AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者と『吸血龍姫』 その05



 <虚空魔法>――<次元魔法>同様に別世界へと干渉できる魔法だが、この魔法は干渉できる世界が限られている。

『虚空』と呼んでいるその世界には、全てが存在して全てが存在しない――存在が虚ろとでも呼べるものが溢れている(まあ、何も無いけど何かがあるように感じられるって考えてくれれば良い)。

 <虚空魔法>はそんな『虚空』に存在する特殊なエネルギーを扱うことができる。
 のだが、色々な条件が今の俺には必要なためか、その一つでもある属性の合成・集束、それによりできた虚無属性の宝珠を触媒としてを使うことによって、今回の魔法を発動したのだ。

 そう、その名は――


「死ぬなよ――"虚無"」


 <虚空魔法>の初歩中の初歩であり、集めたエネルギーを球状にして放つだけの魔法なのだが……異常に魔力MPを消費する!

 なんでビー玉と同じくらいの大きさを創るだけで、100万も使用するんだよ!
 一秒の維持に1万使うから、全然魔法を維持できないわ! (Lvを上げれば、一応消費する魔力は減るぞ)
 今回は宝珠サイズの"虚無"を発動しなければならなかったので、それ以上だがな!

 一度試した時、暇そうにしていた眷属たちのフルパワーをぶつけてもらったのだが、その全てを当てても相殺されない程に凶悪な力があることが確認された。

 そして、それが今彼女へと襲いかかる。
 勢いはかなり遅く、躱すことも容易くできるが……追尾式となっているため、いつかは必ず当たってしまう(もちろん、体の一部を代償にして消滅させる方法は通用しない)。
 対処方法はただ一つ――壊すこと。


『――ッ! こりゃあ全力を出さないとどうにもならないねぇ』

「当たり前だ。対神を想定した[神代魔法]だぞ? そう易々と防がれたら意味が無い」

『そりゃあ良い。これが壊せればアタイも神が倒せるってわけだね?』

「『神殺し』の俺が認めてやるさ。ソイツは間違えなく神を滅するだけの力があると」


 このとき、冗談半分でこのセリフを言っていた。
 これで倒せると確証できるのは、あくまで昔倒した邪神の欠片だけだ。
 他の神に関するデータなんて無いし……最近殴った俺のコピーぐらいじゃないか? 他に倒せると思える奴なんて。

 だけど、彼女はそんな俺のセリフの背景を知らない。
 溜め始めていたエネルギーを霧散させる程に、動揺をしていた。


『ほ、本当に、倒せるの? ……神を?』

「え? ……あ、ああ、当然だ。フィレルが眷属になるのなら、お前の敵は俺の敵だ。最後にフィレルが何を望むかは知らないが、神への対抗策を貸せることだけは約束しよう」

『……! そ、そうかい。なら余計にやる気が湧いてくるね! 見せてやるよ、アタイの本気ってヤツを!!』


 そう言って彼女は姿を変え、ドラゴンへと変貌していった。

 ただのドラゴンでは無い。
 リュシルが話していた通り、ロマンを感じさせるヴァンパイアドラゴンだ!
 西洋龍をベースにしているが、洗練された艶やかな蝙蝠の翼や緋色の瞳、なんでも貫きそうな犬歯が吸血鬼らしさを強調している。


「(おいリア、アレがロマンだよ! 俺みたいな紛い物じゃない……本当の混血種ってヤツなんだよ!)」

《はいはい、ぼくは君の(異端種化)もカッコイイと思っているよ》

(「何言ってんだリア。あれはゲテモノだぞ、ゲテモノ。クエラムみたいにさ、こう……合成! って感じがするならまだしも、グチョとかベチョとかが似合いそうな俺の姿は……さすがにカッコ良くは無いだろう」)

《もう少し自信を持ってくれよ……そうだ、ならこうしよう。ぼくは君のようなゲテモノが好きなんだ。色々な意味で混沌だらけなのに、秩序の塊とも言えるような君が……大好きなんだ》

「(ちょ、いきなり何言ってるの!? てか、混沌とか秩序って何!?)」


 別に中庸も望んでないよ!?
 あ、でも、そうなら俺の属性って何なんだろうな?
 性格は間違いなく『(偽)善』だろうが。


《どうだい? これで君も、少しは自信が付いたんじゃないか?》

「(え? ちょっと意味が分からない……)」

《…………》


 呆然とされてしまった。
 まぁ、今はロマンなドラゴンのカッコイイシーンだから置いておくとしよう。

 念話をやっている間に、彼女は全身から太陽のような温かい光と血のようなオーラを放ち、体内でエネルギーを蓄えていた。


『――ガァアアッ!』


 溜めたエネルギーを口から息吹ブレスとして解き放つ。
 ドレス同様に紅と漆黒と陽光の色を混ぜた光の柱は、宝珠を呑み込む形で彼方まで飛んでいく……はずだった。


『……ハハッ、冗談じゃないよ。アタイの全力だったんだよ、今の息吹は』


 宝珠は相も変わらず、彼女へゆっくりと向かっている。
 光の柱は宝珠を通過しようとした瞬間に、全てが逆に宝珠へと捻じ曲がって呑み込まれていった。
 ……うん、眷属たちが試した時もそうなったんだよな。
 小さな玉が、世界を終わらせそうな攻撃を全部取り込んでいたんだからビックリさ。

 その後、禁呪指定によって封印されそうになったけどな(そっちはどうにか防いだが、それでも模擬戦時は封印となった)。


 彼女は諦めたように人の姿へと戻り、ただ立ち尽くした状態になる。
 彼女レベルともなると、どれだけ粘ろうと死の運命からは免れないと悟ってしまうのだろう。
 足掻くより大人しく受け入れる……それが一番だと。

 ――諦めるのが早過ぎるだろうに。


「……言ったよな俺は、死ぬなよってさ。お前には俺の眷属になってもらいたいんだよ。一緒に生きてほしいんだよ。一度破壊できないからって諦めるようじゃ、神を殺すなんて夢のまた夢だろうよ」

『…………』

「こういう時、主人公ってのは土壇場で覚醒して編み出した技を制御できないって展開になるらしいけど、モブがそうなったら絶対に失敗するって分かるからな。ちゃんと対処できるようになってからこれは使うようにしたから大丈夫だぞ」

『わ、わたしは……』

「その一人称の変化はあとで訊くとして、今はこれをどうにかしないとな。あ、こっちが使えれば神の攻撃も防げるぞ」


 あんまり言葉が上手く纏まらなかったな。
 言葉として口に出した時点で、伝えたいこと全てが伝わらないことは分かってたし……別に良いけど。

 おっと、早く処理しないと。まずは彼女の位置に移動してーっと。
 無詠唱でも良いが、ここはどんな技なのか理解してもらえるよう、再び口に出した方が良いよな。

 少々決めポーズとして右手を前に突きだして綴る――


「全てを喰らえ――"崩喰の牙コラプスイーター"」


 体から何かがごっそり抜け落ちる感覚と共に、目の前にあった虚無の玉は消失した。



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