AllFreeOnline〜才能は凡人な最強プレイヤーが、VRMMOで偽善者を自称します

山田 武

偽善者なしの偽善者戦 その05



 暴かれた偽者のステータスであるが、解析班によって、新たに偽者に関する情報がプレイヤーたちに知らされることになる。

 まず、Lv表記のされていないスキルや職業の大半が発動不可能であること。
 次に、今偽者が使っているスキルの一部が装備アイテムによるものであること。
 最後に……偽者が正真正銘のモンスター扱いの存在であり、プレイヤーである『試練の魔王』とは無縁の存在であることだ。

 一つ目は要するに、Lv-のものが機能していないということである。
 HPの一定以上の低下による起動もあるのでは? と疑う者もいたのだが、そこに関してはHPが豊富にある現在は、検証のしようが無いので考えられずに放置された。

 またその情報により、一部の者は能力をコピーされないことを理解した。
 プレイヤーの大半は知らないが、元となった本者は『模倣者』とも呼ばれている。

 その名が意味する通り、本者は相手が持つスキルや職業を模倣し、使用することが可能である。
 かつて闘技大会でプレイヤーたちの能力をコピーし、そう呼ばれるようになった。
 ……プレイヤーたちが呼ぶ『試練の魔王』とは異なる姿(まあ、こちらが変装した姿なのだが)で無双していたため、その真実を知る者は少ない。

 二つ目はプレイヤーたちを興奮させた。
 装備アイテムとして存在するのなら、自分たちも使えるようになるのでは? と。
 ……実際のところ、偽者が使っている装備アイテムはドロップアイテムとして登録されている。
 運営は本来、本者が所持する聖・魔武具や神器を完全にコピーしておきたかった。
 だが、特殊な方法で生成されたそれらのアイテムをコピーすることはできず、今までのイベントから推測される能力を持たせた装備アイテムを、遺憾ながら偽者に装備させた。

 三つめは、プレイヤーに安堵を与える。
 相手はプレイヤーでは無いのだ。
 AFOのスキルには、相手が敵か味方か、魔物か人かなどが分かるスキルが存在する。
 それらを偽装するスキルが存在するため、プレイヤーたちは相手が本者かどうかを疑っていた(一部の者は有名プレイヤーをキルできると言って喜んでいたが、それは極一部の界隈だけである)。

 プレイヤーの中で、こうして敵として聳え立つ存在が現れる……自由を奪われ戦いを強要される。
 All Free自由とは異なる現状に怯える者もいた。

 ……が、実際には違っていた。
 故にプレイヤーの大半は安堵したのだ。

 これからも、自由な世界を体験できる! そう思えたのだから。

◆   □   ◆   □   ◆

「――ッ、やっと来たか! 全員、一旦後方に下がってくれ! ……女神様の降臨だ」

 偽者のHPバーが八割を切った瞬間、その者たちは動き出した。

 ナックルは彼女たちへ偽者への道を譲り、後方へと下がっていく。
 プレイヤーたちもそれに倣い、後方に下がりつつ、彼女たちが通る道を開けていく。

 その様子は、さながらモーゼのような光景であった。
 逆らうプレイヤーは誰もいない。
 そうする気力を失う程に、衝撃を受ける景色が目の前に広がっているからだ。



「う~ん、師匠もどうして出撃に条件を掛けたんだろうね」
「どうせロクでも無い理由に決まってるじゃない。後から来た方がカッコイイとかの理由よ、きっと」
「……言ってそうだから怖いわね。でも、あのステータスを見ると、少し分からないでもないわ」
「お兄ちゃんより強い部分も、一応はあるみたいだしね」
「しっかし、アイツが神とはね……。なら、私たちはその使徒ってところかしら?」
「ならば、なおさら腕が鳴るな!」
「…………」

 統一された白い外套を身に纏い、彼女たちは空いた道を進んでいく。
 ある者はフードを被り顔を隠し、ある者はフードを取り外し堂々と歩く。
 プレイヤーたちが理解したことはただ一つのみ――彼女たちが美姫であることだけだ。

「おい、アレって……」「ああ、間違えねぇよ。あれは『極光の断罪者』と『無限砲台』だ」「ナックルさんたちとどうして一緒に居ないと思ったら、このタイミングで来るのかよ」「一緒にいる奴は一体何者だ?」「……(鑑定)は効かねぇ。正直言って、あのボスを調べた時以上に時間を掛けねぇと分からなさそうだ」「一体そんなレア装備、何処で手に入れたんだよ……」

 自身の近くを通って行く彼女たちを見て、プレイヤーたちは様々なことを思う。
 彼女たちの正体について、どうしてこのタイミングで現れたのか、装備の入手先について……本当に色々なことを思考していく。

「……さて、ペルちゃんはどうするの?」

「一、度、戦っ、てみる」

「まあ、それが無難よね」

 フードを特に深く被ったその者――ペルソナは、『極光の断罪者』と『無限砲台』――ユウとアルカにそう言われる。
 彼女たちの中で、今回本者に面倒な指令を受けているのは彼女なため、他の者も彼女の指示通りに動くように決めていた。

「えっ、と、ティン、スさ、んとオ……」

「……今更だけど、念話で話せば良いんじゃないの? アナタ、掲示板の方だと普通に話せたんだし」

「(……うん、これなら普通に話せる。オブリちゃんとアルカちゃんは、飛んでくる魔法の方をどうにかして。二人の魔法なら多分対応できる)」

「分かった~」
「了解よ」

「(ティンスちゃんとイアちゃんは、魔法陣を破壊して。強力な一撃があれば、多分すぐに壊れる)」

「任せなさい」
「分かったわ」

「(最後にユウちゃんとシャインちゃ……さんは、私と一緒にあの偽者を。偽者には、二人のスキルが通用するはずだから)」

「うん、やってみる」
「……ちゃんって呼ぶなよ。偽者なんて、直ぐに消してやる」

「(……ゴメン。じゃあ、みんな行こう!)」

『オォー!』

 彼女たちはペルソナの指示の元、それぞれが担当する場所へと移動し始めた。


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