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山田 武

偽善者と赤色の紀行 その10



≪40万アーカ! こちらのエルフの秘薬は40万アーカで、666さんが落札です!≫


 いやー、良い物が買えたわー。
 芸術品だけかと思ったら、ちゃんと掘り出し物もあるんだなー。
 不良品だけを買う予定だったんだが、案外俺の興味をそそる物が多かったよ。

 賢者が記した手帳であったり、かつてこの世界で暴れた魔王の城にあった魔剣であったり、エルフたちが特別な調合で生み出した粉末であったり……。
 例え外れであろうと、懐は別に痛まないからな。楽しい買い物だったよ。

 関係無いが、ここで通貨の説明をしよう。
 アーカが通貨の単位だ……赤だからか?
 1アーカが1円ぐらいで、銭貨と呼ばれる硬貨1枚でアーカ。
 そこから十倍の価値がある硬貨が順に――鉄→銅→銀→金→白金→晶→虹――並んでいく(異世界のご都合主義なのだろうか、途中まではAFOの世界も同じである)。

 今買った秘薬で、俺の消費金額は虹貨5枚分となった。
 そして、俺の持ち金は色々と買い続けた結果から三十五枚。
 なので単純計算で、3億5千万程持っているわけ。
 ……恐い、数字のインフレが怖い。

 と、とにかくまだまだ金はあるし、これから始まる大一番に向けて、たっぷりと金は溜めてあるぞ。


≪これで、文字通り物品の販売が終わりましたね。……では、これから本番です! これまでのオークションは666さんが大金を積まれていましたが、ここからは皆さんも負けじと注ぎ込まれること間違いなしでしょう。
 これから始めるは、真の闇オークション!
 表では決して買うことのできない……人を販売します! さあ、持ち込んだ硬貨はいつ使うのか! そう、このときのためだ!!
 これから売られるのは誰も彼もが普通の奴隷商人では売ることのできない至上の者! 見た目や地位、スキルや祝福は買われた皆様のステータスになること間違いなし!
 それじゃあ、こうして説明している時間も勿体無い! どんどん行きましょうか!!≫


 そう、ここからは奴隷が販売される。
 今まではこの場に居る者の十分の一程度しかオークションに参加していなかったが……ここからは、全員が持ち金を全て払って目的の奴隷を手に入れようとするだろう。

 だが甘い、甘過ぎる。
 例えそれが、自分の【強欲】だろうと。
 例えそれが、自分の【色欲】だろうと。
 例えそれが、誰かへの【忠義】だろうと。
 例えそれが、誰かへの【慈愛】だろうと。

 全ては、俺の持つ歪んだ<正義>感の礎となるのだ。
 偽善として、奴隷を救う……実に偽善者らしいイベントじゃないか。

 お礼として、スキルを貰っていこうか。
 全員ではないが、訳ありの奴はそれを解決してやるのも面白そうだ。
 男は……特に理由も無いなら、ダンジョンのモルモットで良いか。

 やることがいっぱいだが、地球と違ってそれは俺のやりたいこととイコールである。
 でも、このままじゃぁ机上の空論だな。
 とりあえず、全部買い占めますか。


  ◆   □   ◆   □   ◆

「フフッ、ノゾムさんはやはり面白い方だ」

 会場の片隅で、一人の商人は笑っていた。
 彼の名はルーカス、『狂商人』と呼ばれる商人であり、この場に偽善者が現れた原因でもある男だ。

 彼の目の前では、今までのオークションでは考えられない珍事が起きていた。

 全ての奴隷を、たった一人の男が落札していく。
 どんな富豪だろうと、大商人だろうと、王家だろうと……積もうとした金を一瞬で振り払う、無慈悲な言葉に抗うこともできずに負け続けていた。

≪ま、また500万アーカ……! こちらの奴隷ハースは、666さんが500万アーカで落札となります!≫

 今売られた男の奴隷は、持っていたスキルが貴重であるが故にこの場に出された。
 男の奴隷の場合、ここに出品されるのは大抵がレアなスキルか出自が原因だ。
 そして、今までにそうして売られた奴隷の全てが……偽善者666によって落札されている。

「賭けの勝負、どうやら私も耄碌になってしまったようですね。何かある、とまでは理解していたのですが、まさかここまで愉快で痛快な方だなんて……」

 偽善者はカジノに向かう前、ルーカスと一つの賭けをしていた。
 自分がルーカスの想定を超える所業を行って、それをルーカスが面白いと判断したのならば……願いを一つ聞くと。

 仮にも、命を救ってもらった恩人である。
 ルーカスはそれを承諾し、契約を結んだ。
 ――そして、今自身の敗北を認めた。

「彼がカジノに向かうことは予想が付いていましたし、そこでそれなりの金額を手に入れることも分かっていました。てっきり武を誇り、闘技場で稼ぐと考えていましたが……まさか、ジャックポットを当てるとは」

 偽善者も気付いていたが、本来あのスロットでジャックポットが出ることは無い。
 それは、異常な動体視力と反射神経を持っていなければ、運でも当てることのできない金喰い箱であった。

 だが、今回金喰い箱は今までに溜め込んできたコインを吐き出した。
 運営側が餌と用意した全てを奪い、偽善者はこのオークションに虹貨五十枚と共に颯爽と現れたのだ。

「フフッ。長年の勘というものも、歳を経ればただのポンコツ。ノゾムさんの願いを聞いた後は、一度磨き直す必要がありますね」

 再び司会が666番による落札を告げる。
 それを聞いたルーカスは、口角を吊り上げてそう呟いた。


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