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山田 武

偽善者と地中戦闘 後篇



 千の軍勢を相手に、俺は無数の武具を引き連れて挑み続ける。 

(――"バーニングスラッシュ""貫通槍撃""波状槌""天華武斧""嵐獄廻矢"……)

 四方八方に広がるロボットたちは、俺の攻撃パターンを読み取り対策を立てようとしているのか、自分の仲間たちが破壊されるのも厭わずに攻撃を続けている。

 ……数が減らない無限の兵隊ならば、それもまた一つの手なのかも知れないな。
 実際一度使った武技に対しては、何だか対策を取られている気がするし。

 だが【七感知覚】によって周囲の地下に製造工場があり、それを壊せば増えないということを俺は知っている。
 ――つまりこれは、俺使うタネ技術が持つか、ロボットの数が持つかの勝負なのだ。
 剣、槍、槌、斧、弓と持ち替えて、まずは周囲を綺麗にしていく。

(――"燕返し""覇砕拳""ファングクロー""ステップスタブ""ダークサイス"……)

 特別な装備スキルが無い武具を握った場合は、自身がストックしてある武技を発動し、一度限りでの披露を行う。

 刀、拳、爪、短剣、大鎌を振るい、近付いてくるβの軍勢を破壊する。

 ……一旦、武技の方は止めるかな?

 そう考えた俺は攻撃用のスキルを持つ装備の名を呼び、周囲に呼び集めていく。


「――"天叢雲"、"天羽々斬"、"クラウソラス"、"エクスカリバー"、"フラガラッハ"、"リジル"……」


 古今東西あらゆる刀剣が、柄を俺の背中側に向けて輪を描くように展開される。

 名を呼ばれた刀剣たちは一時的に『偽』という枷が外れ、本物と同等の力を俺に披露してくれるようになるのだ。


「世にも珍しい伝説のパレードだ。楽しませてくれよ!」


 刀身に雲が発生する刀や、黄金色に煌く剣等々……一本一本が無双プレイを可能とする代物ばかりだ。


「"刈り取れ"、"割き斬れ"、"舞い踊れ"、"光輝け"、"斬り裂け"、"刳り貫け"……」


 これらは『グレイプニル』同様に、模造武具シリーズにはコマンドを発することで、内包された力を発動できるような仕掛けが施されている。
 その仕掛けを解放した武具たちは、俺がパクりアレンジした異常な力を発揮していく。

 ある刀はその姿を鋭い大刀へと変え、γが放つ光弾を斬っていく。斬られた光弾は大刀の中へと吸い込まれていき、刀身に何らかの模様が出現する。

 ある刀は柄から八本の刀身が出現し、九つの斬撃を同時に放っていく。βが盾で受けようとするが、触れた刀身は霞のように消えてしまう。しかし斬撃だけはそのままβへと向かい、その機体をチーズのように割いた。

 ある剣は剣そのものが分裂し、宙を舞ってロボットへと襲いかかる。縦横無尽に飛び交う姿は、まさに舞い踊るようである。

 ある剣は細めの両刃直剣へと姿を変え、なおいっそう光を輝かせる。一閃した先で構えていたロボットたちは、まるで元々そういった形体であるかと錯覚する程に美しい断面を残して斬られていた。

 ある剣は独りでに鞘から抜け、俺の手元へとやって来る。それをロボットたちへと投げつければ、剣自らロボットたちへ攻撃を行ってくれている。

 ある剣はロボットへと触れた途端、急速に魔力を奪い取っていた。触れられたロボットはそのまま行動不能になり、ただ破壊される時を待つ状態となる。……再び再起動することは決してない。何故なら、再起動する為の動力源が失われているのだから。

 他にもそれと同等の力を振るう刀剣が数十本存在し、それぞれが力を発揮する。
 それら全てを"不可視の手"で(掌握)し、同時に使い道を切り開いていく。


「ふはははははははははは! どうだリア、圧倒的ではないか我が軍は! ……魔力消費が半端無いから、あんまり使えないけどな」

《そういう最後の部分があるから、君独りにしたくないんだ。せめて隠そうとする努力はしてくれよ》

「そう言うなって、今回はお披露目用に多めに用意したから消耗しているが、数を絞って使えばかなり効率が良いんだ(――"ロンギヌス"、"グングニル"、"ヴァジュラ"、"ゲイボルグ"、"ブリュナーク")」


 刀剣のコントロールを無意識に委ね、俺自身は槍を呼び集める。


「"死を示せ"、"追いかけ貫け"、"雷電よ噛み付け"、"降り注ぎ破裂しろ"、"雷光を貫け"」


 膨大な魔力を吸い取り、伝説に彩られる力が現世へと再来する。
 ロボットたちは新たな武具に襲われ、大破する数が一気に増える。

 ――だが、一つ問題が発生する。


「リア――――飽きた」

《……いつかはそう言うと思っていたけど、君はぼくたちが絡まないとすぐにそうなるんだね》


 長時間の行動は、俺の無いやる気を削いでいく。
 俺の頭の中は現在、【怠惰】な感情でいっぱいになっている。


「本当だったらもっと早くこうなると思うんだが、リアへの証明がお題だったからな。いつもより長めに戦えたわ。あ、そうそう、俺の重荷にはならなかっただろ? というか、俺はお前達が何かしてくれって言わないと、基本的にダメ人間だからさ。言ってくれた方が俺としても嬉しいんだよ」

《そこを先に言えば、ぼくも気が楽になっていたんだけど……》

「……そっか。何はともあれ無事解決だ。さて、もう終わらせよう――"イニジオン"」


 もう疲れた、一気に消し飛ばそう。
 "百花繚乱"を解除し、俺が一から創り上げた神器『イニジオン』を取り出す。


《メルス、少し雑になってないかい?》

「んぁ? リア達への配慮は欠かさずやっていると思っていたがな。ロボットへの配慮はもう充分だろ。アプリの方に綺麗に回収したヤツとか、ジェネレーター単品とか、俺なりに視た設計図とかも用意したから、あとで楽しんでくれ――"終極開思"」


 コマンドを口遊んでから、トリガーを引き弾丸を放つ。
 すると、弾丸は数え切れない程膨大な数へと増加し、全てのロボットを活動停止状態へと追いやる。
 さらに、弾丸はロボット達が製造されていた建物内まで飛んで行った後、工場をもロボット同様に動かぬ物へと変えていった。

 "終極開思"……それは『神銃イニジオン』の持つ能力――その一つ・・・・である。
 俺がイメージした終わりの光景を、放たれた弾丸一つで全て達成する最強の弾丸。
 魔力さえあれば、何をするのも可能な最凶の弾丸。

 ま、最強が幾つもあって比べられないが。
 あくまで俺みたいなモブから見れば、全部が最強っぽいってだけだ。
 最強とか最凶と説明したことに特に意味はない。


《……力の方も、その弾丸一つで安心できたね。まさに主人公って感じだったよ》

「イニジオンは主人公っぽかったな。俺、完全に銃に使われる側だったよな」

《そ、そんなこと、ない、よ……》


 否定してくれよ……。
 駄目だ、いつも通りツッコむ気力すら俺には残ってない。
 一応休めばすぐに治るぐらいだが、やる気が減ってるからな。


《そ、そうだ! メルス、早く『吸血龍姫』とやらを探さないと!》

「ん。でも、その前に休んでいいか? 少し眠くなってきてさ」

《……ぼくみたいに、ずっと寝ないよね?》

「大丈夫大丈夫。ちょっと質問に答えられなくなるだけだ。上の空になってやる気をどこからか補充する……そうしないと多分負けそうだからな」

《そう、なら良かった》


 心配そうなリアののイメージがとても嬉しく感じるな。
 引き籠っていた本人が、逆に同じ状況になりそうな人を心配できるようになったなんてな……成長しているよ、リアは。


「それじゃあ、やる気と意識が戻ったら連絡するからな」

《ちゃんと連絡するんだよ》

「りょうか~い」


 イニジオンによって真っ平らになった地面の上に『魔の布団』を敷いて、俺はゆっくりと目を閉じた。
 嗚呼、心地よい眠りが俺を包み込む。



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