

(…………どうすれば、いいのでしょう?)

 シガンなら……という考えも先程潰えてしまいましたので、アドリブで行わなければなりません。
 彼女はどのような話の振り方であろうと、わたしへ親身に話を返してくれます。
 ですが、メルちゃんはわたしみたいな面倒な相手に、応えてくれるでしょうか?
 メルちゃんにとって意味の分からない話を振ってしまい、不審に思われてしまうかも知れません。

 ですが、こちらから話しかけなければ覚悟が決まらないです。
 メルちゃんに依存すれば、いつかお別れになってしまいます。
 現実ではまだできませんが、こちらでならできる……ときもあります。
 ――はい、コミュ症ですけど頑張ります!


◆   □   ◆   □   ◆

怪獣の巣 第四層


『――それで、どうしてまだ話せてないのかしら?』

「うぅ……」

『こっちでなら、誰とでも話せるって前に豪語してたじゃないの。あの言葉は偽りだったの? 一言言えば、あの娘は応えるって言ったじゃないの』

「……でも、迷惑なんじゃ。それに、どうしてもメルちゃんと話そうとすると口が開かなくなるんです」

『(……これは重症ね)』


 結局、話す機会もなく最深層の手前です。
 何を話そうか、どうすれば話せるのかをもやもやと考えていれば、いつの間にか時間は過ぎ去っていきました。
 メルちゃんは必要最低限なことは言ってくれますが、会話として成立するようなことは一度もありません。
 わたしはそれにすら応えられず、ただ首を縦に振ることしかできませんでした。

 メルちゃんは今も、わたしたちから離れた場所で生産活動と警備を行っています。
 ……メルちゃんって、過保護なんですよ。

(それなのに、依存してはいけないというのは……少し、難しいことを要求していると思います)

 初めの頃は分かりませんでしたが、いつもメルちゃんは休憩中に魔物が来ないように、魔法を使って対処してくれていました。
 みんな分かっていますが、メルちゃんはたくさんの秘密を抱えています。
 訊けば関係が壊れると分かっています、なので誰も訊きません。


『クラーレ、本当に話さないの?』

「話したいです! 話したいですけど……」

『そう、ならいいわ。それならメルに伝えて来るわ』

「伝える? ……いったい何を」


 シガンの顔が恐いです。
 いつも突拍子もないことを考えると、必ずシガンは不敵な笑みを浮かべます。
 そして、それは予想通りでした――


『貴女がこのダンジョンから出る前に、もしメルと話さなかったなら……メルには、このパーティーから離れてもらうわ』


◆   □   ◆   □   ◆

怪獣の巣 第五層


『■■■■■――"フレアストーム"~!』


 プーチの放った炎の嵐が、目の前の魔物に襲いかかります。

 GUOOOOO!!

 名前は『アースマンティコア』、蠍の鋭い棘を尻尾から生やしたライオンのような魔物です。
 アースマンティコアは雄叫びを上げると、自身の周りに土の防壁を築きました。


『魔法が使えるのか、面倒だな』

『そんな壁、強烈なので壊せばいいのよ!』


 巨大なハンマーを振り回して、コパンがその壁に近付きます。
 そして、グルグルと回って――


『"廻戦槌"……って、あれ?』

『みんな、下に警戒!』


 回転した勢いを使った武技で壁を破壊しますが、そこにアースマンティコアの姿はありませんでした。
 しかし、シガンは下に潜っていると考え、そう注意を勧告します。


「"プロテクション"!」


 わたしはその言葉に、全員の足元へ防御用の魔法を発動させます。
 メルちゃんに鍛えられて手に入れたスキルで、わたしも潜っていることが分かっていましたので。
 一度だけダメージを緩和させる、といった魔法ですが、即座に発動可能なので一気に行使します。

 GUAAAA!!

 地面から飛び出したアースマンティコア。
 その際に狙われたディオンは、すぐに剣を突き立てて攻撃しました……が、


『なっ!』


 刺した途端、アースマンティコアであったものは、ただの土塊と化しました。
 どうやら魔法かスキルで創った偽物を、先に囮として放ったようです。
 本物はまだ下に居て、複数の囮と共に待機しています。


『厄介なボスね。【未来先撃】もあの速度だとカウントダウンが間に合わないわ』
『挑発もあまり効かないようだ』
『いっそのこと、水責めとかしない?』
『MPが~、足りないよ~』
『クラーレ、どう思う?』


 アースマンティコアもこちらの隙を窺っているようで、動きを見せません。
 その間にこちらの意見を纏めようとしますが、あまり対策は浮かばないです。

 わたしの考えを聞かれました。
 どうしてもメルちゃんを頼りたくなる弱い自分を叱咤して、答えます。


「プーチ、地面を軟らかくすることはできますよね?」

『う~ん、できるよ~』

「では、それをお願いします。魔法で軟らかくなった地面を、コパンが魔法ごと破壊してください。それをシガンが【未来先撃】で待機させた攻撃で当ててください。ディオンとノエルは陽動です。アースマンティコアがどうやって相手を見つけているか、それを特定したら誘きだして倒します」

『『『『了解!』』』』


 シガンを真似して考えてみましたが……我ながらナイスアイデアです。
 メルちゃんも、そう感じてくれたでしょうか? そう思って見てみれば――


『…………』


 とても深刻そうな顔で、俯いていました。
 ……何かあるみたいです、メルちゃんのこのような顔は滅多にみたことがありません。


「気を引き締めていかなければ……」


 短杖ワンドをしっかりと握り締めて、作戦を実行していきます。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品