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山田 武

偽善者と赤色の世界 その05



 さて、皆様に尋ねたいことがあります。

 ――(竜殺し)というスキルを覚えておいででしょうか?

 戦闘中に自分が倒した最も強い竜のステータスの一部が加算される、という何だかチートの香りが漂うスキルでした。

 そんなスキルもまた、あの島での経験からか正真正銘の化物チートへと変貌してしまいます。
 ……今は【魔者殺し】というスキルになって消滅してしまったのですが、生憎:開放:というこれまた埒外チートによっていつでも使えますのでご安心を。

 特殊スキル(劉殺し)。
 それこそが、俺を対劉兵器として昇華させてしまう恐ろしいスキルチートの名である。

◆   □   ◆   □   ◆


「おやおや? 何やら温い風が吹いてきましたねー。今年の春一番でしょうか?」


 目の前には、口を広げた聖炎龍がいる。
 まぁ、つまり温かい風は聖炎龍さんの息吹というワケだよ。
 "滅劉結界"を使用したら、本当に炎が飛んで来ないとは……。


『……化物か、お前は』


 おや? なんだか俺を恐ろしいものを見た時のような目で見ているぞ。
 俺自体、特にカリスマも才能も力も無いんだけどなー。
 能力値なんて、実際は0と1だけだしな。


「いえいえ、私はただの偽善者ですよ。自分のやりたいように行動をするだけの。今回は偶々、それが封印を解除したいということになっただけですしね」

『それで! この世界の者全てが死に絶えるとしてもか!!』


 聖炎龍は俺に怒鳴りつけるように叫ぶ。

 うーん、心に染みるねー。
 というか、そんなに凄い奴が封印されているのかよ。
 さぞかし、救い甲斐のありそうな奴なんだろうな。


「やらぬ善よりやる偽善。素晴らしい言葉ですよね? 救われぬ者に手を差し伸べることのその偽善っぷりときたら……封印されている者もまた、救われるべき者なのですよ」

『狂っている……お前はやはり、化物だ』

「おや? お気に召さないと。たった一人の存在を犠牲に、世界が平和になったとでも? 申し訳ありませんが、私はそういった犠牲はあまり好まないのですよ。1を捨てて99が生き残る? いやはや、なんとその捨てられた1が救われないことでしょうか。例え当人がその選択を望もうが望まなかろうが、勝手に手を差し伸べる。それこそが――偽善ですので」


 力を持つ者には義務が生じる……的なことでは無いのだが、折角眷属から借りれた力があるんだ。
 せめて彼女たちと共に歩む為に、使ってみようではないか。
 そう、どこかの聖人の魔法名のように――


「救われぬ者に救いの手を……でしたか。とある場所では、そうした考え方を持つ者もいるのですよ? 何故ここが封印されているかは分かりませんが、せめて一人ぐらい、そうした考えを持つ者はいなかったのですか?」

『生きているだけで埒外な力を放つ者に、誰も救いの手など差し伸べぬ。お前も分かっているのだろう。封印された今でも流れでるこの力が、世界に住む魔物達を活性化させているということは。このままではいずれ封印は解け、彼の者は世界へ解き放たれるだろう。
 だからこそ少しでも時間を稼ぎ、彼の者に終わりを与える救世主を待っているのだ!』


 死もまた、終わりを告げる幸せだと言うのかこの龍は。
 確かに、苦しい生き方をしていたうちの強者たちなら、それも理解できたのかも知れないな。
 だけど……。


「そうですか……ではその終わり、私が下して差し上げましょうか? 貴方方に任せていては、私の望む未来は恐らく訪れないでしょうし。それならば、自分自身でその未来を勝ち取ることもまた、大切なことでしょう」


 今までは完全に素手の状態で聖炎龍との対話をしていたが……うん、そろそろ限界みたいだな。
 (未来視)で視えた未来でも、最適解はこれしかなさそうだし。


「二つ、賭けをしてみませんか?」

『……賭けだと?』


 燻し気な目でこちらを見てくる聖炎龍。
 実はこのお方、裏で色々と準備をしている働き者なんですよ。
 のんびりゆっくりやっていると、いづれ封印を解除することもできずに追い出されてしまうかも知れない。
 そうならないように、先に布石を置いておくというワケだな。


「――と、言うワケですのでまずはそのお仕事全て……一旦止めてもらえますか? 交渉中は何もしないでほしいタイプなんですよ、私は(――"魔素停止空間")」

『クッ……』


 ついでにデッカイ結界を張って~と。
 これでここは幽世の世界に移り変わった。


「私が求める要求は二つ、――貴方本体の不干渉と私への従属です。これ以上絡まれないように、と怯える者からの些細な願いです。
 その為に私は、武力の証明と貴方の言う彼の者への対処をお見せしましょう。
 あ、貴方も要求を二つ出していいですよ」

『……ならば、私からは彼の者の抹殺とお前が代わりに封印されることを要求する。お前のような危険な存在は、永遠に昏い闇の中にいた方が人間達の為になる』

「これはまた手厳しいですね。……いえ、互いの要求は成立しましたし、賭けは正当な契約として成り立ちます。貴方という分体が消滅した瞬間、武力が証明できたと言うことで宜しいでしょうか?」

『良いだろう。この体は作り物でも、あくまで意思は本体の物だ。お前の契約はしっかりと成立できる。
 ……一瞬でひねりつぶしてやろう』


 何だか唸り声を上げている聖炎龍だが……あんまり容赦はできないかな?


「実はですね、私という人間自体はあまり賢くはできていないんですよ。ですので、貴方のように正し過ぎることを言う方を見ると――体の底から腹が立つんだよ!!」

『グガァ――――』


 湧き上がる【憤怒】の勢いのままに、聖炎龍へと一撃を放つ。
 そんな俺の怒りを受け止めた魔武具"救世の籠手"は、エネルギーの塊でしか無い聖炎龍の分体を一瞬で消し飛ばした。


「……これで、第一の契約は成立だ」



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