AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と水着イベント後半戦 その01
つまらないジョークで締めてから、数日が経過した。
既に水着イベントの前半戦も終了し、今では後半戦が本格的に始動する前の、いわゆる準備期間的なものへと移っている。
……ああ、前半も色々あったよ。
要約すると――釣りやキャンプ、水着によるファッションショー(by眷属)。
どれをやってもトラブルばかりであった。
俺の運の無さ……というより凶運の酷さがそれを起こしていたのかもしれないが、その結果手に入れられた物も沢山あったのでいい思い出として記憶している。
さぁ、そんな細かく一日ごとに説明していたら描き下ろしになるんじゃ!? ぐらいの思い出は一先ず置いておいて、今は後半戦の説明でもしておこう。
後半戦はずばり――レイドバトルだ。
イベントが始まると、イベントエリアの何処かに何体かのレイドモンスターが現れる。
プレイヤーたちは、水着を装備して海中に潜む強敵たちに挑むのだが……普通に挑んでも、全然勝てない設定になっている。
何故なら、驚異的な回復力や圧倒的な攻撃量、そして一定ダメージ以下の攻撃を無効化する障壁を有しているからである。
他にもレイドモンスターが圧倒的に有利な能力を幾つか保持しており、言うなれば負けイベント確定状態なのだ。
これを解決するための方法が用意されているからこそ、恐らくこのイベントは盛り上がると思うぞ。
島や海の何処かに眠ったダンジョンを攻略することで、レイドモンスターの持つ能力を封印できるのだ。
ダンジョンの難易度によって封印できる能力は変わるが、一番簡単な、それこそ初心者限定ダンジョンであろうとも、レイドモンスターの防御力を割くのに一肌脱いでいた。
……ただ、装備破壊:女性水着があるとされるダンジョンは、常時男性のプレイヤーが攻略されないように、見張りをしていただかしていなかっただか。
まあ、要はダンジョンを攻略して弱らせてからレイドモンスターを討伐する――それが今回のイベントなのだ。
◆ □ ◆ □ ◆
???
「……例の準備はどうだ?」
『ふっふっふ、とっくにできているよ』
何も無い白い空間で、一組の男女が密談を行っていた。
男にも女にも何故かノイズのような物が絡みついているため、その場に誰か他の者が居ようとも、恐らく正体に気付くことは無い。
――まあ、俺とフーカだけどさ。
扇風機の風を浴びながら、アーアー遊びつつ会話を続ける。
『流石にレイドモンスターの書き換えまではできなかったから、封印の条件の方を弄らせてもらったよ……これであの能力だけは延々と、モンスターたちの中で輝き続けていられるはず』
「ああ、やはりアチラもそれなりの策を用意してあるということか。まあ、自分の傑作を穢されるわけにもいかないのか」
『メルメル、わたしはあくまで頼まれた分しかやらなかったけど……全部しなくて良かったの?』
「仕方ないだろう。それが問いに対する答えだったんだから。俺はそれを尊敬するし、邪魔するわけにもいかない。救いの手を伸ばせるのは、助けを乞うた奴だけだよ」
『偽善者も大変だねー』
「そうそう、一度は救われないものさ」
『ふふっ。本当に、メルメルは大変だねー』
いや、そうでも無いのかもな。
そう答えようとしたが、それはそっと心の奥底に仕舞い込んだ。
◆ □ ◆ □ ◆
???
「それで、今の状況は?」
「……少し待て……」
イベントエリアにある島の何処かで、二人の男が密会を行っていた。
そこは断崖絶壁の崖であり、荒れ狂う波が常時彼らに飛沫を吹きかけている。
どちらも外套を身に纏っていて姿を見ることはできないが――片方はその姿が陽炎のように歪み、もう片方は腰に黒い意匠で拵えられた剣を下げていた。
「……『弓』はダンジョンを即席パーティーで巡っているらしい。『剣』は大衆の中で侍らせている。『盾』と『杖』はレイドに参加中だ……」
「『十字架』は」
「……ログアウト中だ……」
「そうか。アイツにも言いたいことは幾つかあったが……まあ、それは今でなくても問題ない。それより、今はアイツらとのけりを付ける方が先か」
剣の男の感情に呼応して、腰に下げた剣は黒い靄のような物を周囲に漂わせていく。
「お前のことも忘れていないさ。お前が俺に力を貸す限り、俺もまた、お前のために協力しよう」
「……それが、魔剣か……」
「呪われた装備、だけどな……悪かったよ。俺はちゃんと、お前に感謝しているさ。だけど、客観的に見ると……な?」
「……すぐに行く気か……」
「いや、悪役ってのはなんでも最後に出てくるのが一番だろ。アイツらのことだ、俺を見ても舐めプしかしないだろうし、俺の味わった分をそのまま……いや、それ以上にして返してやるのが日本人って者だろうよ」
魔剣と呼ばれた剣を握った男は、そう言って……ニヤリと嗤った。
◆ □ ◆ □ ◆
「(もしもーし?)」
【……『復讐者』は予定通り。魔剣の状態も確認済み……】
「(へー、覚醒していたか?)」
【……はい、念話では無く口頭での会話でしたが……】
「(俺側で、やった方が良いってことは何かあるか? 最も強い感情か、突然正の感情を混ぜ込むのが面白いと思うんだが)」
【……でしたら、『十字架』の少女を惨殺場に締めで送るのが宜しいかと……】
「(なるほど……参考にしてみるよ)」
【……では、これで……】
◆ □ ◆ □ ◆
様々な思いが交錯する今イベント。
プレイヤーは、イベントに力を籠める。
偽善者は、守るべき誓いを立てる。
復讐者は、憎悪に満ちた報復を行う。
一つ一つが純粋な、そして強い思いで築かれた願いであった。
それがもし、重なった交わったならば――
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