AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と赤色の世界
???
「……よし、帰ろうか」
「早いのだ!」
扉の先で待っていたのは灼熱の熱気と紅蓮の焔であった。
崖の上からそんな探検する気が0になりそうな光景を眺め――帰還することを選択したのだ。
「クーラードリンクは無いのですか?」
「いや、あるけどさー。現在進行形で(耐暑)がレベルアップしているここに居たくないんだよなー」
「そうですか……では、帰りましょうか」
「ガーまで帰るのだ!?」
先ほどからリオンがツッコんでいるが……暑くて思考が回らないってことでスルーだ。
太陽のプロミネンスのように炎が噴出してよりいっそう熱さと暑さを示している……嗚呼、もう無理だ。
「ほら、帰るぞ! (――“次元渡り”)」
「……分かったのだ」「了解しました」
背後に再び扉が展開されて俺たちは元の場所へと帰還する。
……これが、俺の初めての異世界旅行記であった(完)。
◆ □ ◆ □ ◆
夢現空間 図書室
「んー、何にもないな~」
翌日の俺は、巨大な地図を描いている。
昨日向かった異世界にいくつかの衛星を飛ばしておいた。
俺の見た場所はたしかに炎だらけであったが、世界のどこかでは人が住んで居るのかもしれない。
そこで科学チートである衛星を使って上空から世界を把握しようというわけだ。
「――これが異世界の地図なのか」
「お、ネロも気になるのか? お前って、結構大陸を巡ってたよな」
すると、地図を書いていた俺の元へ、何故かネロがふらりとやってきた。
……最近、精神汚染系の本置いたっけ?
元骨だとは思えない肢体を俺に当てつつ、地図を覗き込んでくる。
「異世界と言えば、異なる世界――つまり、この世界とは別の理が働いているのだろう。吾も知識欲はあるからな、ぜひ教養を深めたいものだ」
「へえ~。そういうものなのか。……そういえば、俺の魂魄って今どうなってるんだ? 前に一度訊いてから、だいぶ時間が経過してるんたが……」
忘れた奴もいるだろうし、説明しよう。
ネロは自分の魂魄――星辰体の強化を図るためにいろいろとマッドなサイエンスを行い続けていたのだ。
そんな実験を繰り返すある日、どこからか偽善者がやってきた。
そして、闘争の果てに……ネロはその偽善者と契約をしたというわけだ。
その内容こそ──眷属化。
俺の持つ[個有]スキルを介し、ネロの望むものを提供するというものであった。
だが、そこに仕掛けられた複数の罠に掛かり……ネロはいろいろと大変な目にあったのである。
うん、全然纏まってないや。
元々骨だったのに今では艶めかしい女性になっていたり……そこら辺の説明はどうでも良いか。
ネロには一つの『眼』がある。
他者の魂の強さを輝きとして視覚することができる(魂魄眼)が。
俺が闘うことになった原因に一役買っているその眼で、今回も俺の魂魄を見てもらったのだが――。
「メルスの輝きは、もう視えないな」
「……へ、どういうこと?」
称号の効果でたまに質とか格がが上がるとか書いてあったしな~。
そういうことなのか?
――って、思っていた頃もありました。
「今となってははっきり分かる。メルスの周りの者の魂魄が、メルスの魂魄を包み込んでいるのだ。彼女たちは一人一人が異なる色彩で、とても強大な輝きを放っている……吾も含めてな。メルスを包む輝きはその一部ではあるが、明らかにメルス以上の輝きを放っているのだ」
「……つまり?」
「メルスの輝きが映画のスクリーンとやらにくっついた、小蠅のような扱いになっているわけだ」
「アァ――ッ!」
現実を受け止められない……わけではないが、心が擦り減りそうだったので叫んで誤魔化す。
なんで映画のスクリーン? それってめっちゃデカいやん!
なんでそこの小蠅? それ気にならないぐらいに小さいじゃん!!
というか、なんで小蠅に例えたの?
せめて人間サイズにしてくれよ!
「俺、本当に厄災になれるような奴だったのかよ。自分の眷属の魂の欠片に存在力が負けるってどんだけモブなんだよ。……ああ、そうさ、俺はモブなんだよ。それなのに、どうしてこんな立場に就いてるんだろうなー。もう、俺なんかいなくても、俺の代わりなんていくらでも居るだろうし、俺じゃなくても俺の代わりはできるだろうし……ネロ、俺の代わりにシーバラス倒してこないか? 大丈夫さ、今のお前は聖属性も使える魔王だ。きっと倒せるよ」
「メルス……。それは主人公がやることだと言っていたではないか。魔王である吾がやろうと意味がないとも」
「いや、もうネロ独りでも倒せるんじゃないか? ほら、俺みたいなクソ雑魚をとっくに倒してるんだしさ。雑魚をボス役に仕立て上げようとしている神なんて、きっと物理攻撃でワンパンチさ! ……ハハッ、世の中みんな一人一人が主人公だって言うんだしさ、もう誰がやろうと変わらないだろう……俺以外ならな!」
うん、冷静な思考が伝えているよ。
――今の俺、めっちゃ面倒だって。
それでもさ、たまには俺も愚痴ったって良いじゃないか。俺の価値なんて眷属が創れるだけのマッシーンだろ?
……みんなに怒られるから実際にはあんまりそう思わないけど。
今まではそれでも世界最強になれるような戦闘力があったから問題なかったよ?
でもさ、今の俺はただの負け犬。
唯一の取り柄なんてこれまでに手に入れたチート擬きなだけの──桜桃だろ?
貞操を眷属に捧げる気はまだないし、狙われたら必死に逃げるし……本当に俺って駄目な奴だな。
「ネロー、甘やかしてくれよー。さっきのセリフの大半は自分の中で解決してるから、この地図を描き終えたら……さ?」
なんかもう、人間のクズに成り下がっている気もするが眷属がそれで構わないとか言い出してるからもう気にしない。
――負け犬に、反論する資格は無かったんだよ。
ヤれと言われたなら全力で否定するが、もう大半のことは俺の気分次第でやっている。
もう倫理なんて知るか! そもそもハーレム自体が倫理から外れてるんだよ!
「…………う、うむ」
「よっしゃー! 一気に描き上げるぞー!  ……ま、衛星のスピードは変わらないし、ネロは俺の隣に居てくれよ」
肩を抱いてネロを隣りに座らせる。
嫌がるような素振りはせず、むしろ真っ白な肌を紅潮させていた。
そんなネロの姿に俺も心が癒され、今日という日を全て、ネロとの触れ合いに費やすことになりましたとさ。
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