AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します
偽善者と放映試合 その09
手に持っていた"霧遵"を水晶形態に戻してもらい、再び耳を澄まして周りの音を聴く。
遠くの方で激しい爆発音が聞こえ、他の強者たちが健在であることを示している。
そういえば……色々とアンが言ってたみたいだな。
まあ、ゲーム感覚で最初はやっていたんだけど、王都イベントを通じて意識は変えていたんだよ。
あのとき運営が過去の王都をどうするかを知って、軽く嫌悪感を感じてたしな。
魔物を殺すことに関しては……そもそも{感情}を習得する前――つまりは最初の亜竜戦で、体内に潜って焼肉パーティーをした時に吹っ切ってた気がする。
ま、過去の話はどう思ったって仕方が無いからどうでも良いってのが、今の俺のスタンスだ。
{感情}にどんな秘密が隠されていようが、この世界にどんな謎が収められていようと、俺が何かを止める理由にはならない。
――今はただ、日々を眷属たちと生きたいだけだしな。
「(ドゥル、状況はどうだ?)」
さて、他の所の戦況はどうなったのかな?
そう思い、ドゥルに確認を取る。
《イエス。リュシル嬢の討伐には成功しました……ですが――》
「(シュリュとフィレルは失敗したか)」
《……イエス。フィレル嬢が影に潜り、シュリュ嬢と合流しました》
あちゃ~、その手があったな。
吸血鬼としての高い性能を持つ彼女は、自在に影を渡る能力を持つ。
巨大な壁なんて築けば、それを通じて余裕で通れることを失念していたな。
ちなみに、【影魔法】にも似たような能力はある……が、神鉄鉱で創られた壁の影を通り抜ける性能は無い。
事前に色々と仕込んでおけば可能ではあろうが、突然そんな状況に立たせれると不可能だろう。
さらに、その能力は吸血鬼の中でもかなり上位の存在で無いと使えないため、未だに解析の完了していない因子を使うまでは(高位吸血鬼)の種族スキルを持つ俺でも、影潜りを行うことはできない。
……本当、チートだよな。
「(そうか……なら、ドゥルも俺の補助に回ってくれ。ギー、分裂してくれ)」
《仰せのままに、我が王》
《分かった》
そう伝えると遠くで聞こえていた激しい音が止み、一時の静粛が訪れる。
手の中では水晶が光りながら二つに分裂して、俺は両手に一つずつを持たされる。
そして再びその水晶たちが光り、矛とは異なる形へと姿を変えていく。
「んじゃあ、残りは二人。ちゃっちゃと倒せるか……は分からないけどやってやるか! (――"他力本願・戦闘再現""転移眼")」
再び(転移眼)を使い、彼女たちの居る座標へと移動した。
◆ □ ◆ □ ◆
「リュシルちゃんも防御を必死にやってたんだけど……さすがに幻想を壊してくあの技を何度もやられたら、普通負けちゃうよね。神話や伝説のアイテムをあれだけ破壊できるって、無銘みたいだよ」
「そうですね、逆にそれらを受けてなお余裕がある御二方の方が、少々スペックがおかしいと思われます」
「おっ、メルスが二人の所に転移したね。武器は……双剣かな?」
「相手が二人ですので、手数は多いに越したことはありませんよ。他の武具っ娘たちも補助をしていますので、二本の剣があれば対応できるのでしょう」
「デザインは……オリジナルかな? 虹色と透明の長剣。私は心当たりが無いよ」
「アレの能力の説明はもう少し後にしましょう。二度手間になってしまいそうですし、何よりネタバレになってしまいます」
「あっ、それもそうだね」
◆ □ ◆ □ ◆
「……ねぇ、アレってどういうことなの?」
「アレ、と申しますと? それぞれの死角からこっそりと発動している魔法ですか?」
「……こっそりと言うより、ガッツリに見えるのは気のせいかな。みんな魔法の打ち合いは相殺できてるけど……ってそうじゃないんだよ! フィレルとシュリュさんの攻撃が、未だに一度も通ってないことだよ! いくら武具っ娘たちが補助をしてたとしても、さすがにそれは難しいでしょ!」
「と、申されましても……アレは{他力本願}から考えられた派生能力"戦闘再現"と言うことしか」
「"戦闘再現"? "戦闘経験"じゃなくて?」
「ええ。今までに蓄積した記録から最適な動きを行っていくのが"戦闘経験"。実際に使われた記録を元に、それと同種の行動をなぞって行うのが"戦闘再現"です」
「えっと、つまり?」
「体の動きを無視して、最も速く勝利を生むのが"戦闘経験"。体のことを考慮し、最も効率良く勝利を生むのが"戦闘再現"となりますね。後者には他にも面白い効果があります」
「面白い効果……って、あの動きはっ!!」
「――そして、動きを見てさえいれば、例え創作上のキャラが行って行動であろうとも確実に再現が可能なのです」
「う、うわ~。完全にあの二十七連撃だよ」
「ギー様が再現をなされている剣ですので、最後に折れる心配もありませんね」
「で、でも、アレで倒せるフィレルじゃないよ。ほら、実際二人で弾いてるし」
「確かに、素の状態で振るっていれば弾くことも容易いでしょう。アイリス様、ソードスキルと言えば何があるでしょう」
「……スキルエフェクト」
「はい。と言うわけで発動です」
◆ □ ◆ □ ◆
シュリュとフィレルが消滅していく様子を眺めながら、二本の剣を元有った場所に片付けていく。
やっぱり、ジ●イクリプスは再現するのが大変だ。
苦労して、エフェクトまで【光芒魔法】でやってみたぞ。
『試合終了! メルス様の勝利でした』
『武具っ娘たちがそのまま戦ってたら、結果は変わったのかな?』
『いえ。恐らく終わる時刻が変わるだけで、結果自体は変わらないと思われます』
いや、無理だからな。
流石に色々と足りないものが多いから勝てないだろう。
「(みんな、お疲れ様! あとはゆっくり休んでてくれ)」
《マスター、それなら一緒に風呂でもどうだい?》
「(うぐっ、……メルの状態ならな)」
《わ~い!》
《皆様、一緒に入りましょうか》
「(……お、お手柔らかに)」
この後、アンがカメラを中に持ち込み『ドキッ! 眷属だらけの洗いっこ回』を撮ろうとしたのでカメラを奪い取った。
――絶対に他者に見せてたまるか!
……保存したデータは、ありがたく貰いました。
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