AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と水着イベント後半戦 その09



 島には、墓地が存在する。
 かつてこの島で亡くなったとされる者を弔い、祭るための場所であった。

 この場所にもまた、一つのダンジョンが存在している。
 ダンジョン化の影響でずっと薄暗く、空には擬似的な星々や月が輝き地を照らす。

 大量のゾンビやレイスなど、アンデッドが蔓延るその場所の踏破報酬は――イベントの期間中、エリア内の魔物全ての弱点を強め、耐性を低くするというものだ。

 故に、幾百かのプレイヤーがこの場所を踏破しようとダンジョンに足を踏み入れた。

 ――しかし、誰一人としてその地の最奥を見た者はいない。

「ふふっ。偽物の月もまた、それなりの効果があるみたいですね。最初は少し心配していましたが……どうにかなりそうです」

 背中に月光を浴びるその女性は、一人空の上で独白する。

「今の侵入者は貴方たちで最後。さぁ、大人しく死になさい」

「……まだだ。まだ、俺たちはやれる」

 その声に応えるのは、一人の少年。
 目には不屈の闘志が宿り、一瞬の隙も見逃さない眼力を見せた。

「そう言われましても。既に拘束されて動けないでしょう? 旦那様のような方ならばともかく、ただのプレイヤーには難しいかと」

「それでも! それでもやるんだ。この場所さえ攻略できれば、他の人たちもダンジョン攻略ができるようになる!」

「……確かに、その可能性はありますね。だからこそ、わたしもこの地を踏破されないように守っているのです」

 体を女性の影から伸びた縄によって縛られたプレイヤーたち。
 少年もまた、拘束されていた。
 そんな状態でも諦めることなく、少年は女性に対して語った。

「……そもそも、君はこのダンジョンの魔物じゃないはず。ここはアンデッド系の魔物しかいないと聞いている。だけど、君は間違えなくドラゴンだ。ゾンビ化しているってわけでもないし、明らかに不自然に感じた」

 女性は、明らかに人では無かった。
 そのことを、女性の背中から伸びた黒い龍の翼と尻尾が証明している。
 特段隠していることでもないので、女性はクスリと笑って話を続けた。

「そうですね。確かにわたしはアンデッドではありませんよ。ですが、別に良いではありませんか。相手がどうであれ、貴方たちが死に戻ることに変わりはありません。――いつまでも休ませるわけにもいきませんし、やりたいことがあるならどうぞ」

「もう少し、力を戻しておきたかったんだけど……仕方が無い。頼む!」

「はいっ――"ミッドナイトサン"!」

「なるほど、正しい選択です」

 パーティーメンバーの一人が、手に持った長杖から巨大な光球を生み出す。
 上空にいる女性の上を越え、光は月よりも高く飛び――ダンジョン内を眩く照らした。

 一瞬、空間内から影が存在しなくなる。
 縄が無くなり自由の身となったプレイヤーたちは、即座の離脱を計った。

「みんな! 影を作るな! 次に拘束されたら多分負ける。それよりも早く、落として勝利をもぎ取るんだ!」

『オォッ!』

「ふふっ、頑張ってくださいね」

 女性は、今まで隠していた犬歯を出して、薄らと笑みを浮かべた。

◆   □   ◆   □   ◆


『旦那様、ようこそいらっしゃいましたね』

「……あ、もう吸っちゃった?」

『太陽を生んでくれた方がいまして。お礼にと考えて吸っちゃいました』

「いやいや、そんな可愛く言われても……」


 極夜の墓場ダンジョンであった・・・場所に、現在俺は来ている。

 そう、過去形だ。
 上空には燦々と太陽らしきものが光を降り注ぎ、ダンジョン全てを照らしていた。
 その輝きは光に弱いアンデッドを浄化し、耐性の無い魔物たちは全て魔石だけを残してこの場から消え去ったのが現状である。


「本当、吸血鬼としてはチートだよな。月でも太陽でも強くなれるって」

『両親の愛の賜物ですよ。わたしたちも……その、作りませんか?』

「ヤりません! というか、脈絡がないにも程があるわ」

 例え生まれるのが女の子だけであったとしても……少しだけ心が揺らがないでもないが作らないぞ。
 負の遺伝子はここで絶やすべきであり、既にそんな説明をするものなら(遺伝子改変)を勧められようとも不動の念で断っている。


「はいはい、そういう話は無しだ無し。それより今は、別の話だ」

『そうですか……残念です』

「今さ、こうして働いてくれている眷属たちの元に向かって、俺が受け入れる範囲内でできることをやるってイベントをやってるんだけど……何かあるか?」


 こうした時、大体は肉体が触れ合うことを要求されるな。
 愚息マイサンが活躍する日はまだまだ先の久遠の彼方だと思うが、少なくとも今ではないのでそういった要求は却下中だ。

 さて、何を要求されるのか……って、フィレルの場合は決まっているのか。


『で、では……その、旦那様の血を……』

「それはいいけどさ、酔わないか? この後も守護は頼みたいんだが」

『だ、大丈夫です! 耐えてみますので』


 精神論だとツッコミたいが、眷属の望みはできるだけ受け入れたいのでスルーした。

 常時発動している(血液不要)を一度解除して、体内に血液を循環させる。
 血液が無くとも活動できるので、今まではそうしていたが……こうした時のみ体に戻しているぞ。

 フィレルはフラフラと血の通った俺に近付き、かしずいた状態で俺の指を取る。


『で、では早速……カプッ』


 彼女の滑らかな唇が人差し指をゆっくりと呑み込まれ、唾液をねっとしと滴らせるように絡ませていく。
 頬を上気させて真っ赤な瞳でこちらを見上げる彼女に頷くと、嬉しそうな顔をして――牙をそっと指に刺す。


『ん、ん……ん~~~~!!』


 声にならない声を上げて、自身の快感を表していく。
 ……妙にエロイな、と感じながらも、その光景を眺めるのであった。



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