AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『極塔之主』 その07



 ……と、いうわけで彼女たちのダンジョン攻略が始まったんだが……大半の眷属が攻略に向かってしまったため、解説をしてくれる者がこの場にはいない。
 なので今回は、俺がダイジェストを話していこうかと思っています」

『何言ってんだ? お前』

「おいおい、これを見れば分かるだろ? 撮影だよ、さ・つ・え・い。ちょうど眷属たちのダンジョンバトルは放映中だから、俺が解説を担当するの。……折角だし、いっしょにやるか?」

 自身の周囲に並べた椅子やカメラを示し、そう告げる。
 一人だと寂しいし、このダンジョンの製作者が居ると話が楽だな~、と思い、確認してみると――。


『……やる』

《やられるのですか……》

『いいだろ別に! 俺だって、こういうのを一度くらいやってみてぇって思ってたんだからよ! Tuberとかいるだろ!』

「あ、コアさんもいっしょにやろうよ」

《そうですか? では遠慮なく》

『結局お前もやるのかよ!』


 二人共それを承諾してくれた。
 いやー、実に楽しくなりそうだよ~。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 俺が開始宣言をすると同時に、彼女たちはすぐにダンジョン攻略を始めた。
 単独で攻略をしようと進む者もいれば、グループを組んで攻略を始める者たちもいた。


「と、いうわけで始まりました。第一回『天極の塔』RTA大会。司会は俺、参加者たちの主メルスと――」
『俺、ダンジョンマスターカナタと――』
《ダンジョンコア、コアで――》

「『《お送りいたします》』」

「いや~、完璧に合いましたね~。カナタはともかく、まさかコアさんが乗ってくれるとは思ってもいませんでしたよ~。塔が分かった時点でまさか、とは考えていたんですけどね~。その情報はカナタから?」

《あ、はい。今では対等の知識を有していますよ》

「本来はそこから、カナタの性癖を暴こうという企画もあるのですが……『おいっ!』残念ですが、今回はダンジョンバトルの模様を実況する企画ですので……それはまた、別の機会に『やらせねぇよ!』ちぇ~」


 そうやって会話をしている最中に目立った行動をしている眷属を見つけると、カナタに映像を操作し、ソイツをピックアップして映るようにしてもらう。


「さて、カナタさん。このダンジョンって、一体どれくらいの広さなんですか?」

『…………』

「え? まさかご存じないとか? いやいやいや、ご冗談は止めてくださいよ。……もしかして、本当に?」


 そっぽを向くカナタ。 
 名前の通り、彼方を向いてますね。


《メルスさん、マスターをあまり苛めないで上げてください。マスターは現状へのストレスを発散するためかある日ダンジョンの大規模拡張を行ないました。そして、その日のあまりのはっちゃけぶりからか内容を覚えていないマスターには、現在のダンジョンの広さが分からないのです》

『……ストレス発散だったんだよ』


 ストレス発散でダンジョン改変か。
 俺は基本レンに任せていたし、そういうのはあんまり無かったな。


《ですので、代理でワタシが説明します。
 当ダンジョン『天極の塔』は敷地面積約236万平方km、高さは約700kmを誇っています。ダンジョンは一種の異世界……というより亜空間となっていますので、実際には広さはともかく高さはかなり低くなっているかと思われます……ワタシは外出ができませんので、本当にそうなのかどうかは分かりかねますが》

「ふむふむ、なるほど。外からは偽装されていたと。確かに、うちのダンジョンにも結構デカいのがあるけど……特にクレームが来なかったな。視聴者の皆様ならお分かりいただけますか? 『偽・世界樹の迷宮』を」

『……なんだよ、その人気ゲームのパクリ感満載なダンジョン名は』


 人様の迷宮に口出しをするカナタ。 
 別に良いだろ、世界樹に関する良い名前が浮かばなかったんだから。


「ちゃんと『偽』って付けてるだろ。はい、これで問題なしだ。そろそろ実況に戻るぞ。
 カナタ、そこの画面に映してもらったフードの女、ネロって言うんだが……アレは一体何をやっていると思う?」

『……自分で始めたクセに。まあ、別に良いか。うーん……見た感じ、死霊系の魔法でも使いそうな雰囲気だが……』

《ワタシもそう思います》


 確かにネロの使ってる魔法やスキルって、大体おどろおどろしい感じだよな。


「おう。アイツは【不死魔王】だからな。結構いろいろな死霊系のスキルを持ってるぞ」

『へぇ~、魔王ね~……って、ハアッ!?』

「いや、さっき説明しただろ。骸骨を殴ってイジメて、最終的に眷属にしたって」

『それが魔王だなんて、一言も言ってなかっただろうが! 魔王だぞ魔王! 男の憧れで夢だろ! それをボコボコにした挙句配下にした!? お前、絶対主人公だろうが!!』


 首を揺らすな、首を。
 さっきまでは良かったが、子供たちが見ているんだぞ。


「ハッハッハッ! おいおい、冗談は程々にしてくれよ。俺が、主人公? 無い無い。人生誰しも主人公……的な意味なら、まあ主人公かも知れないが、物語系ともなるとありえないだろ。せいぜい――最初の方で主人公にイチャモンを付ける三下ぐらいが、俺にぴったりな役割なんじゃないか?」

『……ソイツじゃ絶対、魔王は倒せないからな。お前、凄ぇ自分を卑下するな』


 カナタが何か言ってる気がする。
 知らん知らん、俺はモブだ。

 ――人生は元から不平等だ。
 どれだけ自分が頑張ったと思っても……結果に結びつかなければ、それは努力として認められない。
 逆に努力をしなくても、それが結果にさえなっていれば、努力として他者からは認められる。

 主人公ってのは、それが最終的に認められている存在だ。
 だからこそ、彼らの軌跡は物語として語り継がれている。
 俺がやってきたことなんてのは、自費出版の赤字本に当て嵌まる。

 ……アレ? 結局何を言いたかったんだっけか?
 まあ、とにかく俺はモブだ。
 光り輝く主人公様のようにはなれないし、なりたくもない。

 ――家族が一番、それだけで充分だ。


「って、そうじゃない、ネロの話だろ? アイツは今、予想通り死霊系の魔法を使っておるんだが……ここのダンジョンで死んだ奴、ソイツの霊魂が残るのか? いちおうそれを訊きたかったんだよ」

『このダンジョンは、霊魂は残るようにしてあるが……たまに巡回する霊体系の魔物が食べるようにしているぞ。掃除はできるし、魔物は進化する――正に一石二鳥だろ?』

《それに、ここ何百年かはこのダンジョンに挑んだ方はいませんので、恐らく霊魂は残っていないかと》

「う~ん残念! ネロさんは行っていることは無意味だと、本当に思っているのか~!?」

『そうじゃ――』
《ないのですか?》

「いえいえ、それは並大抵の死霊術士での話ですよお二方。では、ネロが一体何をしているのか。その真相は……CMの後!」


 この後、本当にCMを流していたぞ。



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