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山田 武

偽善者と『白銀夜龍』 その04



『では、先手はお主に譲ろう。儂の守りを砕けるか……お手並み拝見じゃ』

「そりゃあありがたい。……なら、早速!」


 いくつかのスキル、魔法、称号の効果を相乗させ、威力を高めて――放つ。

("屠龍之技・槍雷")

 指輪として仕込んでいた『模倣玉』を槍へと変え、銀龍へと投げつける。

 グワァキィィィイン!!

 槍が銀龍の鱗に当たる直前で、金属同士が高速でぶつかった時に生じるような音が、空間内に鳴り響く。

 ビキビキピキッ――バリンッ

 少しの間拮抗をしていたが、雷の力で加速した槍が勝利し、何かを打ち破る。
 そして、その勢いのままに銀龍の鱗へと到達する……が――

 ガキンッ

「マジかよ……」

『……ふむ。儂の鱗に届くとは、なかなかやるではないか。それに……微々たるものではあるが、確かに傷ついておる。合格じゃ』

「そんなの、一瞬で修復したじゃないか。合格って言わねぇよ」


 鱗に一瞬で弾き返され、俺の手元へと槍は帰還する。
 ……いちおう、北欧神話の主神が持っていたとされる神器なんだけどなぁ。
 その魔力を以って砕けぬ鎧は無い、とか記されていたんだけど……駄目じゃん。


『では、儂からも行かせてもらおうかのう』


 その一言と共に、銀龍の放つ威圧感が更に高まっていく。
 ……というか、今まで座ってたんだな。
 ただでさえ高さが高層ビル級だったというのに……大阪一高い高層ビルぐらいはあるんじゃないか?

 なんて、意味のない思考をしている最中にも、銀龍は威圧感をさらに高めていた。


「……来い(――"水龍流し")」


 武器を金箍棒へと変更し、それを肩に担ぐ独特の構えで銀龍の攻撃を待つ。
 ピクッと銀龍の体が動いたかと思うと――

 ガキィイインッ!!

『……うむ、その対応も良しじゃ。正面から迎え撃とうとしたならば、いかに神器とも言えど折れておったぞ』

「耐久度∞を折るのかよ……」


 それは、一瞬の出来事だった。
 高速……いや、光速で俺の元にやって来た銀龍は、その勢いのままに爪を振るった。
 その速さは音速の域を超え、爪の周りに凄まじい衝撃波が発生するほどである。

 俺はそれを、真っ向から受けるのではなく――受け流した。
『水龍流し』はカウンター用の武技。
 攻撃のベクトルを正しく読み取ってそこへ武器を当て、あとは水が流れるように勢いを受け流すだけだ。

 (未来視)などの補助を受け、どうとかその残像を見つけだし、その攻撃へと対処した。
 が、その一撃は強く重く、今までで最も俺の体を痺れさせる攻撃であった。

 そして、それもまだ銀龍の本気ではない。
 銀龍で本気であったならば、今の攻防で既に神器って壊されてたんじゃないか?
 セリフからして、その気になればできるって感じだしな。

 それでも、闘いはまだまだ続く。


「銀龍、俺に遠慮して単発の攻撃ばっかりしなくてもいいんだぞ。――これは闘いなんだしな。好きなだけ攻撃してくれよ」

『お主……ふむ、良いだろう。じゃが、直ぐにくたばってくれるなよ』


 <物質再成>と<久遠回路>を使い体の調子を元に戻し、再び銀龍と闘っていく。
 ……さぁ、生きて帰ろうか。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 メルスと銀龍の闘いは、激化の一途を辿っていた。
 銀龍が爪、翼、尾、牙、息吹を使ってメルスを追い立て、それにメルスが『模倣玉』を変幻自在に作り変えて抗う。
 時には魔法を織り交ぜて闘おうとするメルスだが、今まで放った全てが銀龍の障壁を通過できずに消滅していく。

 銀龍は持ち前の無尽蔵な力を、メルスは眷属たちの肉体改造かほごによる無限の供給にあやかり、激しいぶつかり合いを延々と行っていく。

 だが、それらは銀龍が有利のまま行われていた。
 メルスの攻撃は銀龍の鱗を少々傷付ける程度であるが、銀龍の一撃はメルスの体へと深刻なダメージを与え続ける。
 その衝撃は<物質再成>ですぐに元に戻されるのであるが、それも一瞬という時間を生みだしてしまう。

 銀龍はその無限とも言えるような一瞬を突き、何度もメルスへとダメージを与え続けていく。
 (未来視)や(予知眼)、(龍眼)や(天魔眼)といった能力を発動してどうにか対応していくが、それでも攻撃が分かるだけであり、効果的な対策が行えているわけではない。

 メルスは再び武器を変えて銀龍へと突貫していく。
 今回持つ武器は雷の力を纏った槌。
 激しい熱を帯びた柄の短いその槌を、メルスは武技を発動させて投げつける。

(――"屠龍之技・廻穿岩槌")

 荒れ狂う雷、燃え滾る炎熱、そして極限まで固められた石の硬さを以って――銀龍へと一撃を放つ。

  ◆   □   ◆   □   ◆


『……む、今のは効いたぞ。体の底まで響く良い一撃であった』

「…………ハァ、どうも」


 全然勝ち目が見つからない。
 色んな策を使用しているんだけど、どうにもなぁ……。
 普通のプレイヤーなら『負けイベント』って言葉を使って諦めるレベルだな。

 まだ(神氣)を籠めた技は使っていないが、どうせジリ貧になるだけだろう。
 アレは消費が激しすぎて厄介だ。
『中級神』になったとしても、銀龍はそれ以上の力を有している。

 まだ使って無い力となると……やっぱりアレなのかな?
 あ、別に主人公みたいな展開にはならないからな。
 事前に用意していただけだし。

 心の中で誰に言うでもなくそう説明してから、思考を目まぐるしいほどに加速させて銀龍へと再び挑んでいく。



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