AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と赤色の世界 その16



「んじゃあ、行くか――カグ」

[うん]


 え? カグって誰か?
 おいおい、少女のことに決まっているじゃないか。
 こんなパターン勝手に命名は、既にチャルの時に経験済みだろ?


 少女の選択は何故かアレであったが、結局はいつも通りになった。
 その後名前に関する話をすると、何故か俺の方ばっかり指を指してくるのだ。

 今回ばかりは絵を描いてもらっても意味が分からなかったので、[スキル共有]を使い、先程の俺のように文字で説明してもらった。

 そして、その結果が先の名前である。
 うん、『カグツチ』だから『カグ』なんだよな。
 この『カグ』ってかぐや姫の『輝』と同じ意味らしいぞ。意味は光り輝くだな。
 実際の用法は異なるが……それでも炎を操る少女に相応しい名前だったし、何より俺の勘が考えるな感じろと伝えてきたので、これにした。

 ま、そんなワケでスキルが共有された時点で分かるとは思うが……眷属増えました。
 誰もがいや、分かってるからと言わんばかりの展開なのだが、俺としてはビックリだからな。

 折角全力で(神氣)を注ぎ、少女が前向きに生きれるように仕掛けを用意していたというのに、まさかの俺の元へ来る√を選ぶとは。
 やっぱり、これが『導士』の力ってヤツなのか? 運命怖ッ!
 そもそも複数の導士を持っているから、少女がどれに導かれるか……なんて全く分からないのだが、俺の導士としてのラインナップはヤバい系ばっかりなんだよな。闇だったり快楽だったり、転生だったり反逆だったり。

 ……なんともツッコミに困るものばかりだよな。
 コピーできた導士なら、もっとマシなものが多いんだけど。


 物凄く話が逸れた気がするから、無理矢理軌道修正をしよう。
 そんなこんなで少女はこれから『カグ』と名乗り、俺や眷属と共に生きることになる。
 ……あぁ、どうして【言の葉】で喋らないかって質問もあるか?

 カグはさ、現在精神的な失声症なんだよ。
 急に重い話になるのは御免だが、別に商人さんと違って呪い(笑)ってワケでもないってことだけは先に言っておこう。


「――ま、とりあえず行ってみようか」

[うん]


 五十音は教えたが、あんまり難しい言葉まで教える才能は俺には無い。
 そのため、今のカグは[YES]か[NO]の二択的な言葉しか書くことができない。
 【言の葉】は一応言語チート系なスキルだから、最低限の言語に関する知識が無いと使えない(だから、カグは長文はできない)。
 そこら辺は、いづれ頭脳派な眷属に仕込んでもらおっかな?

 毎度御馴染の{夢現空間}を開き、俺とカグはこの場から去った。


「あ、なんか忘れてるような……俺って、{夢現記憶}の保持者なんだけどな」

[ん]

「いや、大丈夫。忘れるってことは、別に今必要なことじゃないってことだろうしさ。それより今は、カグをみんなに紹介したいんだよ。さ、早く行こうぜ」

[うん]


 この時、俺はすっかり忘れていた。
 自分が扉の中に入る前に行った所業の数々と、それによってできたとある縁を……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


夢現空間 玄関


 今更だが、普通の家に例えると、俺の外出方法は異常だったな。
 某ライオンが開闢した国に向かった少年少女たちが、クローゼットからでは無く、何故か普通に玄関から帰って来るようなものなのだから。


「……はい、すいませんでした。お供も誰も付けずに一人でフラフラと」

『どうして……どうしてわれを連れて行かなかったのだ!? われだってあの世界を探検することを楽しみにしていたのだ!』

「いや、あの……なんとなく?」

『疑問符を付けるな!』


 と、言うワケでお説教中です。
 今回俺を叱る権利を手に入れたのは、邪神少女リオンちゃんだ。

 俺がお説教を受けても反省しないことは、とある猫耳の剣士により判明している。
 そのため、この時間はあくまで俺と眷属との交流の場でしかない……まぁ、形骸化してしまったとも言うがな。

 俺がやらかした事件によって、最も被害を被った(?)眷属が、大体この時間に俺へお説教をすることになっている。

 どうしてだろうな、俺としてはただただ偽善活動をしたいだけなのに、毎度毎度なんだかややこしいことになっていくんだよ。
 嗚呼、せめて【拈華微笑】が機能してくれたならば……。

 リーに頼んでLvだけは無理矢理上げたのだが、効果が全く見えないので諦めた。
 やれやれ、俺の真意に気付いてくれる奴はいないのだろうか。

 あ、カグは既に眷属たちに可愛がられているだろうよ。
 丁度そんな音声が、<八感知覚>で耳に入って来るし。

 お説教部屋となっている玄関には、俺とリオン――そしてガーがいる。
 まぁ、ガーも当事者だしな。
 選ばれた者が許可すれば、他の者も混ざって来ると言っていたな、そういえば。
 そんな機会はあんまり無く、基本1on1が多かったからすっかり忘れていたよ。


『ガー、ガーも何か言ってやるのだ!』


 おっと、どうやらお説教にガーも参戦するようだな。……俺、苦手なんだよな。


『メルス様、反省はしてませんよね?』

「……してます」

『いいえ、間違いなくしていません。メルス様は確かに、一人で向かいましたが……それで、あの娘が救われたのですね? 映像でしか見ることはできませんでしたし、少し不鮮明な部分もありました。ですが、これからもメルス様が、私たちでは想像もできないような方法で人々を救う……それだけは分かっていますから』

「…………」


 そう、妙に俺を上げてくるから悶死しそうになるんだよ! 
 そういうのあんまり慣れられないから。
 どんだけ言われようと、結局恥ずかしいと感じちゃうタイプだから!


『いいのですよ、私もリオンも……それに他のみんなだってそれは知っています。もっと胸を張って頂いてもいいのですよ?』

「止めて! 分かった、分かったからさ!」


 これは心に堪える威力だ。
 さすがに反省せざる負えない……暫くは。


『……なんなのだ、われがとても子供だったように感じられてしまうのだ』


 あ、うん。そこは本当にそうだと思うぞ。
 ティルがいないのを良いことに、リオンのことを内心でそう思って愛で続け、ガーによる精神攻撃褒め言葉の嵐を乗り越えていった。



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