AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と加入



 さて、良い子のみんな、元気かな?
 俺、メルスは元気だよ~。
 召喚の魔方陣に乗って移動した先は、泥だらけのダンジョン。

 少女の願いを叶えるために狼と戦い、女の子を蹴り飛ばし、剣になったりしたよ。

 そして、依頼も無事完了。
 元の場所に帰ろうとした俺に、悲劇が訪れたんだ――。


「あれ? 魔方陣が機能しない……」


 一度剣から元の妖女(誤字に非ず)モードに戻り、解析系の能力で現状を把握する。
 召喚時に体にリミットをかけたせいで少々心許無いが、理由ぐらいなら分かるかな?


「……ぉ」


 ……ふむふむ、これは俺のミスだな。

 俺の召喚は結晶を割るだけで行われる。
 その際の状態を半恒久化することで、封印されていない能力を偽装したりする予定だったんだが……元に戻る際に、俺を俺だと認識する機能をしっかりさせてなかったや。


「……ぉ、……-ん?」


 魔方陣を使えるのは俺であって、妖女のメルではない。
 平時のモブキャラにしか使えないものを、プリティなメルには使えないんだよ。
 ……うん、自分で言ってて悲しくなるが、メルが可愛いのは眷属公認らしいから。


「あのぉ、メルちゃん?」

「――ん? どうしたの、ますたー」

「いえ、突然メルちゃんが悩みだしたので、どうしたのかなーと思いまして」


 俺が一時期ともに旅(?)をしていた少女、クラーレがそう言う。
 ……うん、少々の罪悪感を感じてはいるんだよ。気持ち悪い男を、握り締めさせていたことにはさ。
 あ、俺がメルに変身したこと自体には特に何も思わないぞ。
 羞恥心は……捨て(させ)られたからな。


「ますたー、しばらくいっしょに居ても良いかな?」

「え? ノゾムさんの所に戻るんじゃないんですか?」

「うーん……理由は分からないけど、戻れなくなっちゃったから……お願い!」

「……少し、みんなと相談してきますね」


 クラーレはそう言って、仲間達の元へと向かっていった。

 にしても、今の俺がやることかー。
【固有】能力の侵蝕に関しては本当のことだし、彼女たちに寄生して【固有】持ちを探すのも面白そうだよなー。
 あ、『ユニーク』の奴らは既に折れてるから問題なしだぞ。

【固有】スキルにそんな効果がある……プレイヤーがこれを知ったら、運営へのクレームも大量に送られるんだろうなー。

 運営自体は、その件に関してほとんど干渉できないからそれはお門違いなんだけど。
 プレイヤーに担当部署へクレームをつけられる奴なんて、そうそういないからそこは忘れておこう。

 俺のスキルは眷属たちの完全バックアップによって、パーフェクトな処理が施されております故、持ち主に害は一切ありません……ごく一部を除いては。

 {感情}はどういうわけか何にも分かっていないので、眷属たちでもどうしようもないと今は・・言っている。
 ――俺に、悪影響の無い効果であることを祈るのみだな。

 おっと、クラーレが戻って来た。


「メルちゃん、少し訊いても良いですか?」

「うん。内容にもよるけど、ますたーの質問ならだいたい答えるよ」


 あ、別に俺が彼女をますたーと呼ぶことに特に理由はない。
 ただ、召喚さよばれれたからにはそう言うのがお決まりって感じがしたからな?
 暗殺者系の用事だったら、『お母さん』でも別に良かったんだが……未婚の少女に、さすがにそのセリフはな。

 質問にだって、今の演技中の俺ならばどんなことであろうとも、大体答えられる。
 全ては俺の気分次第であったのだ。


「えっと、メルちゃんは召喚獣のような存在なんですよね?」

「うん、広義的にはね」

「ということは、メルちゃんはこちら側の――つまり、自由民なんですか?」


 自由民とは、NPCのことだが……俺自体は一応プレイヤー。
 だけどそれを剥奪されかけてるし……どう答えればいいんだ?


「……私は、プレイヤーによって創られた存在だよ。知識もその人から継いでいるから沢山のことを知っているし、みんなとの会話もできる。うーん……要するに、お助け自由民みたいな感じかな?」

「お助け……ですか?」

「うん! ますたーの願い事を訊いて行動するお助けだよ。ただ……終わったけど帰れなくなっちゃったし、もう少しますたーたちといっしょに居ようかなーってね?」

「そ、そうなんですか……」


 ま、[スキル共有]で魔法を借りれば即座に帰還できるんだがな。
 今の俺には魔法系統のスキルが全く存在せず、今までの行いも、ほとんど物理的に起こして来た。
 まあ、<箱庭造り>さえあればどうにかなると思ってたからな。

 とりあえず、俺についてはもう自由民NPC扱いで良いかな? と思えてきた。
 ……うん、細かいこと考えるの面倒だし、プレイヤーみたいなことができない存在、とだけ理解してくれれば充分だ。



 それから、もう少し掘り下げた質問をいくつかされた。
 あの結晶は何なのか? とか、俺みたいな存在は他にもいるのか? とかな。

 別に答えても構わない部分はある程度、そうでない部分もそれなりに答えて――ついに質問は最後となった。


「それじゃあ、最後の質問ですよ。
 メルちゃんはわたしたちと……友達になってくれますか?」

「うーん……なっていいの? というより、ますたーのこれって質問なの?」

「わたしにとっては、これが一番重要な質問ですよ」


 いや、俺にはそう思えないんだけどなー。
 確かに答え辛い問いではあるが……。


「……ますたー、答えが分かっていることは質問にならないんだよ。
 私もますたーたちとお友達になりたい」

「メルちゃん!」


 ブワッと涙を流して、こちらに駆け寄って来るクラーレ。
 他の人たちも、なんだか『ええ話や~』みたいな目でこっちを見てくる。

 止めて! そんな純粋な瞳でこっちを見ないで! 俺の汚れた心が、全て浄化されていく! ……ってことはないか。

 そして、俺の転属先が決まったとさ。



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