AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者とエキシビションマッチ 中篇



 開始直後、巨大な柱が会場に出現する。
 それは膨大なエネルギーが可視化されたものであり、準備運動の一興であった。
 放たれたエネルギーの始点は二つ、闘技場の両端からのものである。

「("幻覚結界")へえ、やるじゃん。それってスキル? それとも魔法?」

「…………」

「いやいや、過去の俺でももう少し愛想良くやってたから。【思考詠唱】ばっかりだったから無言っぽかったけど、気付いてないだけでさ」

「…………」

「……グスンッ」

 観客には、再び幻覚でそれなりにエキサイトした映像が送られている。
 実際の闘いは盛り上がることもなく、静かに隙を伺うものだ。
 エネルギーは双方が解析を行い、この先に行う行動の先読み、対策の用意、そして更にそれを上回る行動の支度を一瞬で済ませる。

「それじゃあ、まずは剣からだ」

「ソードスタイル」

「あ、それは言うんだ」

『偽善者』と『模倣者』は、その場で同時に剣を振るい、その斬撃で自身のエネルギーを切り裂いていく。
 斬撃同士がぶつかり合い、周囲に内包された力が飛び散る。
 その瞬間二人は舞台の中央に進み出て、互いの剣を噛み合わせた。

「……解析」

「剣聖の剣術は、そう簡単に読み取れやしないから、なっ(――"クロススラッシュ")」

「迎撃(――"ミラージュライン")」

『偽善者』の振るう双剣の軌跡は、『模倣者』の一本の剣が描いた二本の軌跡によって防がれる。

「ならもういっちょう(――"開牙""隼鹿")」

「迎撃(――"剣々波")」

「わぁお! 凄ッ(――"十字斬")」

『偽善者』は一度に四度の斬撃を放つが、新たに放たれた八つの斬撃に自身の攻撃を消される。
 驚きながらも冷静に武技を発動し、こちらに進んでくる斬撃を打ち消した。

「……飽きた、次は槍で行くぞ(――"五月雨突き")」

「ランスモード(――"多連突き")」

 互いに武器を槍に持ち替え、再びぶつけ合う。見えないはずの透明な槍を的確に捌き、喉元へ喰らい付こうとする『模倣者』。
 だが、『偽善者』はそれへあっさりと対応し――再び武器を変えて攻撃を行う。



 斧、槌、鎌、弓、銃……存在するありとあらゆる武具を使い続け、人々が知りうる限りの物が出尽くした。
 すると、二人は互いに手を翳し、遠距離からの攻撃を行っていく。

「武具も飽き飽きだ、今度は魔法で勝負するとしよう(――"ファイアーランス"×20)」

「マジシャンモード(――"ウォーターランス"×20)」

 炎と水の槍が出現し、ぶつかり合って舞台に蒸気を産出していった。
 その中で何度も魔法が相殺される。
 風、土、木、氷、雷、光、闇……生み出されたものは全て、舞台の中央で消えていく。

「ほらほら、どんどん盛っていくぞ(――"器想纏概")」

「……撃滅」

 武具での闘いが面倒に感じていたのか、魔法での闘いを一気に蹴りをつけようとする『偽善者』。
 周囲に絢爛な宝珠を展開し、同時に何重にも重ねられた魔法を撃ち出していく。
 自然災害を模した魔法や、人間が生み出した技術を形とした魔法。一つ一つが強力なそれらが、一斉に襲い掛かる。

 だが、『模倣者』も同様に強力な技を放とうとしていた。

「魔導解放――"鏡写しの銀境世界"」

「……うわっ、何それ!」

 『模倣者』のスキル:魔導之才:、それにより『模倣者』が発動した一つの魔導。

 その力により、辺り一面が鏡のような物で覆われ、隔離されていく。
 会場から観ることもできない、磨き上げられた銀色の鏡の世界。

 魔導、それは『偽善者』の知り得ない未知の力。今、その力は『偽善者』に牙を剥く。


 魔導によって生み出された世界に、『偽善者』が放った魔法全てがに映り込み――本物へと相殺されていった。
 全く同じ速度、全く同じ質量、……全く同じ威力を以って、それはなされた。

『偽善者』はそれでも一瞬で驚きを消し、闘いへと戻る。

「俺が持って無いオリジナルなんて、お前もズルいな~。羨ましいよ(――"劉の血潮")」

「魔導解放――"黄金輝く日輪の生誕"」

「熱っ、焼ける! (――"魔纏化・陰影")」

 鏡の世界に、小さな火の玉が生まれる。
 黄金色の火球は、急速に巨大化していき太陽のように世界を照り付けた。
 光が場から影を追い出し、燦々と光だけが存在する空間を生み出す。
 そして鏡にその熱線が反射し、『偽善者』の身を焼き焦がす――ことは無かった。
『偽善者』は無くなったはずの影を生み出して、体に纏ってそれを防いだのだった。

 しかしそれでも、『模倣者』の魔導が尽きるわけでもない。

「魔導解放――"乞い焦がす太陽神の鉄槌"」

「くっ、面倒だな(――"タイダルボア")。あとおまけにもう一つ(――(海魔法)+(氷魔法)="ブリニクル")」

 太陽の光がより一層高まり、『偽善者』の包む影ごと燃やし切ろうとするその瞬間――大量の海水が空間内に溢れ出す。
 鏡の効果もあってか、一度に大海と言っていい程の量がこの場に現れ、耐えきることのできなかった鏡は割れてしまう。
 結界の中に海水は流れていき、二人の周りは水で満たされていた。

 水中で輝く太陽は、それを即座に消し去ろうとするのだが、魔力で生み出された海水は蒸発されることに抗い、『偽善者』の中から延々と生まれ続ける。

 そして、太陽と海が拮抗している間に、海から雷のような物が生み出された。
 それは海中を渦巻き、周囲を強力な冷気で凍らせていく。
 当然海に接触してしまった太陽もまた、その死の氷柱とも呼べるものに触れてしまう。

 太陽。
 近付くもの全てを消し炭に変えるその権化は、膨大な量の水と氷柱に負けて、この場から消滅していった。



 どちらも環境の変化に耐性のある者たちなので、水中だろうとそのまま会話が行える。

「……ハァ、ハァ。面倒、面倒、面倒だ! 一々厄介ごとばっかり試しやがって!」

「――複数の魔導への対処、記録。残存魔力量……九割。真の『模倣者』、早く本気を出すことを要求する。武器を入れ替えた時点で本気の証明は終わっていた」

「……この状態の俺の本気だよ、これが。それ以上は枷を外さないと無理だ」

「ならば、それを要求する。本気の闘いがワタシに求められた使命なのだから」

「そういうことはせめて、俺に膝でも突かせてから言ってくれよ」

「……理解。無理矢理にでも使わせる」

「失敗すると思うけどなー。俺のコピーじゃあ、誰にも勝てないんだからさ」

 そう言った『偽善者』は、少し嬉しそうに口角を上げていた。


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