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山田 武

偽善者と赤色の世界 その01



 赤色の世界

 再びやって来たその世界は、相も変わらず紅蓮の業火が辺り一面に広がっていた。


「暑いのはどうとでもなるし熱いのもどうとでもなる。だけど、心の篤さやるきだけはどうにもならないな」


 有り余る魔力で身を包み冷却飲料を飲むことで炎に関しては対処可能だ。
 しかし、俺の体の中で燻ることもしない冷めきった炎に関してはどうしようもない。
 扉を開いてやって来たのは良いものの、暇潰し感覚でしか無いこの冷めた感じ。
 ……異世界に来たって気がしないよな。

 まあ、日帰り異世界記が人気になってたこともあったしすぐに帰っても大丈夫か。

 この世界の地図がある程度完成しており人と国が存在することが判明した。
 人がいるということは必ず困っている人がいるということであり、それ即ち偽善者のいる所! というわけで遊びに来たのである。


「やっぱり、誰か連れて来た方が良かったのかな? いやでも、異文化交流はまず独りで行うのがボッチ転移の義務だし」


 前回共にこの場所に来たガーとリオン、二人とも別々の仕事を行っていたので今回は俺独りということになった。

 さぁ、この世界の説明だ。
 仮名『赤色の世界』は、面積の七割を炎の海に持っていかれた世界である。
 人々が住むのは残った三割の部分な辺りは地球とだいたい同じようなものだな。

 ただ、大きさは地球よりもだいぶ小さい。
 違いはもちろん、海が炎であるということだぞ。詳しいことは観測できなかったが、この世界にも魔物は存在しており陸と海の両方で生息している。
 人々もまた灼熱への耐性を獲得して結局は地球と似たような生活を行っている(つまり、漁業もできているということだ)。

 だが、地球の人間が深海に生息できないのと同様にこちらの世界の者にも生息できない場所がある。
 あまりの熱気にドローンが熔けてしまってそのまま壊れる……なんて場所も存在する。
 その周囲には人間が全く存在せず、魔物達の楽園と化していた──魔物は凄いよな、そういう危険地でも住めるんだから。

 まあ、そんな世界だ。
 魔王がいるならそんな危険な場所にいそうだな。いきなりそこを観光してみるのも面白そうだしゆっくりと諸国を巡るのもわくわくするよ……普段の俺のテンションならな。

 正直、今はただ寝ていたいよ。
 しかし、この世界は蒸し暑いから寝るのには向かない。

 ……うーん、どうすれば良いのかなー。
 <箱庭造り>で弄っても、この世界だと炎と地面関係のこと以外はすぐに戻されそうだ。


「ま、とりあえず移動してみるか」


『パーティエンスブーツ』――通称忍耐の靴で空を歩き、この世界での放浪を始まる。
 ……ハーレムメンバー、いないかなー。



 この世界でのファーストコンタクト、それは人ではなく――


『コイツ、ウマソウ』

 ??? Lv20
 魔物? アクティブ
 地上 格下

 魔物だった。
 見た目は赤いゴブリンだ、少々逞しいのでホブゴブリン級か? (鑑定眼)を使っても視づらいんだが、これはたぶん……異世界だからだな。
 そもそも下地となる情報が少ないのが原因だろう。だから魔物にも保険に『?』が付いている、そう思えばなんとなく理解できた。

 しかし、いきなり餌扱いか。
 基本的に知性の足りない魔物は常時腹を空かせているからな。どれだけ食べても腹は満ちず、何度でも何度でも食料を求めて人々を襲う。

 魔物の神がいたら訊いてみたいものだ。
 ――どうしてそういう風に創ったんだと。


 閑話休題かごにあったっけ?


 今の俺は地面に足を着けている。
 (空歩)で移動中に<八感知覚>が見つけてくれたので早速対話を、と思った結果がこれであったよ。

 おっと、お腹を空かせたゴブリンが俺を見ていたな――対処しなければ。


「えっと、初めま――」

『飯飯飯飯飯飯飯飯飯飯ーーーッ!』

「して、そしてさようなら(――"抜刀")」


 手を手刀の形にして襲い掛かるゴブリンを一閃する。
 すると、ゴブリンは何の抵抗も無くあっさりと頭と体が分かれていく。
 ……うん、血も付いてない。
 完璧な居合斬りと言えるんじゃないか?

『ヤンデレ包丁』を突き刺して解体すると、『???の○○』シリーズとスキル結晶がドロップする(◯◯は爪とか牙とか皮だ)。
 ここから分かることは、分からない魔物の素材の名前は表示されないこととこの世界にもスキルの概念があるということだな。

 うーん、さすがファンタジー。俺の期待を裏切らないぜ。

 <八感知覚>によると――今のははぐれのゴブリンで周囲に他の魔物の存在は確認できないとのことだ。
 いきなり魔物が一匹だけ出てくるっていうのもなんだかご都合主義みたいだな。
 群れで出てこいよ、群れで。

 金が無いから売れる魔物の素材が欲しい、今の俺はそう思っている。
 本当に困ったら偽装でも隠形でもして入国するが、基本的には普通に入りたいしな。


「はー、せめて知的生命体に会いたい」


 この場合の知的生命体とは、俺と対話できれば何でも良いということになる。
 超越スキル:言之葉:の力で対話をすることは容易いので、本当に知性インテリジェンスがあればどんな種族でも良いんだ。

 そんなことを考えながら熱気を帯びた大地の上を歩いていった。



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