AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色の紀行 その09



 しばらくすると席から見える舞台の上に、司会のような服装をした仮面の男が現れた。


≪大変長らくお待たせしました。
 ただいまより目玉イベントである――オークションを始めさせてもらいます!≫


 そう言った仮面の男――以降司会――は、その後はオークションに関する注意事項を述べていった。

 思考を二つに分けてそれを確認しながら、周りの様子を確認する。
 入口以上に情報漏洩対策の仕掛けが施されている部屋なのだが、お馴染み<八感知覚>の前にはほぼ全てが無意味なのだ。

 ……ふむふむ、席に置かれた魔道具を使えば、前に出される品の詳細が分かるねー。
 魔道具は電子端末のような形状をしているので、まさかとは思っていたが……どの世界も辿る進化は同じなのかな?

 なるほど、結構な金を持ってきている人もいるみたいだー。
 どんだけ奴隷を買いたかったんだろうか。
 俺は虹貨という、この世界で最も価値のある金を五十枚持っているが、盗み聞きをした所に居た人はそれを四枚持ってきたことで相席した人から驚かれている。
 なんでも、一枚で巨大な城が買える程の金額だそうで、本来世に出回らない超レアな硬貨らしい。
 素材がかなりのレア物で、特別なことが無いと製造されないとのことだが……それが五十枚ある俺って一体。


 とまあ、色々と調べていたわけだ。
 念のため、俺が借りた部屋の周りに妖しい奴が隠れていないか確認したが、今はそうした者を確認できてはいない。

 現在の俺は、ただの売り手出品者だからな。
 何もしていない弱者を相手になんか、お金持ちのブルジョワ様は相手になさらないのだろう。


≪――では、早速始めさせていただきましょうか。まずは、世界から集めた至高の一品から皆様に見てもらいますよ≫


 ルール説明もマナーに関する話も終わり、司会はオークションの開始を告げた。
 最初に出てくるのは、芸術品だろうか?
 俺は美的センスが欠けているからな。
 意思のある物ならばともかく、そうでないならば特に欲しいと思う物は無いだろう。


「ま、どれくらいの価格でイケるか、試すにはちょうどいいかな?」


 お土産ぐらいにはなるだろうか?
 一度約束を果たすためにも、何より偽善活動を忘れないためにも……張り切ってみますかな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

≪80万アーカ! こちらの宝剣は、80万アーカで666さんが落札です!≫

 進行役の男が木槌を叩いてそう告げると、会場に居る買い手たちから怒りの感情が漏れ出す。
 今回落札された宝剣は、邪神の眷属によって滅ぼされた国跡から密かに渡って来た業物であった。
 その国と関係を持っていた者やコレクターなどが挙って金を積んで購入を目論むような代物だ。

 ――しかし、それを一人の男によって掻っ攫われていった。
 いや、少し語弊があるだろうか。
 今までに出た商品の大半が、その男によって落札されていたのだ。

 初めの内は、ただのコレクターだと思い、誰もがただ出品された物を諦めるだけで済んでいた。
 だが、それが何度も、何回も、常に同じ結果で起きていればどうだろうか。
 しかも、その全てが自分たちの持つ所持金よりも高く落札されていく。
 人々は顔も分からない666の番号を持つ者に怒りを沸き立たせ、情報を集めた。

 だが、詳細は分からなかった。
 自分たちも借りた部屋は王族も入るような完全防御が施されている。
 そこに侵入することは不可能である、それだけの人材をこの場には連れることはできなかった。
 ある人材を使って調べてみても、分かったことはこのオークションが始まる前に666番の席に着いた男の情報のみ。
 いくつかの品をオークションに出し、その全てが高額で落札される出品者セラー

 男は、『狂商人』ルーカスの紹介によってこの場所にやって来た。
 そして、ルーカスと分かれた後にカジノで多額の金を手に入れてオークションに挑む。

 それ以前の情報は全く存在せず、ルーカスからの情報も期待できない。
 ルーカスはその異名の通り狂っている。
 かつては世界でも片指に数えられるほどの財閥の持ち主であったが、出来事を境に少しずつ狂い始めた。
 彼の真意を読み取れる者は存在せず、決して理解されなくなった孤独の商人。

 そんな彼が連れて来た男なのだ、普通の男ではない。
 血のように真っ赤な司祭服に身を包み、首には不思議な方陣の形をした装身具をぶら提げている。
 血痕のような汚れた赤髪のその男は、空気穴が通されただけの仮面を被っていた。
 分かったのは先程の情報とこれだけだ。


 だが、そうして男の情報を調べようとしているだけではなかった。
 買い手バイヤーのほとんどは、未だに行われている奴隷販売を目的にやってきているのだ。
 そこに、多額の資金を持ってやってきた一人の男がいる。
 どれだけ先に金を使おうと、カジノで手に入れたとされる虹貨五十枚の前には太刀打つことはできない。

 男一人でこの会場に居る者全ての所持する額に匹敵する大金を所持している。
 それに抗う方法は、今のままでは無い。

 故に、一部の者は最終手段を取る。
 その選択がどういった未来を選ぶか……それを知る者は、まだ誰もいない。

 ただ一つ、言うことがあるのならば。
 男によって落札された商品の大半が、盗品や呪い付きの物であったことだろうか。


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